表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生少女は色のない魔法で無双する  作者: 小谷草
第6章 色のない魔法使いとヨルン・ロレーヌの回顧録
319/395

第319話 乱入者

すみません。ちょっとだけ文章を追加しました。

「う、うそだ・・・。おじい様が! おじい様が!」


 私は思わず叫んだ。レインカネルの攻撃で、あの強いはずのおじい様が、あっさりと倒されてしまったのだ。


「ダクマー様! 危ない!」


 コルドゥラが刀を構えて慌てて私の前に出た。


キイイイイイン!


 武器がぶつかる音が響いた。


 ブルクハルトの一撃を、コルドゥラが防いだのだ。


「な、何でブルクハルトが! 護衛はどうしたの?」


 慌ててブルクハルトの後ろを見た。そこにはたくさんの剣士が倒れていた。見知った顔が何人もいた。ビューロウの剣士たちがブルクハルトに倒されてしまったのだ。


 そして――。


「う、うそだよね? エゴン? なに、倒れてるのよ」


 コルドゥラの父、長年おじい様の護衛をしていたエゴンが地面に倒れていたのだ。


 エゴンはピクリとも動かない。彼の周りの地面は黒く染まっていた。あれはまさか、大量に出血しているとでもいうの!?


「ダクマー様! 脇差を! ブルクハルトが来ています!」


 前からコルドゥラの悲鳴のような声が聞こえてきた。


 私は慌てて脇差を抜き放つが、次の瞬間にはコルドゥラが勢いよく吹き飛ばされた。


「くはははは! 多少はやるようだが、所詮は王国の雑魚どもだな! 我には一撃も与えられなんだわ!」


 ブルクハルトが大笑いしている。


「しかし、たいしたものだな! この世界樹の守りというやつは! 貴様らの攻撃がまるで届かんとはな! この守りがある限り、貴様たちは我らに傷一つ付けることはできぬ!」


 にやけた面でそう言うと、ぎょろりとした目で私を睨んだ。


「だが、この守りすらも破れる剣士がいるとはな。確かに脅威だな。ふん! 戦場で呆けるようではまだまだ未熟よ! 我らの邪魔をする貴様は、ここで倒させてもらうぞ!」


 言うや否や一歩踏み出し、大剣を勢いよく振りかぶった!


「お、お嬢様!」


 コルドゥラの悲鳴のような声が聞こえてきた。


 私は脇差でなんとか防ごうとするが、この魔鉄の武器でアイツの一撃を防げるかどうか――。一撃に、相当量の魔力を込めているようだ。


 私は防御態勢を取りながらぎゅっと目をつむってしまう。


 しかし、ブルクハルトの一撃は、いつまで経っても私にはおりてこなかった。


「え・・・。なんで!」


 恐る恐る目を開けると、そこには信じられない光景が広がっていた。


 私の前に現れた男が、ブルクハルトの一撃を受け止めていた。


 その男は剣を振るってブルクハルトを狙った。ブルクハルトはその一撃を後に飛んで躱し、男に向かって大剣を構えた。


「貴様! どういうつもりだ! なぜ我の邪魔をする! この小娘の命を奪う、絶好の機会なのだぞ! まさか仲間の攻撃を遮るとはな!」


 ブルクハルトが唾を飛ばしながら叫んだ。私もそのやりとりを茫然と見つめていた。


 コイツが、そんな動きをするとは思えなかったのだ。コイツが、私をかばうような動きをするだなんて!


「貴様が仲間? 貴様とワシが、一度でも仲間であったことがあるのか? 今も、ワシの命を平然と無視したばかりだろうに。そんな貴様を粛正することに、何の不思議があるというのだ」


 ブルクハルトは激高した。


「ふざけるな! 誰が敵なのか分からんとでもいうのか! その上、魔力障壁も展開せずに行動するなど、バカにしおって! この平民が! 戦いというものをまるで理解しておらぬ!」


 正直、私は混乱していた。だって、こいつは、さっき私の祖父を斬ったばかりなんだから!


「なんたる無知! なんたる高慢! これが貴様の特性だとでもいうのか! なあ! レインカネルよ!」


 ブルクハルトに攻撃を仕掛けてきたのは、あの魔王レインカネルだったのだ――。



◆◆◆◆


 目の前で、レインカネルとブルクハルトが戦っている。


 ブルクハルトの大剣の一撃をレインカネルは余裕で見切り、レインカネルの斬撃はブルクハルトにダメージを与えていく。ブルクハルトはすさまじく強固な魔力障壁を纏っているはずなのに、レインカネルの一撃はあっさりとブルクハルトを傷つけているのだ。


「どうした! 帝国の大将軍とはこの程度だとでもいうのか! 貴様が戦えるのは魔物のおかげということだな! 情けない。腕が泣くぞ!」

「だまれ! 小童が! 平民無勢に我が倒せると思うなよ! 貴様ごとき、簡単に斬り捨ててくれるわ!」


 レインカネルは鼻を鳴らすと、勢いよく剣を振り回した。ブルクハルトは必死で攻撃を捌こうとしているようだが、着実に追い詰められていっているようだった。魔力障壁をものともせずに、一撃ごとに鎧を裂き、キズが広がっていく。


「おのれ小童が! 貴様も剣の錆にしてくれるわ!」


 ブルクハルトはレインカネルを睨みながら自分が持った袋の中に手を入れる。そしてひと塊の肉を取り出すと勢いよく食らい始めた!


「貴様ごときが、我に楯突こうなど! 格の違いを見せてやるわ!」


 肉を食らいつくし、骨を横に投げつけながらブルクハルトはレインカネルを睨んだ。


 でもレインカネルは冷めた顔で、冷静な目でブルクハルトを見つめている。


「貴様の底は見えたな。そろそろやるか」


 レインカネルは武器を隠すように脇に剣を引き付けた。


 戦意が高まっているのを感じる。あの構え! なにか、技を放とうというのか! 羆崩しとは違うように見えるけど、相当な力と魔力を集中しているのが分かる。


「くっ! 貴様ごときに!」


 ブルクハルトはそっと足を踏みしめた。


 あいつ! あの場からさらに下がるつもりか! そのまま後ろに飛んで、レインカネルの技を裂けようというの! 


 しかしレインカネルは慌てない冷静な目でブルクハルトを見続けていた。


「食らえ。示巌流、5の秘剣」


 言うや否や、レインカネルが腰をひねる。そして鋭くブルクハルトを睨むと・・・。


「狼殺し!」


 大きく一歩踏み出し、勢いよくけさぎりの斬撃を放った!


 ブルクハルトは後ろに飛んで躱そうとしていた。だけどレインカネルの秘剣からは逃れられない。後ろに飛んだその姿勢のまま、左肩から右わきに掛けて斜めに斬り裂かれた。


「ば、バカな! き、貴様! なにを、考えておる!」


 体を斬られたブルクハルトはそれでも着地するが、1歩、2歩と下がる。そして茫然としている間に、傷口から大量の出血があった。


 ブルクハルトは崩れ落ちた。そして地面に倒れると、その体が輝きだし、光の粒子となって消えていく。


 ブルクハルトの死骸があった場所には、あの大剣だけが残された。


「ど、同士討ち? なんで!」


 叫ぶ私を、レインカネルが冷たい目で睨んでいた。


「ふん。命令を聞かぬ愚か者を始末したまでだ。帝国の将軍なぞ、私の命令を聞くはずもないからな」


 そう言って剣をさやにしまう。


「な、なんで・・・」


 こいつ! なんだ!? おじい様を斬ったくせに、私を助けたとでもいうのだろうか・・・。


「あ~あ。やられちゃった。せっかく、100年ぶりに復活させてあげたっていうのに」


 幼い声が聞こえてきたのはそんな時だった。私はぎょっとして、反射的に声がしたほうを見つめた。


 黒い髪の、一人の少女。その容姿はとても整っていて、なんだかドレスのようなものを着ている。少女がいたのはブルクハルトが消えた位置。ブルクハルトの大剣を軽々と持ち上げて、横目でレインカネルを睨んでいる。


「ねえ。何のつもりかな。私は仲良くやれと言ったはずだけど? まったく。神鉄の武器があるとはいえ、復活も簡単ではないのよ?」


 おどけたように言う少女を、レインカネルは歯を食いしばりながら睨んでいた。でも少女はその剣幕を恐れることなく尊大な口調でレインカネルに声を掛けた。


「まあいいわ。そこの小娘をさっさと仕留めなさい。私はこれでアイツを復活させなきゃいけないから。後始末はちゃんとしておくのよ」


 そう言うと、少女はブルクハルトの大剣と一緒に消えていく。まるでそこには初めから誰もいなかったように見える。だけど、確かにそこにはブルクハルトの大剣があったはずだ。


 そしてレインカネルだ。レインカネルは少女の言葉に逆らうかのように力を入れていたが、やがて脱力して下を向く。そして顔を上げると私を睨み、ジワリ、ジワリと近づいてくる。


 思わず後ずさる私の前に、コルドゥラが立ち塞がった。


「お嬢様。私は、あなたに仕えられて幸せでした! あなたなら、きっとなんだってできます! ご武運を!」


 コルドゥラがレインカネルを睨んだ。


「きああああああああああああああ!」


 コルドゥラが気合を入れた。そして私が止める間もなくレインカネルに飛び掛かろうと一歩足を踏み出した!


 でもその時だった。一人の男が私とコルドゥラを追い抜いていったのだ。


「させるか!させるかよぉ!」


 私たちを追い抜いていった影――ホルストが、レインカネルに飛び掛かっていく。レインカネルもホルストの動きに面食らったようで、思わず足を止めた。そしてホルストの一撃を剣で受け止めた。


 ホルストは一撃を止められたのが分かると、あっさり後ろに飛んで大剣を構えた。


 レインカネルはすぐに落ち着いた表情になった。でも、アイツの顔に薄い一筋の赤い線ができていた。ホルストの剣は、レインカネルの額を薄く斬りつけることに成功していたのだ。


「ほう。貴様はダーヴィドの末か。この私に傷をつけるなど、やるではないか!」

「はっ! ビューロウの剣はお前たちを殺すためにあるのさ! おじい様のかたきだ! お前ごとき、すぐに葬ってやるよ!」


 そしてホルストはこっちに向かってささやいた。


「ダクマー。これから僕の使う魔法とその詳細を、母に伝えてくれ。君は魔法を使えないけど、しっかり勉強したのは知ってるからな。母ならちゃんと答えを言ってくれるはずだ。僕の、最後の頼みになるかもしれない。頼んだぞ」


 不吉なことを言いながら、ホルストはレインカネルを睨みつけたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ