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転生少女は色のない魔法で無双する  作者: 小谷草
第4章 色のない魔法使いと貴族と王族と
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第261話 ガスパー先生の話とおじい様の決断

 ガスパー先生の話はやはりというか、北での戦況の話だった。みんな、王国軍が総崩れになったと聞いて、茫然とした様子だった。


「フレッヒェ平原での敗北で、将官にかなりの被害が出てしまった。亡くなった方の中でこちらで確認された名前を伝えよう。まずは、王家のバプティスト様。四天王のモーリッツの奇襲により、壮絶な戦士を遂げられたらしい」


 教室内に動揺が走る。あの人にお世話になったのは我が家だけじゃない。東や北の貴族にはバプティスト様に恩のある家も多いからね。気さくだけど立派な王族だし。まさか王族から戦死者が出たとは信じられない思いがするのだろう。


 ガスパー先生はバプティスト様と共に散った中央の貴族の名前を何人か上げると、ちらりとこちらを見た。そして、声を落とすと次の人の名前を読み上げた。


「そしてラント家当主のゲーアノート様。後継のハイモ様も死亡が確認された。お二人は、北で多くの貴族を指揮していたそうだが、残念ながら・・・」


 先生の報告と同時に嗚咽が漏れた。後ろの席のドロテーさんだ。私は思わず振り返った。ドロテーさんは必死で涙をこらえていたようだけど、耐え切れずに声を上げて泣いていた。


 私は席を立ってそっと彼女を抱きしめた。教室には、戦死者を読み上げる声とドロテーさんの嗚咽が静かに響いていた。



 戦死者の読み上げが終わると、ガスパー先生は沈痛な顔で言葉を続けた。


「皆も知っての通り、今は闇魔に対抗するために北にかなりの貴族が集結していた。だが、今回の敗北でそれでも指揮官の数が足りなくなった。もしかしたら、君たちにも何か命令が下るかもしれない。君たちに力があることは北にも伝わっているからな。特に、この学年には優秀な戦士が多く在籍しているのだから」


 ガスパー先生がちらりと私のほうを見た気がした。いや私もそうだけど、今年は他のみんなもだよね? 学生の影響力を高めるための領地対抗戦が、結果として学生の出征を早めることにつながるなんて、ちょっとやり切れない話だ。


「君たちの中には家と今後のことを話し合わねばならない人もいるだろう。今日は解散する。皆、次に備えて英気を養うように」


 そう言い残すと、ガスパー先生はそのまま教壇を去っていった。教員たちは今何かやることが多いみたいだからね。今日だって疲れたような顔をしていたし。


 私はドロテーさんを慰めようとしたが、ガスパー先生と入れ替わるかのようにラーレとコルドゥラが教室に入ってきた。 え? 何事?


「ダクマー様! ご当主様から面会です。至急、学園の談話室までお越しください!」



◆◆◆◆


 私たちは、おじい様が待つ談話室へと向かった。


 今朝は学園長に呼ばれて、教室でガスパー先生の言葉を聞いて、さらにはこの談話室だ。なんかいつもより忙しく動いている気がする。


 談話室に着くと、そこにはおじい様だけでなく、兄のデニスやホルスト、アメリーまでもが席に着いていた。ビューロウの、おじい様の孫が勢ぞろいだね。


 私たちは一礼すると、席に着いた。


「お待たせしました。我々に話があると聞きましたが」


 ラーレがおじい様に尋ねた。おじい様が鷹揚に頷くと、私たちを厳しい目で見つめてきた。


「うむ。おぬしらも元気そうで何よりじゃ。さて、学園の教師から話があると思うが、北でかなりの貴族が闇魔に打ち取られたらしい。残念なことに、バプティスト様も、な。今日、知らせがあっただろう」


 私たちは頷いた。すんごいつらいけど、北で多くの貴族が打ち取られたのは確かなことのようだった。


「戦死者が多すぎて指揮官が足りなくなった。お前たち学生を出征させるという話がある。今年の学生たちは先の領地対抗戦で力を示した。北では戦力の増強が望まれている。今回は、おそらく護衛をするからと拒むことはできん。なにしろことは王国存亡の危機だからな」


 ラーレは私の護衛をすることで出征を免れたけど、それがもう通用しないということか。


 私はちらりとラーレの顔を見つめる。ラーレは青い顔をしていたけど、どこか決意がこもっているようにも思えた。おそらく彼女も、この事態を想定していたんだろうけど・・・。


「下級生は大丈夫じゃろう。アメリーはまだ、出征を強要されることはない。だが、2年生と3年生はそうはいかん。どこぞの誰かは、闇魔の四天王を倒すという功績を上げているからな。このままでは、ホルストとラーレ、デニスとダクマーは戦地に向かうことになるだろう」


 やっぱりその話か。私は神妙に頷いた。


「だが抜け道はまだある。後継に指名されることだ。貴族には、収めている土地を守る必要がある。だからこそ、こういう事態でも後継だけは出征を拒むことができるのだ」


 おじい様は真剣な目で私を見た。


 え? この爺、なんで私の顔を見つめるの?


「ダクマーよ。ビューロウ家の当主として、お前を後継に指名する。剣のビューロウを継ぐのにお前以上にふさわしい者はいない。お前はここでしっかり学び、次代に狼の血をつなげていくのじゃ!」 

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