第275話 モーリッツとの激闘
「ふん!」
敵の司令官――モーリッツは後ろに大きく飛びずさると、空中で動きを止める。そしてラーレを睨むと、足をかがめて勢いをつけた。
あいつ! またラーレを狙うつもりか! そんなこと、させるわけがないだろう!
「ダクマー!」
私がかばおうとした瞬間、ラーレがこっちらを振り返った。
そうだ! ラーレは無力な存在じゃない! この機会に、モーリッツを倒すことを考えるべきなんだ!
私は刀を横に構えた。今から飛び込めば、十分に間に合うはずだ。
「しゃあああああああ!」
モーリッツは勢いよく空中を蹴った。そして勢いよくラーレに向かって飛び出した!
鋭い動きだった。普通の魔法使いなら避けることもできないほどの速さだけど・・・・。
「ふっ!」
モーリッツの鋭い爪の一撃が空を切る。直前までラーレがいた場所には誰もいない。ラーレはあの足さばきで一瞬にして後方に移動したのだ。
「秘剣! 鴨流れ!」
隙だらけのモーリッツに、私は刀を叩きつけた!
きいいいいいいいん!
神鉄の武具同士が激突した。
すんでのところでガードしたモーリッツは、しかし勢いを殺せずに側面に吹き飛ばされていく。
「くっ! 逃がすか!」
吹き飛んだモーリッツを追撃しようとしたその時、私の横を影が通り過ぎた。
私はぎょっとしてしまった。影を目で追うと、ヨッヘムが闇魔に飛び蹴りを食らわせているところだった。モーリッツの仲間が、秘剣を撃って硬直した私を狙っていたのか!
「ほあああああああ!」
ヨッヘムが叫びながら連撃を与えていく。モーリッツの側近といったら高位闇魔のはずなのに、着実にダメージを与えていた。
「これでしまいでござる!」
ヨッヘムの貫手が、闇魔の胸を貫いた!
え? 闇魔って、素手でダメージを与えられるもんなの? ヨッヘムが天才って言われているのは知ってたけど、こんなに強いとは思わなかったよ!
「くっ! バカな!? 素手で、我らを追い詰めるだと! それにこの技、貴様! まさか!」
さすがのモーリッツも目を見開いてヨッヘムを見ている。ヨッヘムはちらりとモーリッツを見ると、そのまま他の闇魔に襲い掛かった。
隙だらけのモーリッツに、攻撃を仕掛けたのはラーレだった。
「燻り、焼き尽くせ!」
出現した黒い炎に、モーリッツは顔を引きつらせた。
「くっ! これが、王国の秘密兵器か!」
モーリッツは何とか炎を躱すが・・・。黒い炎は同線上にいた闇魔に直撃した。
「ば、バカな! モ、モーリッツ様!」
風の魔力は炎に弱い。ラーレの炎は、かなり高位のはずの闇魔をあっさりと焼き尽くしていった。
「な、なんという一撃だ・・・。事前に聞いていなければ私も危うかったかもしれん。これほどの熱量を作り出すなど・・・」
モーリッツが茫然と言葉を落とした。
「貴様・・・。火の魔力過多者なのだな! しかも、尋常な偏りではない・・・。レベル6・・・。いや、レベル7なのか!? 理論上は、火の魔法使いとして最高の資質ではないか! まさか、そんな奇跡のような魔法使いに出会えるとは!」
モーリッツが興奮したような声を上げた。仲間が燃えたというのに、そんなの気にしてないかのような反応だ。
「いやいやいや! 長生きはするものだな! 存在できないはずのレベル7の火の魔法使い! 貴様! どうやって魔力を制御しておるのだ! これほどの濃い魔力! 普通なら暴走させてしまうだけになるだろうに!」
味方がやられているというのに、すんごいテンションで話し出してきた。ラーレはもちろん、ホルストやあのルイーゼ先生までもが絶句したような顔になっている。
え? こいつ! 仲間がやられているのに何でうれしそうなの!?
「そうか! 貴様の魔法陣の背景の黒は闇魔法! つまり、火の暴走を闇で押さえておるのか! しかも、お互いの威力を殺すのではなく、相乗効果を上げているということだな! 素晴らしい魔法ではないか! 開発した者は天才だな!」
あろうことか、モーリッツがこちらを褒めてきたんだけど!
いや、確かにうちのおじい様は天才だと思うけど、闇魔に褒めらるなんて不気味としか言いようがない。
「どうも、ありがとう! じゃあ、アンタも実際に食らってみなさい!」
右手から連続で放たれた魔法を、しかしモーリッツは余裕を持って躱していく。
「どんなに素晴らしい魔法でも当たらなければ意味がない! 炎に込められた魔力は相当なものだが、避けてしまえばいいのだ!」
黒い炎からは煙が発生しているが、モーリッツたちは気にする様子もない。あの煙で、魔物はもちろん、闇魔ですらも魔力障壁を削っていったはずなんだけど・・・。ある程度高位の闇魔には効かないということなのか。
「さて。私たちはお前を殺さねばならんようだな。王国の秘密兵器か。確かに貴様がひとりいるだけで、我らの軍勢はかなり減らされてしまうからな。貴様はここで葬らせてもらうぞ」




