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転生少女は色のない魔法で無双する  作者: 小谷草
第5章 色のない魔法使いと北での戦い
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第268話 川で緊張感をほぐす

 壮行会が終わると、私たちはさっそく北へと出発した。まずは北の主要都市であるノルデンの町へと向かい、そこからそれぞれの担当場所へと赴任することになるらしい。


「おじい様は、別ルートで向かう感じか。まあ、学生以外の貴族は一緒には来ないらしいからそれもしょうがないかな」

「ええ。バルトルド様とは現地で会うことになると思うわ。北にはかなりの数の貴族が集結しているらしいけど、きっと現地で会えると思うわ。でも・・・」


 エレオノーラが不安そうにあたりを見渡した。


 魔物や闇魔と接敵するのはもう少し先のことになりそうだった。


「でもやっぱりというか、みんな表情が暗いね」


 私は周りの生徒たちの顔を見て不安を感じていた。


「しょうがないかもしれないわね。私たちみたいに王都で魔物と戦った人ばかりじゃないから。これから始めて戦いを経験する人だっているのよ」


 エレオノーラが言うと、隣にいたドロテーさんも話を続けてくれた。


「そうですね。正直なところ、学園で魔物退治を経験しておいてよかったと思います。それがなかったらこんなに落ち着いてなんていられなかったと思いますし」


 みんな緊し過ぎている気がする。これじゃあ、いざ魔物と戦うときには疲れ果てていいパフォーマンスを発揮できないんじゃないかな。なにか、みんなのガス抜きができるイベントが必要かもしれない。私は不安を感じながらも、どうしようもできずに歩き続けるのだった。



◆◆◆◆


「今日はこの先の沢で一泊する。全員、準備を始めろ」


 レオン先生が私たちに命令してきた。川のそばにちょっとした広場があり、ここでキャンプすることができそうだ。


「ここはいいな。騎獣たちをゆっくり休ませることができる。水で体を洗うこともできそうだしな」


 フェリクス先輩が鹿のような騎獣を水辺に連れていく。他にも北出身の貴族が川に騎獣を連れているのが見えた。この機会に、水辺で騎獣をゆっくりと休ませるみたいだ。


「今晩の準備ができたら好きにしてもいいぞ。緊張感のある進軍が続いたからな。ここらで一休みするといい。何なら、泳いだっていいんだからな」


 レオン先生はそう言うけど、動き出す生徒はいない。みんな、これからの戦闘が頭を過り、のんきに遊ぶことができないようだった。少しくらいは目を外せば緊張感も薄れてくると思うんだけど・・・。


 私は川を見る。流れはほとんどなくて、流されることはないように思う。みんなで泳ぎまわることができる広さもある。季節は夏。秋が近づいているとはいえ、この気温なら水の中はさぞかし気持ちがいいだろうなぁ。


「ひゃっはぁぁぁ! 川だぁー!!」


 私は服を着たまま勢いよく川に飛び込んだ。


 周りの人たちがぎょっとしているのが分かる。でもそんなの関係ない!


「ち、ちょっとダクマー! 何やってるのよ!」


 慌てて私を連れ戻そうとするラーレを、容赦なく川の中に引きずり込んだ。


 思い出すなぁ。昔、ビューロウ領にある川で、みんなで遊んだことがあったよね。あのときはアメリーが水を怖がって大変だった。私たちみんなで泳ぎ方を教えて、アメリーも泳げるようになったんだよね。


「この! いいかげんにしなさい!」


 浮かび上がってきたラーレが私を沈めようとする。くっ、水の中に入るなり敏捷になるなんて! ラーレのくせに! ラーレのくせにぃ!!


 私たちがじゃれ合っていると、エレオノーラが生徒たちを指揮する声が聞こえてきた。


「ギルベルト隊は右から! オティーリエは左から! あの駄熊を捕まえるのよ!」


 ふっふっふ。何人来ようとも、私を捕まえられると思わないでよね! 私は身体強化を駆使しながら、駆け寄る生徒たちを躱していく。こんな時でも、私の身体強化は有効だ。潜ったり、床を蹴ったりして生徒たちの手をかいくぐる。


 いつしか、ほとんどの生徒が私との鬼ごっこを始めていた。ふふん。何人来ようとも、私を捕まえられるとは思わないほうがいい!


「このっ! ラーレお姉さまを足蹴にするなんて! そこに治りなさい! 成敗してあげるわ!」


 ハイデマリーが顔を赤くして駆け寄ってきた。私はニヤリと笑うと、ハイデマリーの猛攻を躱していく。


「いいかげんにしなさい!」


 ラーレが思いっきり水をかけてくる。私は躱しきれずに顔に大量の水を浴びてしまった。


 やったなぁ! 私は笑い声をあげながら反撃する。


 いつしか、川べりには水を掛けながら駆けまわる生徒たちであふれていた。



※ オティーリエ視点


「すきありぃ!」


 私はマリウスを川に突き飛ばす。マリウスは、驚いた顔で水の中に沈んだ。ダクマーはあらかじめ確認していたのだろう。川の推進は浅く、簡単に足が着く深さしかない。ここなら、存分に川遊びすることができそうだ。


 マリウスは驚いた顔で私を見た。その顔目掛けて、私は容赦なく水をかける。マリウスは慌てて顔を拭うが、戸惑ったような表情を隠せない。


「ほらほら! こんな時くらい楽しまないとね! 私たちはまだ学生なんだし、いまのうちに息抜きしておかないとね」


 周りには、学園の生徒たちが水を掛け合っている姿が見えた。溺れる生徒が出ないか少し不安だったけど、あのダクマーは最初にはしゃいだかと思えば、いつの間にか周りの生徒を注意深く見ていた。流れが強いところに行こうとする生徒を、素早く引き戻したりしている。


 私は笑いながら、マリウスの顔に再度水をかけた。


「オティーリエ! ちょっと、ふざけすぎじゃないか」


 そういうマリウスの後ろから、ギルベルトがそっと近づいていくのが見えた。そして素早くマリウスの足を掴むと、水の中に引きずり込んだ。


「マリウス~! 隙だらけだぞ!」


 ギルベルトが笑い出した。マリウスはすぐに水の中から頭を出すと、勢いよくギルベルトに飛びついた。ギルベルトは笑いながら、マリウスとともに水に沈んでいく。


 いつしか私たちは、水を掛け合いながら心の底から川遊びを楽しんでいた――。



◆◆◆◆


「こんなふうにふざけ合ったのは初めてだよ」


 遊びがひと段落して、マリウスが私に声をかけてきた。


「まあ、マリウスは真面目な印象があるからね。でも、たまにはこんなふうにふざけ合うのも、悪くないでしょう?」


 私は自信をもって答える。多分ダクマーは、緊張するばかりの私たちに危機感を持っていたんだと思う。だから率先してふざけることで、私たちの緊張をゆるめようとしたんだ。その証拠に、周りの生徒たちから、すこしだけ緩い空気が生まれているように感じる。


「そうだね。今まではふざけ合っている人を見ても全然理解できなかったけど、実際にやってみると分かる。こうやってみんな、緊張をほぐしたり笑ったりして、つらい時間を乗り越えているんだな」


 こんなときでも、マリウスは真面目だなと思う。でも、そう言っているマリウス本人も、ずいぶん緩い表情をしているように思うよ。


「みんなちょっと、緊張しすぎているように思えたからね。この辺は、さすがダクマーって感じだね。まあ、はしゃいでたのは地もあると思うけどね」


 マリウスはダクマーを見て含み笑いを漏らした。案の定、ダクマーはレオンハルト先生に叱責されている。多分本人はそんなことも織り込み済みなんだろうけど、しゅんとする姿に笑いが止められなくなる。


「でも、ダクマーはさすがだね。見てないようで、周りをしっかり見ている。緊張を解くためには、あえて道化になることも厭わない。その辺は、見習わなきゃと思うよ」


 まあ確かに。ダクマーは武のビューロウだけあって、周りの空気に敏感だ。危機感があったら自分から行動できることは素直に尊敬できる。半分以上、自分が楽しんでいたと思うけどね。


「マリウスの、いつでも人と真剣に向き合うところは尊敬しているよ。でも、たまには羽目を外してもいいんじゃないかなぁ。ここ最近、ずっと厳しい顔だったからね。少しだけ、羽目を外せたみたいだし、ダクマーもたまには役に立つよね」


 マリウスはハッとして、自分の顔に手を当てた。こんなときでも、マリウスは真面目だなぁ。たまにはもっと、気を抜いてもいいのに。


「マリウスだって、まだ17歳の人間だもんね。つらかったり、疲れちゃったりすることはあると思う。そんな時は、私たちを少しは頼ってほしいな。たいしたことはできないかもだけど、こうやって一緒にふざけたりすることはできるからさ」


 驚いたように目を見開くマリウスに、私は微笑みかけた。この人は、すぐに自分だけで抱え込もうとするから心配だ。私は魔法も技術も彼に比べるとかなわないけど、悩みを聞いてあげることくらいはできる。


「なんか、オティーリエもエレオノーラもダクマーも、たまにちょっと不思議な感じがするね。同い年のはずなのに、ずっと年上の人と話している気分になる」


 私はドキッとした。たいした経験はないかもだけど、私たち3人とも、実年齢の2倍以上の時を過ごしているから。


 マリウスは肩の力を抜いたように、余裕のある姿で笑いかけてきた。


「オティーリエ、ありがとう。ちょっと考えすぎていたみたいだ。また煮詰まったら、話を聞いてもらってもいいかな」


 そう笑いかける彼に、私は微笑みながら頷いた。


「もちろんよ。どんな小さなことでもいいから、遠慮なく頼ってね。あ、でも、お金の話はできないからね。私、それほど裕福じゃないからね」


 おどけて言う私に。マリウスは笑って答えてくれた。

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