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転生少女は色のない魔法で無双する  作者: 小谷草
第5章 色のない魔法使いと北での戦い
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第269話 土の艶姫

 目的地のノルデンの町まであと2日と言うところだった。私たちはある町に辿り着いた。そこは闇魔の襲撃があったようで、建物の多くが焼かれ、骨組みだけが残っている場所も多かった。


「なんなの、コレ。建物が全部焼かれている。焼け跡ばっかりだよ」


 私は思わずつぶやいた。そんな私に答えてくれたのは、ドロテーだった。


「この町は、半年ほど前に魔物の群れに襲われたんです。闇魔は少なかったけど、ゴブリンやオーガがたくさんいて・・・。一応、地脈は防衛できたようですけど、援軍が来る前に大勢の人が亡くなったようなんです」


 行き交う人々の表情は暗い。なんか、ぼろきれのような服を纏った人も見かける。子供たちが、無気力に座り込んでいる姿も見られた。


「これでも、ここはまだいい方なんですよ。町の中には地脈の制御装置を奪われたところもありますから。そうなると、王族が修理するまで結界も働かなくなって、土地はすぐにやせてしまいます。魔物の襲撃にも怯えるようになって・・・・、そんな町には人が住むことができなくなってしまうんです」


 ここよりもひどいところがあるのか。町を囲んでいる塀はところどころ崩れているし、焼け落ちた建物なんかも多くて、毛布のようなものを纏っている人も見かける。こんな中で魔物に襲撃されたらと思うとぞっとするよね。


「よし。じゃあ、ちょっとやりますか」


 そう言って気合を入れたのは、私たちを引率するルイーゼ先生だった。彼女は私たち全員を集めると、高らかに宣言した。


「課外授業を始めます。私たちが貴族として認められている理由を見せてあげるわ」



◆◆◆◆


 私たちは街の中心部、町長の家の地下にある地脈の傍に集められた。


 部屋は教室くらいの広さがあって、部屋の中央を取り囲むような装置がある。これを使って地脈の魔力を操っているのだろうか。


 正面にルイーゼ先生が立って私たちを見回している。その後ろには町長だろうか。偉そうな人が心配そうな目でルイーゼ先生の様子を不安そうにちらちらとみていた。


「町の被害は大きかったけど、ここの装置には異常がない。これが壊れてたら王族しか直せないんだけど・・・。うん、いけるわね」


 装置を点検したルイーゼ先生が頷いた。


「みんな。いい機会だから、私たち貴族の役割を見せてあげるわ。あなたたちの出身もそうだと思うけど、どの町にも高い塀があるよね。これは、魔物の侵入を防いでくれるものなんだけど、地脈を利用して作られていることが多いの。だから今回みたいに塀が壊れた場合、土魔法が得意な貴族が補修する必要があるのよ」


 それは聞いたことがある。町は地脈と連動した塀によって守られてるって。高い塀には結界が備わっていて魔物の侵入を防いでいるそうだ。土地によっては農地も塀で囲われているところもあるみたいなんだよね。


「本当は、この町にもラント家から魔術師が派遣されるはずなんだけど、ちょっと今は混乱していて遅れているそうなのよ。バルナバスなんかが来られればすぐに修復できるけど、彼は彼で忙しいみたいだし。だから今回は、私が地脈の魔力を使います。いい機会だからどうやって地脈の魔力を扱うか、見ていてほしい」


 ルイーゼ先生はそう言うと、左手を地脈にかざした。すると、ルイーゼ先生の周りに立体図が浮かび上がる。あれは、この街とその周囲を表しているのだろうか。


「この町の中心がここで、塀の座標はこれね。ついでだから、ここに避難所を作っちゃいましょうか」


 ルイーゼ先生が右手に持った資料を見ながらつぶやいている。


 王国では、土魔法の使い手ってすごく尊敬されているんだよね。うちの兄妹だとデニスだけが高い素質を持っているみたいだけど、どんなことができるのかな。ちょっとわくわくする。


「あなたたちも、土魔法を使って町をいじる機会があるかもしれない。今回は時間がないから私の魔力で一気にやるけど、あなたたちは1カ所ずつ補修する感じでいいからね」


 そう言うと、ルイーゼ先生の左手から、黄色い魔力が放出され始めた。


 装置が震え、部屋全体に振動が響き渡った。ルイーゼ先生の魔力によって、地脈から町に魔力が浸透していくのが分かる。なにこれ、すごい!


「魔力よ! 町に浸透せよ! シャッフェン・ファタイディゲン!」


 ルイーゼ先生が詠唱すると、町が躍動し始めた。大地が揺れ、何かが沸き起こる音がしている。


 私は以前、大規模な土魔法を体験したことを思い出した。ビューロウ領でヨルダンに襲われたとき、おじい様が同じように地脈の魔力を操って、障害物を一気に作り出したんだ!


「おおお! なんだ! 何が起こっているんだ!」


 町長らしき人がうろたえている。分かるよ! こんなに大規模に操作するなんて思わないよね!


 しばらく地震のような揺れが続いたが、やがて静かになる。外から、人々が感嘆する声が聞こえてきた。


「さて。うまくいったはずだけど、ちょっと確認してみましょうか。あなたたち。塀や館の耐久性に問題がないか、調べてくれる?」



◆◆◆◆


 私たちは手分けして町の中を点検した。塀は新品のように輝いていて、魔力も十分だ。地脈から、魔力が循環されていることが感じ取れた。多分、学園の設備みたいに、自動的に修復される機能も付いていると思う。


「館の方も問題なし。隙間もないし、これなら窓さえ取り付ければ、避難民が安心して眠れると思うわ」


 館を点検したラーレが教えてくれた。大規模魔法を使ったルイーゼ先生はちょっと疲れている様子だけど、それでも元気に町長と打合せしていた。


「土魔法がこんなにすごいとは思わなかったよ! 町を一瞬で変えてしまうなんて。おじい様の魔法もすごかったけど、こっちの方がやばいね。この国で土魔法の使い手が優遇されてる理由がよくわかったよ!」


 なんか王国では、「嫁を取るなら土魔法」とか言われているらしいからね。興奮気味に言い募る私を、ドロテーが慌てて止める。


「普通の土魔法使いに、こんなすごいことはできませんからね! 私たちだと、1カ所ずつ地道に改善していくと思います。多分、塀の修復だけで数か月かかるんじゃないかなぁ」


 おおう。そうなのか。お色気枠だと思っていたけど、ルイーゼ先生はあれでかなりの実力派らしい。人は見かけによらないというか、ちょっと驚いたよね。


「時間がかかることも理由の一つでしょうけど、多分ルイーゼ先生は、避難所が作られないことを避けたんだと思います。町を守る塀と比べると、貧民の避難場所はどうしても後回しにされてしまいますからね。一気に作っちゃえばそんなの関係ないですから」


 そうなのか。ルイーゼ先生もあれでいて、いろいろ考えているんだなぁ。私が何気なくルイーゼ先生の方を見ると、町長がやたらと持ち上げているのが分かった。「さすが土の艶姫」とか聞こえてくるけど、どういう意味なんだろう?


「土の艶姫っていうのは、ルイーゼ先生の二つ名ですね。昔はラント家に仕えていて、北にその人あり、って感じで言われてたらしいですよ。私、土魔法の授業を取ったんですけど、教え方も本当に丁寧で、分かりやすいんです。この先生に当たって本当に良かったと思ったんですよね」


 ドロテーさんはうっとりとつぶやいた。ちなみに同じ土魔法でもどの教員に当たるかはランダムで、誰に教わるかは分からないそうだ。一応、要望は伝えられるらしいけど、土魔法はルイーゼ先生を指名する人が多いって聞いたことがある。お色気枠だからと思ったけど、実力を見れば納得だよね!


 ルイーゼ先生は挨拶もそこそこに、私たちに大声で呼びかけた。


「装置さえ無事なら、私の土魔法でもこの通りよ。ちなみに、地脈の周りの装置が壊れたら、王家にしか修復できないから注意するように! みんな! チェックが終わったら、今日は速めに休みなさい。明日すぐにノルデンの町に向かって出発するからね! 朝寝坊したら置いていくからね!」


 ルイーゼ先生の言葉に、私たちは慌ててテントに戻った。冗談めかして言ってるけど、ルイーゼ先生は多分本気だ。私は慌てて寝支度を始めたのだった。


 ここまで来て、置いていかれるなんてシャレにならないからね!

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