第306話 アルプトラウム島での宝探し
「ねえ! なんか見えてきたけど、あの島かな!」
「ええと、ああ! そうだな! 多分あれだ。あの島が、ランドルフが言っていた財宝を隠した島だと思うぜ」
私の問いかけにギルベルトが地図を見ながら答えてくれた。
私たちは今、船でランドルフの遺産を探している。他の人たちが町を攻めている合間に、エレオノーラの指揮で探し物をしているんだよね。
あのランドルフとの一戦からしばらくして、王都からアウグスト殿下が兵を率いてこっちに来てくれた。そこからアルプトラウム島への侵攻が始まって、王国軍は町を次々と落としていったんだ。
ちなみに町の人の反応はというと、けっこう大歓迎だった。闇魔たちは圧政を敷いていたらしく、町の人はそこから解放してくれたうちの軍を歓迎してくれたんだよね。
「でも意外だったよね。あんなに外道だったランドルフが、結構いい領主だったりしてたみたいだし。ランドルフが倒れたって言うと微妙な顔をされたりしてさ」
「ランドルフだけじゃない。闇魔の四天王の領地はそんな感じだよな。他の領地に比べて理不尽なことも少なかったみたいだし。やっぱり闇魔のことはよく分からんね」
侵攻に関しては、相変わらず私の出番は少ない。やっぱりビューロウ家が功績を上げ過ぎるのは問題みたいで、おじい様からも私の出撃は止められていたりするんだ。
「ほら! ぼさっとしないで上陸の準備を始めるわよ。バルトルド様をあんまり待たせるわけにはいかないんだからね」
エレオノーラが興奮する私たちを窘めた。
ランドルフの遺産を探しに来たのは、私とエレオノーラとギルベルト、そしてオティーリエだ。ラーレはおじい様の手伝いで忙しい感じだし、マリウスもなんか治癒で忙しく働きまわっている。むしろオティーリエの動向が許された方が意外だったりするんだ。
「でも宝探しなんてなんだかワクワクするね! こうやってみんなと旅するのもなんだか楽しいし! なんだか冒険って感じがするよね」
オティーリエが興奮したように言った。
「そだね! よし! どっちがお宝を見つけるか競争だ! 負けないかんね!」
私とオティーリエは笑いあった。宝探しって言うと、なんだか子供のころに戻ったようで興奮するよね。
「おい! なんだあれ? なんか見知らぬ船がこっちに向かってきているぞ」
船の周りを確認していたギルベルトが叫んできた。
私はつられるように船の工法を眺めると、一隻の船がこちらに近づいてきているのが分かった。
「あの旗は、アルプトラウム戦線? たしか、ヴァルト族の集団で、こっちで闇魔に最後まで反抗していた勢力だよね?」
「ええ。確かリーダーのオスカーとはお父様が頻繁に文を交わしていたはず。こっちを探索するのも連絡済みのはずだけど、何かあったのかしら」
エレオノーラの言葉に、私は再び船を見つめた。厄介なことにならなきゃいいけどなぁ。
◆◆◆◆
舟には人がいて、手を振っている様子だった。あれはハンドサインだね。敵じゃないことを表しているみたいだけど・・・。
私たちの船は無人島に着岸した。そこから少し離れた場所に例の船が止まると、その船から5人の男たちが降りてくるのが見えた。みんな耳のとがったるから、ヴァルト族だね。
中心にいる背の高い男が私たちをねめつける。かなり整った顔立ちに見えるけど、なんか嫌な感じだ。私たちを不躾に値踏みしている気がした。
「お前たちが、王国から来た学生貴族だな。俺はルドガー。アルプトラウム戦線をまとめるオスカーの息子だ。お前たち、ここで変なことしてないだろうな? ケツの青いひよっこが単独行動するなんて何考えていやがる! お前たちごとき、あっという間に闇魔に襲われちまうぞ! 大人しくこっちについてこい!」
なんだ、こいつ。なんか無駄に偉そうなんだけど! エレオノーラもそう思ったようで、急に慇懃無礼な態度になった。
「それはご苦労様です。ですが、私たちはオスカー様の許可は得ていますし、あなたたちの案内を頼んだ覚えはありません。ロレーヌ家は代々あなたたちの活動を支援してきたのですけど、それも無用だったようですね。どうぞ、お帰りになって」
エレオノーラがそう言い放った。ルドガーは一瞬呆けたようにエレオノーラを見た。そしてあわてたように言いつくろった。
「い、いや、なにもロレーヌ家に文句があるわけじゃない。俺達は、ここいらの地理に詳しい。万が一闇魔に襲われても、きちんとしのげるさ。お、おま・・・、君たちは安心して俺達を頼るといい」
なんだこいつ。エレオノーラがちょっと美人だからって、あっさり態度を変えやがって! エレオノーラも不機嫌さを隠さずにルドガーに返事をした。
「結構です。こちらは闇魔と戦うために準備してきましたし、現に闇魔を何体も倒しております。風魔法の使い手もおりますし、あなたたちの世話になることはありませんわ。どうぞ、お帰りになって?」
そうだよね。風魔法の達人のギルベルトがいてくれる限り、私たちが道に迷うことはない。魔法で簡単に場所が分かるからね。
取り付く島もないエレオノーラを見て、私とオティーリエはひそかに笑い合った。
でもルドガーはあきらめずにエレオノーラを説得しようとしている。
「いや、ここはアルプトラウム島に近い。高位闇魔にだって出会わないとは限らないんだぜ? 無理せずに、俺達に守られろよ。学生なんぞに、闇魔は荷が重いだろう?」
うー。こいつ、ちょっとしつこい! 私が切れそうになっていると、ギルベルトがいきなり叫んだ。
「やっぱりここにランドルフが来てたみたいだぜ! 闇のあの術式で隠蔽しているみたいだが、僕の目をごまかせるほどじゃあなかったよ! エレオノーラ、いいか? あの魔法を試してみたいんだけど!」
お、おおう。ギルベルトはルドガーのことなんか気にせず調査を続けていたようだった。
エレオノーラもルドガーを無視するかのようにギルベルトに応えた。
「ええ。何か手があるなら試してみましょう。あんまり待たせると、バルトルド様に申し訳がないからね」
返事を聞くや否や、ギルベルトが魔力を展開する。濃い風の魔力だ。ルドガーたちからどよめきが起こる。これだけ濃い魔力を見たことはないのかもしれない。
「隠された秘宝を見つけ出せ! フィルデン・サチャーズ!」
ギルベルトの右手から、風の魔力が広がっていく。ルドガーたちは思わず顔を手で覆っていた。
緑の魔力はギルベルトを中心に広がっていった。そして、海岸にある大岩に当たると、光の柱になって上っていく。
「そこだな。ランドルフが向かったのはその場所だ。おそらく、その岩の下に隠し部屋があるはずだ」
その岩は、かなりの大きさがあった。ここにいる全員が力を合わせても動かせなさそうだけど・・・。
うん、ここは私の出番だね。
「じゃあ、この岩をどかすね。ちょっと下がってもらえるかな」
私は茫然とするルドガーたちを押しのけて岩の前に立った。
「お、おい! お前みたいな小さい奴に、こんな大きな岩が動かせるはずがないだろう! それに、この下に何かあるわけないだろ!」
ルドガーがうるさく言い放つ。もう、邪魔だなぁ。
「私たちにはやるべきことがあります。申し訳ないですが、下がっていただけますか?」
エレオノーラがにっこりと微笑みながら言った。ルドガーたちは顔を赤くして、それでも大人しく下がってくれた。さすがエレオノーラだね。
「さて。やりますか」
私は無属性魔法を体中に展開した。
「はああああああああああ!」
私は両手で大岩を押し出した。さすがに大岩は簡単には動かなかったが、少しずつ、位置をずらしていく。
「な、なんだ! この岩、どれだけの重量があると思ってるんだ!」
岩は私の手に酔ってゆっくりと移動していく。10メートルくらい岩を動かすと、床には下り階段があった。
「こ、こんな大岩を動かすなんて。それに、本当に隠し部屋があるなんて・・・」
驚愕するルドガーを無視するように、エレオノーラが明かりをつけた。すると彼女の護衛が一礼して明かりを受け取り、地下室に降りていく。
「なんかわくわくするな。どんなお宝が隠されているのか」
ギルベルトが笑いながら、護衛の後に続いた。
「私たちも行こうか」
エレオノーラに尋ねると、彼女も笑顔で頷いてくれた。オティーリエも楽しそうに後に続いてくれた。
「ま、まて! 俺達も中を確認する! 勝手なことをするな!」




