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転生少女は色のない魔法で無双する  作者: 小谷草
第4章 色のない魔法使いと貴族と王族と
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第250話 ビヴァリーを助けるために ※ ホルスト視点

※ ホルスト視点


「くくくくそっ! カーステン老を倒したからっていい気になるなよ! 王都の各地に召喚門を送り出したんだ! 今頃は門から出た魔物で王都は大変なことになっている! 大混乱だ! 私とこの娘がいる限り、門は消えない! 残念だったな!」


 やけくそ気味に言うカサンドラを見て、額から汗が流れた。


 愚姉の魔法は確かにカーステンを倒したけど、状況は混迷を極めたままだ。部屋にはリザードマンが続々と現れていて、国王の護衛やあのフリードリヒ様すらもその対応に追われている。


 しかも、さっきの術だ。おそらく、さっき行ったのは王都の地脈に干渉する技のはずで、カサンドラの言う通りなら今ごろ王都のいたるところに召喚門が出現し、魔物たちが続々と現れてきたはずなんだ。


「この流れを止めるのは僕では無理か。召喚術の専門家でもない限りはあの召喚門をなんとかできないと思うし・・・。地脈を操ったって、あれを取り除くのは難しいはずだからな」


 そうつぶやいて、カサンドラの傍の少女を見つめた。テオフィル亡き今、召喚門を止めるには彼女の助力を得るしかない。だが彼女は、カサンドラの闇魔法によって操り人形と化しているようだ。あの術を解除し、彼女の助力を得なければ王都の混乱を治めることは難しいだろう。そして彼女を助けるには、アイツの力を使うしかないのだ。


 僕は静かに移動した。放心状態になった闇魔法の専門家・ウルリヒ・ランケルの隣に。


「ウルリヒ。力を貸せ。協力してビヴァリーさんを助けるんだ。召喚術の専門家の彼女なら、この状況を変えられるかもしれない。彼女を助けるには、お前の力が必要なんだ」


 蹲っていたウルリヒは無表情で僕を見上げた。


「君は支配の魔法を研究していたと聞いている。とすると、当然支配を解除する方法も知っているはずだな。魔法は表裏一体。新しい術を身に着けるなら、それを解除する術も同時に身に着けるはずだから」


 僕の言葉に、ウルリヒは何の反応も示さない。


 目をそらしたくなるけど、コイツの境遇を考えると、僕もこいつのようになっていたかもしれないんだ。


「何をしていいか分からなくなっちまうよな。守っているはずのやつらが、自分よりもはるかに前に進んでいるのが分かった時は」


 僕の言葉にウルリヒはピクリと反応した。


 そう。コイツは僕と同じなんだ。姉や従妹を守っていたつもりなのに、いつの間にかはるか先に行っていて、置いていかれてしまった僕と。


「ヴァンダ様から君のことは聞いている。小さい頃はよくお前に助けてもらったってさ。遊び疲れて眠ってしまった彼女を、よく背負って帰ったんだってな。さみしそうに、そんなことを言ってたよ」


 ウルリヒが茫然と僕を見返した。


「妹が自分のはるか先を言っているのが分かってショックを受けるのは分かる。僕も同じさ。従妹のダクマーも愚姉のラーレも、気づいたら英雄様さ。今さっきだって、王都の貴族があれほど苦戦していたカーステンを、愚姉は簡単に焼き殺したんだからな」


 ウルリヒの瞳が静かにカーステンを映した。あれほど僕たちを苦しめた闇魔は、今はもう見る影もなく燃えカスになっている。


「でもどんなにあいつらが前に進んでも、僕たちがやってきたことはなかったことにはならない。僕たちが彼女たちを守ってきたことは無駄じゃないんだ。僕たちが頑張ってきたからこそ、今の彼女たちがある。それも何者にも替えられない事実なんだよ」


 僕はウルリヒの襟をつかんだ。


「だけどな! ここでなにもしなかったら・・・。闇魔に利用されたままで終わっちまったら、それも変わってしまう! 今のお前を不安そうに見ている妹に、残念な思い出しか残せなくなるんだ! このままだと、ヴァンダ様はお前のことを残念な気持ちで思い出すだろう。昔は優しかったけど、最後には闇魔に踊らされた愚か者としてな! それでいいのか!」


 僕は良くない。ダクマーに離されたって姉に置いていかれたって、僕は優秀なホルスト・ビューロウでありたい。従弟のデニスが見てくれるように、立派なビューロウの男の一人として認められ続けていたいんだ!


「チャンスは今しかない! 僕たちで、あのビヴァリーという娘を助けて魔物の脅威からこの学園を守るんだ! 誰に見下されても、笑われても、妹にまで残念な自分であるわけにはいかないだろう! なあ、ウルリヒ・ランケル!」


 ウルリヒは口元を歪めると、涙目になりながらも僕を鋭く睨んできた。


「だまれ! そうだ! 私はウルリヒ・ランケルだ! 偉大な闇の魔術家に生まれた優秀な魔導士だ! このまま妹にまで見下されたままでいいはずがない! 私は、私のためにこの騒乱を静めてみせる!」


 ウルリヒは僕の手を振り払うと、鋭い目で僕を睨んできた。


「お前には考えがあるのだろう! さっさと言え! お前と私で、あの闇魔どもに一泡吹かせてやろうではないか!」


 瞳に力を取り戻したウルリヒを見て、僕は思わず口元に笑みを浮かべたのだった。



◆◆◆◆


 相変わらずカサンドラは部屋の中心部に待機している。時折愚姉を見てびくついているのが分かる。あいつは、ビヴァリーとか言う召喚魔術の娘を盾にしながら僕らを迎え撃とうというのだろう。地脈を通じて召喚門が転移された今、時間は奴らに味方している。上がそれだけ混乱すれば、奴らのチャンスも広がるからな。


「うおおおおおお!」


 頭を押さえていたはずのナターナエルが動き出した。目指すは国王陛下か! さっきまで僕らに利することをしたかと思えばすぐに陛下を狙ってくるなんて! ちょっと訳が分かんないんだけど!


「させるか! クルーゲ流の極意、見せてやろうではないか!」


 素早くナターナエルに向かっていったのはフリードリヒ様だった。神鉄の剣に、盾。王国最強の武具を装備した彼は、闇魔の四天王たるナターナエルを相手に一歩も引かなかった。小刀を盾で防いだかと思えば剣を振るって相手をけん制する。一歩も引かずに戦い続ける姿には感嘆しか出てこない。


 同じ護り手として参考になる技ばかりだけど、残念ながら僕らの相手はこの女だな。まずはあいつを、こちら側に引きつけなければならない。


「ウルリヒ。僕がカサンドラを引き付ける。その間に、お前はビヴァリーを正気に戻すんだ。そして彼女に手を貸して闇魔の召喚術をなんとかする。難しい仕事だが、お前にできるか?」


 ウルリヒは横目で僕を睨むと、頬を引きつらせながら怒鳴り返した。


「当たり前だ! 私は偉大な闇の魔術師だ! この程度のこと、確実に成し遂げて見せるさ! 貴様こそ、あのカサンドラを引き付けることができるのか? ナターナエルよりは格下とはいえ、奴も高位の闇魔なんだぞ! 一介の学生のお前なんか、相手にされないのではないか?」


 ウルリヒの言うことはもっともだけど、僕には確かな勝算があった。何しろ僕は、アイツが怯えるラーレ・ビューロウの弟なんだからな! あの愚姉の力を借りるのは屈辱だけどな!


 ウルリヒから離れて全身すると、僕は力の限り叫んだ。


「カサンドラ! 臆病者のカサンドラよ! 僕が相手になってやる! おまえに意気地というものがあるのなら、僕の前に来て見せろ!」


 カサンドラはあきれた顔で僕を見下ろした。


「は、はぁ? 貴様ごときが何を言うのだ! お前ごときの相手をなぜ私がしなければならないのだ! おまえなんぞ、こいつらで十分だ!」


 カサンドラが手を振ると、3体のリザードマンが僕のほうに向かってきた。血気盛んで、嬉しそうに襲い掛かってくるように見えるけど・・・。


 だが、この程度の魔物、僕の敵ではない! 悪いけど、すぐに倒させてもらうぞ!


「はああああ!」


 僕は土魔法を自分の体に纏わらせた。ビューロウのお家芸、内部強化だ。そして腕力を何倍にも高めたうえで、勢いよく両手剣を叩きつけた!


「!!!!!!」


 リザードマンは叫び声すら上げられずに沈んでいく! 僕は回避術だけじゃない! 隙あらば敵を倒す攻撃術だって習得しているんだ! あのダクマーと一緒に修行してきたのは伊達じゃあないんだよ!


 目を見開くカサンドラに、僕は指を突きつけた。


「僕の名は、ホルスト・ビューロウ! さっき、お前の同僚を焼いたラーレ・ビューロウの弟だ! おまえに度胸という者があるのなら、僕と正々堂々と勝負するんだな!」


 カサンドラが目に見えて狼狽した。


「え、あ!? き、貴様・・・! あの・・・、あの魔女の弟だとでもいうのか! おまえなんか相手にできるか! 遠くからつついてやるよ!」


 そう言うと、カサンドラは水弾の雨を僕に振らせてきた。


「はっ! この程度の攻撃が当たるかよ! お前ごときに僕に傷をつけられると思うなよ!」


 形相を変えたカサンドラを見て僕は内心ほくそ笑む。これでカサンドラは僕から意識を離すことはできない! 僕一人ならウルリヒにも目を付けるかもしれないが、あいつは愚姉を絶賛警戒中だ。僕と愚姉、2人に意識を入れなければならないなら、ウルリヒにまで手が回らないはずなんだ!


「うおおおおお! 当たるか! 当たるかよぉ!」


 僕は必死で大剣を振り回し、カサンドラの猛攻を防いでいく。いやちょっと数が多いんだけど! なんかリザードマンたちも僕を狙ってきているみたいだし!


「あはははは! 所詮は人間! このままなぶり殺しにしてくれ・・・」


 カサンドラの嘲笑が途中で止まった。愚姉が、僕の近くにあの黒い炎を放ったからだ。


 炎はリザードマン数体を一瞬で巻き込み、凄まじい勢いで燃え盛った。目を見開いてそれを見るカサンドラ。おそるおそる振り返り、愚姉を視界に映した。


「ちっ! 外したか! まったく! 本当に敵が多いんだから!」


 愚姉はそう言って、近づいてきたリザードマンの攻撃を躱した。魔物の攻撃を避けながらだけど、きちんとこっちを援護してくれたみたいだ。悔しいけど、アイツもビューロウの娘と言ったところか。


「ふん! カサンドラよ! サッサっと僕を倒さないと姉が来るぞ! それとも逃げるか!? 誇り高い闇魔が逃げるだなんて、お前は本当にどうしようもないな! その背中、笑ってやるよ! おまえは残虐で誇り高い闇魔だけど人間一人が怖くてたまらないってなぁ!」


 カサンドラは涙目になりながらこっちを睨んできた。ふふふ。おじい様に聞いたから分かっているんだよ。闇魔という種族は心底人間を馬鹿にしているって。だからこそ、見下しているはずの人間にこうやって挑発されたら、逃げるわけにはいかないのだろう?


「おま、お前なんぞを恐れるわけがあるかぁ! お前は! お前だけは私が自ら殺してやるよ! その首をねじ切って、お前の姉に見せつけてやるからなぁ!」


 ほうら。挑発に乗ってきた。確かに僕にはあいつを倒すほどの攻撃力はないけど、回避術には自信がある。ウルリヒがあの娘を助けるまで、きっちり時間稼ぎをやらせてもらうさ!


「うわ。あいつ、マジで性格悪くない!? 身内として恥ずかしいんだけど」


 ダクマーのつぶやきが僕の耳に届いた。


 いや、王国の勝利のためにやってるんだよ! 決して僕の性格が悪いんじゃないからな!


 そう思いながら、僕はカサンドラの攻撃の回避に集中するのだった。

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