表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生少女は色のない魔法で無双する  作者: 小谷草
第1章 色のない魔法使いは領地ですくすくと成長する
26/395

第26話 ビューロウと闇魔と ※ ヤン視点 残酷な描写あり

※領内の子供・ヤン視点


 くちゃくちゃと、何かを咀嚼する音が響いていた。僕は弟と震えながらその音を聞いていることしかできなかった。


「兄ちゃん、怖いよ。誰か助けて」


 涙目になりながら、弟のウドが声を漏らす。弟は体は大きいが、小心者だ。よくいじめられて泣いているのを見かける。いつもはかばってあげられたけど、今日はそれもできそうにない。


 倒れているのは、僕たちの母親だった。いつも僕たち兄弟に暴力を振るう父を止めることもなく、時には一緒になって殴ってくることもあった。いなくなってしまえと思ったことも一度ではないけれど、まさかこんなことになるとは思わなかった。


「あ~あ。こいつ、魔力がほとんどないな。こいつの息子たちがかなり魔力を持ってたから期待したんだが・・・・。やっぱり平民はだめだな。狙うなら貴族か」


 母の傍に佇んでいた男がそうつぶやいた。一見、どこにでもいるような何の変哲もない男だった。作業着を着て建築現場などで働いている男に見える。だけど、この男は闇魔だった。


「お、お願いします。弟だけは、弟だけは助けてください!」


 そう懇願するが、男はにやにやと笑ったままだった。


 今日は父親が珍しく上機嫌だった。僕たち兄弟と母を同僚に紹介するとか言って、この廃屋に連れてこられた。


「へっへっへ。先輩、言いつけ通り兄弟を連れてきましたよ。見ての通り、生意気なことに魔力もちなんです。俺達も持っていないのに、もったいないと思いませんか」


 父親が吐き捨てるように言った。


 高い魔力を持っているから、父親は僕たちを疎んでいる。なんでお前らだけ、と言って殴りつけてくるのだ。魔力を持って生まれたのは、僕たちのせいじゃないのに。


「ご苦労だったな。お前はもう用済みだ」


 父親が目を見開いたのが分かった。男が腕を振るうと、父の首から血が噴き出した。いつの間にか、男の手には長く鋭い爪が伸びていた。


 一瞬、沈黙が支配する。そして父が倒れ込んだのを見つめると、母が叫び声をあげた。


「うるせぇよ。少し黙れ」


 そう言って男は、母の首を斬りつけた。


 僕らを毎日苦しめた両親は、あっという間に息絶えてしまった。


「さってっと。こいつらのお味はどうかな」


 そう言って、母の死体の胸に手刀を繰り出し、内臓を抉りだした。闇魔は人間を食らうと聞いたことがあったけど、まさかその現場を見ることになるとは思わなかった。


 僕たち兄弟は、闇魔の蛮行を震えながら見ていた。


 目に涙が浮かぶ。なんですぐに手を出さないかは分からないけど、あいつはきっと、僕たちにも手を掛ける。


「お願いします。弟だけは・・・」


 そう懇願するが、闇魔はニヤリと笑った。


「お前たちは非常食だ。しばらくは生かしておいてある。だが、抵抗するならそこで終わりだ。いい子だから、しばらくは大人しくしていろよ」


 闇魔が吐き捨てたその時、入口の扉が勢いよく蹴破られた!


 入り口から大きな剣を持った戦士が突入してきた。


「そこまでだ! 闇魔め! この地で生きていけるとは思うなよ!」


 そういって、先頭にいた筋肉質な大男は闇魔に向かって大剣を振るう。しかし闇魔はニヤリと笑いながら立ち上がった。


 大剣が闇魔を襲う。しかし、その剣は、闇魔の首の少し手前で動きを止まった。闇魔を守るかのように表れた魔力の壁が、大剣をあっさりと止めてしまっていたのだ。


「なんだ。威勢のいいのにこの程度か。この程度の太刀筋で、オレを傷つけられると思うなよ」


 そう言って、闇魔は大男に右腕をかざした。大男は少し茫然としたが、次の瞬間、勢いよく後ろに吹き飛んでいった。


「くはははは! 相変わらず、ビューロウのカスどもは勢いだけだな! 貴様らはここで血祭りにあげてやるわ!」


 そう言うと、闇魔は勢いよく手を上げた。同時に、廃屋の外で獣の唸り声が聞こえてきた。


「くっ! 魔物を隠していたのか!」


 筋肉質の男が悔し気に吐き捨てる。そして廃屋の外のいたるところで、剣を打ち合う音が聞こえてきた。


「俺が何の準備もなく潜んでいたと思うのか? ここでお前らを皆殺しにしてやるよ」


 闇魔が手をかざすと衝撃波が起こる。突入してきた戦士たちは、闇魔によってあっさりと吹き飛ばされていく。


「運動したら腹が減ってきたな。もう食っちまうか。ビューロウには子供が何人かいるらしいからな。非常食はそいつらでいいだろう」


 闇魔が僕たちに向き直った。混乱した弟は腕を振り回して抵抗するが、闇魔に平手打ちされ吹き飛ばされた。僕はその光景を震えて見ていることしかできなかった。


「闇魔め! 下がれ! 火よ!」


 入り口から駆け込んできた少年が、短い杖から火の球を発現させる。まだ僕と同い年くらいだろうに、凄まじい魔法だった!


 しかし、闇魔は驚かない。すさまじい量の火に見えたが、右手で簡単に受け止めてしまった。


「少しはやるようだが、所詮はガキだな。ほら。返すぜ」


 闇魔はあろうことか、炎を少年に投げ返した! あぶない!


 その時、闇魔と少年の間に、黒い髪をなびかせた少女が駆け込んできた。炎が少女の背中に当たる。炎の勢いに押され、少女が前につんのめるように倒れた。


「!! 姉さん! おのれ! よくも!」


 少年が闇魔を睨みつけたが、闇魔は余裕の表情で少年たちを見つめ返した。


「お前ら、貴族か。なるほど。素晴らしい魔力量だ。子爵クラスじゃねえ、侯爵クラスにも見える。いやもっと上なのか? お前らなら、ここでの活動でも持ちそうだな」


 この闇魔、この子たちを食らうつもりか! 止めなきゃいけないのは分かるけど、僕の足は震えたままだった。


 しかしその時、入口から小さな影が飛び出した。


「お前! ラーレに何するんだ!」


 その影は、闇魔に素早く飛びつくと、顔面に飛び蹴りを放った。


 すさまじい打撃音が響く。その影の蹴りは闇魔の魔力障壁を突き破り、その顔面に矢のような一撃を与えていた!


「!!!!!」


 闇魔が思わず顔面を抑える。その影――少女の蹴りは、攻撃を無敵化すると思われた闇魔の魔力障壁を容易く壊してしまったのだ。


 闇魔は鼻血を出しながら彼女を睨みつけた。


「このガキが! オレに傷をつけるなんて、楽に死ねると思うなよ!」


 闇魔が叫ぶ。地獄から響いてきたかのような声に、思わず震えてしまう。


 少女は闇魔からさらに奥に着地すると、闇魔を迎え撃とうとするかのように構えた。


「ダクマー! くっ、君たち! 大丈夫か!?」


 入り口から、水色の髪をした少年が駆け込んできた。そしてすぐに、僕と弟を後ろ手に庇ってくれた。


 こんなときなのに、助けに来てくれて少しほっとしていた。


 だけど、危機が去ったわけじゃない。


「ビューロウのガキどもがわらわらと! ここで殺してやるよ!」


 闇魔が叫ぶ。しかしそんな闇魔を否定するかのように、威厳のある声が廃屋に響いた。


「それはこちらのセリフだな。我が領民を傷つけて、楽に死ねると思うなよ」

 

入り口から、着物を着た長身の男がゆっくりと歩いてきた。かなり年配で身なりも整っている。厳しそうな顔をしているけど、この土地に暮らす貴族だろうか。僕にはすごく偉い人だということしか分からなかった。


「バルトルド・ビューロウ!! 狼の成りそこないが! ここで始末してやるぞ!」


 闇魔は右手からいくつもの水弾を発現させた。そして、長身の男に手をかざすと、推断は一斉に男に発射された。

 

しかし男が左手をかざすと、男の前に土の壁が出現した。水弾は土の壁に阻まれ、あっさりと散っていった。


「今度はこちらの番だな」


 貴族の男は、足に魔力を込めたのが分かった。そして左足を踏み鳴らすと、土間に土の槍が何本も現れた。


「まずは小手調べだ」


 そうつぶやくと、土の槍が一斉に闇魔のほうを向いた。そして男が左手を闇魔に向けると、土の槍が闇魔に向かって勢いよく発射された。


「な。何だと!?」


 土の槍が、闇魔を貫く。少年の炎はあっさり防がれたのに、男の土槍は、簡単に闇魔の魔力障壁を貫いていた!

「ばかな! 貴様ごときに!」

 驚く闇魔を見て、男が暗い笑いを見せた。


「ワシらとて、ただ単に年月を積み重ねてきたわけではない。次で決めさせてもらうぞ」


 そう言って左手を闇魔に向けると、廃屋全体が大きく揺れ出した。魔力についてほとんど知らない僕でもわかるくらい、圧倒的な密度の魔力だった。


「土よ」


 貴族の男が左手をかざすと、手の前に幾重もの文様が浮かんだ。


 空気が振動する。


 魔力を左手の前に集結させると、貴族の男は闇魔に向かって黄色い波動を打ち出した!


「くっ! この程度で!」


 闇魔は両手を前にかざして魔力の壁を発現させるが、しかし黄色い波動はあっさりとそれを貫いていく。


「ば、ばかな!?」


 波動が、闇魔に直撃する。闇魔は右手でガードするが、その右半身には泥のようなものにまみれていた。


「散れ」


 貴族の男がつぶやくと、泥が一斉に煙を上げた。そして、泥に覆われた部分が少しずつ消滅していく。


「なっ! ばかな!?」


 泥に覆われた部分が体ごと煙になって消える。闇魔は穴だらけになり、一瞬で血まみれになった。


 闇魔は鋭い目で貴族の男を睨もうとするが、その手に再び黄色い文様が現われたのを見て目を見開いた。


「う、うそだろ!? や、やめろ! やめてくれ!」


 闇魔が及び腰になるが、貴族の男はかまわずに二発目を放った。


 黄色い波動は闇魔の魔力障壁を容易く貫き、その胸に大穴をあけた。


「ば、ばかな・・・。狼の、なりそこないのくせに」


 闇魔は悔し気に吐き捨てるが、胸に空いた穴は少しずつ大きくなり、その体が宙に溶けていく。


「情報を簡単に渡すからこうなる。後悔しながら、逝くがいい」


 貴族の男の魔法によって、闇魔は跡形もなく滅ぼされたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ