表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生少女は色のない魔法で無双する  作者: 小谷草
第1章 色のない魔法使いは領地ですくすくと成長する
32/395

第32話 裏山へのお出かけ

「お姉様、聞きました? あのホルストお兄様が、ついに自分の専属護衛を選ばれたんですって。それがなんと、廃屋で助けた孤児の子供らしいんですよ。てっきり身分の高いものから側近を選ぶと思ったのに、かなり意外でした」


 アメリーが私の部屋で語りだした。ホルストは側近候補を紹介されても「僕にふさわしいとは思えない」とか言って断っていたそうなのに、まさか孤児を選ぶとは思わなかった。最近では礼儀作法を知らないその子に、かいがいしく教えているらしい。意外といえば意外だ。


「最近はお兄様も冷たいんですよ。お姉様と訓練するようになってからは、自主練習だと魔力制御ばっかりやってます。あんまりかまってくれないんですよね」


 デニスとアメリーはいつも一緒にいるようなイメージだけど、最近は私とデニスが一緒に修行するようになった。アメリーは置いていかれたように感じているのかもしれない。


「まあ、デニスも頑張ってるみたいだからね。そのうち、私を捕まえることもできるんじゃないかな」


 修行ではデニスの魔法に被弾することは少ない。私には示巌流の目があるし、魔法の流れが結構読みやすいからね。この間みたいに負けるのはレアケースなのだ。この前はあっさり被弾したけど、最近は避け続けることも難しくない。


 たまにわざと当たって無属性魔法の訓練をしているけど、私が意図的に当たっていることはバレているようだ。デニスにとって、私に攻撃を当てられないのがかなり悔しいらしい。ラーレに魔力板を借りに来たりホルストにコツを聞いたりしているみたいだ。


「私もこの修業のおかげで魔力を感じ取れるようになってきたんだ。デニスの魔力と接触したのがちょっとだけわかるんだよ。これならラーレみたいに結界を張ることもできるはずだしね」

 

 私はドヤ顔になる。


 魔力を感じ取れるようになれば、罠のように魔法を設置されても避けることができる。ぐふふふ。これで、魔法使いにも対抗できるようになるよね。


 成長を実感している私とは違い、アメリーには不満がたまっているようだった。赤い目を鋭くしながら私に言い募った。


「お父様もお母様も、『これからは短杖の時代が来る。短杖をしっかり使えるようになりなさい』とか言って、短杖の使い方ばかりを練習するように言ってくるんですよ。確かに短杖は便利ですけど、お姉様には全く通用しなかったですし・・・。あれを使って闇魔と戦えるとは思えないんですよね」


 両親世代にとって短杖は画期的な道具だった。あれを使えば、魔法陣をうまく描けなくても、強い魔法を撃つことができるからね。でもなぜか、おじい様やアメリーたちには不評のようだった。


「私には分からないけど、短杖ってすごく便利なんじゃないの? あれってたしか、高名な魔導士のカールハインツの魔法陣を模倣してるんだよね。誰でもカールハインツと同じ魔法を使えるなら。すごく便利だと思うけどなぁ」


 のんきにつぶやく私を、アメリーが睨む。い、いや、私は悪くないからね! 透明な魔力しか使えない私には、短杖なんて使えないし。


「確かに短杖は便利です。魔力を籠めるだけで素早く魔法を撃てるんですから。でも、使っててもあんまりしっくりこなくて・・・。私が使いたい魔法とは全然違う気がするんですよね」


 アメリーがよく分からないことを言い出した。いや、発動できるんならいいんじゃない?


 アメリーもうまく言い現わせていないと感じたのか、重ねて説明してくれた。


「なんか、短杖を使った魔法って、画一的と言うか・・・。あんまり個人用に工夫することができない感じなんです。どんなふうに魔力を込めても同じような魔法になるというか・・・。例えば、魔弾を放つときに絶対直進しちゃう感じなんです。古式魔法で撃ったらカーブさせたりあえてゆっくり動かしたりで、工夫の余地があるんですけどね」


 なんとなく、言わんとしていることが分かった。短杖は同じスピード、同じ軌道で魔法を撃つことはできるけど、魔法の軌道を曲げたりスピードを変えたりするのには適していないということだね。おじい様が短杖を使うのに否定的なのは、そう言うところかもしれない。


「一応短杖を使っても魔法を発動させられるけど、込めた分の魔力に見合ってない感じなんです。私には、今の短杖は向いていないのかなぁ」


 なるほど、ちょっと分かってきたかも。ホルストが前に短杖の使い方にも相性あると言っていたけど、それはカールハインツが込めた魔法にどれだけ近づけるかと言うことかもしれない。どんなに魔力が強くても、カールハインツの魔力と違っていては、変換に魔力を使うから強い魔法にはならないということか。


「まあ、そう思うんなら、アメリーはおじい様の古式魔法を練習した方がいいかもね。自分で魔法陣を描かなきゃだけど、その分自分の魔力に相性がいい魔法陣を作れるはずだから。便利だからって、新式魔法にこだわる必要はないんじゃない?」


 アメリーは考え込んだ様子だが、すぐに頷いた。


「そうですね。私には短杖を使った新式魔法は使いこなせない。そう思ったほうがいいのかもしれませんね。古式魔法ならおじい様は得意ですし、魔力の構築スピードも軌道も、自由に設定できますから」


 アメリーはすがすがしい表情で頷いた。うん。私と話すことで考えがまとまっていったようだ。大事な妹の役に立ったみたいで気分がいい。


 納得したアメリーは、私を上目遣いで見てきた。


「ちょっとおいしい空気を吸いたくなってきました。このあと裏山に行く予定ですが、今日はお姉様も一緒に行ってくれるんですよね?」


 アメリーはときどきこうして裏山に出かけている。両親からは「危ないから」と止められることが多いが、私が行けば護衛も増えるので、許可を得られる可能性は高くなる。打算を感じるものの、かわいい妹のためならそれくらいはなんてことはない。


「もちろん! 裏山で絵が描きたいのよね。 私が護衛するから安心して描くといいよ!」


 まだ小さいアメリーは、一人で裏山に出かけることはできない。1歳だけ上の私だけど、護衛付きなら裏山までなら出かけられるのだ。こうして外出に誘ってくれる存在は貴重だ。


「まあ、お姉さまの近接戦闘は頼りになると思いますから。でも危ないことはしないでくださいね。一応、護衛の方も付いてきてくれるそうですから。私の準備は済んでます。いきましょう!」


 アメリーが私の腕を引っ張る。さて、裏山まで行きますか。



◆◆◆◆


 川のせせらぎが聞こえる。木々の間から漏れる光は幻想的な雰囲気を醸し出している。


「お姉さま、見てください! 川辺が輝いて見えますわ。本当にいいお天気!」


 アメリーははしゃいでいる。ここ数日は雨の日が続いていた。今日は久々に太陽を見た感じがする。


「この石碑も相変わらずだね」


 裏山を上る途中に、たくさんの名前が書かれた大きな石碑がある。ここに記されているのは、30年くらい前の闇魔との戦いで散っていった戦士たちの名前だそうだ。私とアメリーは時折ここに来るけど、うちの家族や叔父一家はほとんどここに来ない。まあ、おじい様はたまに来ているらしいけど。


 護衛に来てくれたのはエゴンとグンターだが、2人はなにやら周りの安全を確かめに行ったので、ここには私たち姉妹しかいない。アメリーはさっそくスケッチブックを取り出した。そして真剣な目で森のスケッチを始める。


 こんな風に、アメリーは定期的に屋敷の外に絵を描きに来る。私は彼女の描く絵が好きだ。あんまり芸術的なことは分からないけど、妹が楽しそうに絵を描いているのを見ると気持ちが落ち着く。


 絵筆を動かす彼女をなんともなしに見つめながら、私も魔力の循環訓練を行った。うん、今日も順調だね。この分なら、無属性魔法の結界を作れる日も遠くはないのかもしれない。


「そういえば、護衛が戻ってくるのが遅いね。まあ顔見知りのエゴンが来てくれたのは安心だけど、いつもより数も少ないみたい。なんかあったのかな?」


 私が何気なくつぶやくと、アメリーも心配そうな声を上げた。


「護衛の数が少ないのは、ホルストお兄さまが町に出ていったかららしいですけど、言われてみれば遅いですわね。獣でもいたのかしら」


 そう言って周りを見渡した時だった。


「ぐおおおおおおおおおお!」


 茂みの中から、2匹の魔物が飛び出してきたのは――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ