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転生少女は色のない魔法で無双する  作者: 小谷草
第5章 色のない魔法使いと北での戦い
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第296話 死闘

昨日ですが、今更ながらたくさんの誤字脱字報告をいただいたことに気づきました。

文章を修正させていただきました。

ありがとうございます。

「次はあそこだね!」


 私は次のターゲットを決めた。動こうとした瞬間、私の後ろを炎が通り過ぎていった。


 これはハイデマリーの援護!? 炎で、私を狙うやつらをけん制しているんだね!


「全員! 全力でビューロウを援護しろ! 私たちの手で、この戦いを勝利に導くぞ!」


 ハイデマリーの声が響いた。そしてそのとき、海から水蒸気が噴き出ていることに気づいた。水蒸気が霧となってあたりに充満している。これ、多分ハイデマリーの魔法だよね? ラーレのあの魔法ほどじゃないけど、魔法で相手の視界を防いでくれているのだ。


「あいつ・・・。やっぱり炎の魔法使いとしてはアメリーより一段上ね。同じ星持ちなのに、いろんな手札を持ってる。攻撃も援護も思いのままなのね」


 ハイデマリーの船を振り返った。でもハイデマリーと目が合うと、アイツはすぐに怒鳴り声を上げた。


「ぼさっとするな! お前にはお前にしかできないことがあるんだろう!」


 私は思わず首をすくめた。


 悔しいけど、アイツの言う通りだ。茫然としている暇なんてない! 一刻も早く、ランドルフの元に行かなきゃいけないんだ!


「てああああああああああああ!」


 私は船を飛び出すと、前方の船に向かって駆け出した!


 次の船からはこれまで以上の魔力を感じる。ランドルフの側近の高位闇魔が待ち構えているのかもしれない。


 でも、相手が高位の闇魔だろうと関係ない! 相手を斬らなければやられるのはこっちなんだ!


「きえええええええええええええええええ!」


 私は腹の底から声を上げた。


 そして素早く船を駆け上がると、待ち構えていた闇魔の頭上に刀を振り下ろした!


「秘剣! 『羆崩し』!」


 モーリッツとの戦いで私も学んだんだ! 羆崩しは、殺すか殺されるかの技。後のことなんて考えずに、刀を振り切るべきなんだ!


「!!!!!」


 私の秘剣は上位闇魔の魔力障壁を打ち破り、闇魔を縦に斬り裂いた。


 崩れ落ちていく闇魔を見て、その部下が思わず後ずさりした。私はすぐに呼吸を整えると、そいつらを軽くけん制して次の船へと向かう。


「こいつらにかまっている暇はない! ほっといても、ハイデマリーたちが片付けてくれるだろうし! すぐにでもすぐにでもランドルフの元に行かないと!」


 そして私の読み通り、次の瞬間にはこの船に王国側からの魔法が浴びせられた。ハイデマリーが、残った魔物に攻撃を仕掛けたのだ。リーダーがいない船ならあいつでも倒せると踏んだんだろうけど、隙を逃さずに攻撃する姿は見事だった。


 私はよろけながらも、次の船へと歩みを進めるのだった。



◆◆◆◆


「うおおおおおおお! いつまでも好きにやらせると思うなよ!」


 次の船の甲板に着くなり、闇魔が槍を構えて突進してきた。


 これはトライデントってやつかな? 三又の槍で、到着したての私に襲い掛かってくる。


「くっ! やる! でも!」


 私は槍の一撃をなんとか躱した。無属性魔法で内部強化した体は、相手の予想以上に素早い動きを可能としている。常人にはない反射神経で、攻撃を躱すことだってできるんだ!


 避けると同時に刀を下段に構えた。


「秘剣! 『鷹落とし』!」


 斬り上げた剣閃は、闇魔の体を簡単に両断した。


 多分、こいつも高位の闇魔だったのだろう。 魔力障壁を斬るときにかなりの抵抗があったから。でも、私の示巌流なら闇魔を一撃で斬ることも不可能じゃない! 悪いけど、ランドルフと戦うためにかまっている暇はないんだ!


 高位の闇魔はそのまま粒子となって消えていく。だけど、その部下の戦意は衰えない。


「怯むな! ラインマー様のかたきだ! その狼の娘を殺せ!」


 かたきを討とうというつもりなのか、一斉に私に襲い掛かってきた。面倒だけど気持ちは分かる。私だっておじい様を傷つけられたら全力で反撃するだろうから。


 でもね!


「今はお前らなんかにかまっている暇はない! 邪魔を、するなぁ!」


 私は刀を振り回し、襲い掛かってきた船の闇魔を斬りつけた。


 船の闇魔はあっさりと私の手にかかっていく。


 近づいてきた敵はカウンター気味に切り捨て、遠くから魔法を放つ相手には素早く近づいて刀を振るう。闇魔たちは驚くほど簡単に私に倒されていったのだ。


「そうか。こいつらは防御を捨てて戦うのに慣れている。だから、私の一撃を簡単にもらってしまうということか・・・」


 私はちょっと納得した。人間相手なら避けたり守られたりする攻撃を、闇魔も魔物も避ける様子がない。多分、強力な魔力障壁にいつも守られているせいで、防御するという考え自体がないのだ。


「時間が経てば私の攻撃にも対処できるようになるかもしれないけど、今なら!」


 私は歯を食いしばって残りの闇魔たちを睨んだ。闇魔たちは一瞬ためらったけど、意を決してこちらに向かってくる。中には私の攻撃を受け止めようとするやつもいたけど、その技術は未熟だった。フェイントを入れることで簡単に斬りつけることができた。


「この船の魔物は、もういないか・・・」


 私は荒く息を吐いた。そしてすぐに次へと向かおうとするが、一瞬力が入らず体を崩してしまう。


 正直、かなりへとへとだ。目がかすみ、体が重い。


 でも、ここが頑張りどころなんだ! 私は気力を振り絞って体を起こした。


「はぁ、はぁ、はぁ。なんとか、この船も制圧できたようだけど・・・」


 荒い息を吐きながらランドルフの船のほうを見る。すると、一艘の船が高速でこちらに向かってきているのに気づいた。最初に私が乗っていたボートより一回り大きいくらいか。多分、大型船に備わった避難用のボートみたいな船だろうけど、このタイプの船は小回りが利くし、スピードもかなり出ている気がする。


「あの剣士を止めろ! 決してランドルフ様に近づけるな! ここで防ぐぞ!」


 私が最初にやったように、体当たりをしてこの船を沈めるつもりか! このままだとまずい! 激突で衝撃を受けたら、私だって動けなくなるかもしれない!


「くっ! 向こうも必死ということだね!」


 避けられないと感じた私は、慌てて船から海へと飛び込んだ。


 間一髪! 私が海に入ると同時にすさまじい激突音が聞こえてきた。


 海の中からそっと振り返ると、闇魔の船に激突され、私が乗っていた船は粉々に壊されてしまったようだった。


「本当に、危なかった。あのままだったら船の体当たりでやばいことになってたかもしれない」


 私が乗っていた船の部品が至る所に浮かんでいる。ヴァッサーの連中が作った渦からは離れているが、足場になるような破片がいくつも浮いている。これを利用すれば、また海を走ってランドルフに近づけるはずだけど・・・。


「あの剣士が海に落ちたぞ! 探せ! あいつを仕留めるんだ!」


 闇魔の叫びが聞こえてきた。


「これはちょっとまずいかも?」


 もしあいつらに発見されたら、雨のように魔法を撃たれるだろう。そうなったら生き残ることができるだろうか。ちょっと難しいような気がするんだけど!


(まずい! まずい! 何とか見つからないようにしないと!)


 焦った私は、とりあえず海中に潜ることにした。


 海の中から海上を見回すと、遠くに人が隠れられるくらい大きめの破片が浮いているのを見つけた。突撃してきた船からも近いし、あそこからなら反撃の糸口をつかめるかもしれない。


 海上からはいくつもの水弾が撃ち込まれている。あれが当たれば危険かもだけど、闇魔たちは今の私の場所からかなり離れたところを攻撃している。とっさに海に飛び込んだけど、闇魔側には私の位置がばれていないようだった。


(あ! そうか! ハイデマリーの霧!! あの霧が闇魔の視界を防いでいるんだね!)


 私は納得して、奥に見えた大きめの船の破片のそばを目指した。正直、着衣泳はかなりしんどい。水を吸った服は肌になりついて、抵抗がかなり大きくなっている。


 でも、私には無属性魔法がある! 筋力を強化すれば、水中を移動することだってできるのだ!


(今がチャンス! 行くしかない!)


 破片のそばに到着した私はすばやく浮上した。そして船の破片を足場に身を躍らせると、突撃してきた闇魔の船に走り込む。 一瞬で船を駆け上がると、刀を一閃! 闇魔の一体を切り倒し、船の甲板に躍り出た!


 急に出てきた私を、闇魔たちはぎょっとした顔で睨みつけてきた。


「くっ! この娘、魔法のように消えたり現われたり! あの方と同じ存在だとでもいうのか!? いや、こいつがなんであれ、これ以上好きにさせるわけにはいかん! ここで確実に仕留めろ! ランドルフ様に近づけるなよ!」


 闇魔が命じる声が聞こえてきた。


 こいつ、おそらく名のある高位の闇魔だね! 闇魔のくせに執事みたいな服を着ているし。格闘術をたしなんでいるのか、拳を握り締めて睨んでくる。


 この闇魔に負けることはないだろうと踏んだけど、私は闇魔と目が合うと思わず後ずさった。


「なんだ? コイツ、なんかやばい」


 私はこの男に得体の知れない怖さを感じていた。実力的にはモーリッツと比べるほどではないようだけど、何かやらかしそうなやばさを感じるんだ。


「でも、ためらっている暇はない。コイツを倒せばランドルフに辿り着く! ここで怯むわけにはいかないんだ!」


 私は疲れた体にムチ打ちながら、刀を執事に向けるのだった。

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