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転生少女は色のない魔法で無双する  作者: 小谷草
第4章 色のない魔法使いと貴族と王族と
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第244話 兄弟の背中とスパイと ※ 前半 ヴァンダ視点 後半 ビヴァリー視点

※ ヴァンダ視点


「ぎょええええええええええ!」


 景色がものすごいスピードで流れていく。騎獣に乗った時だって、こんなに早くは動かなかった。きれいでおとなしそうな外見をしているのに、こんなところは武の三大貴族なんだと否応なしに納得させられた。


「ヴァンダ! 耳元で騒がない! そんなに叫ばれたら集中できないでしょ!」


 ラーレ先輩が横目で私を睨んできた。


 ギルベルトさんのリッフェンで兄上や第一王子の企みを知った私たちは、急いで学園の地脈に向かったんだけど・・・。


「これが一番早いんだから、ちょっとは我慢なさい! まったく! 背負って走るとダクマーは喜ぶし、アメリーは抱き着いてくるし、デニスは泣き叫ぶわ・・・・。ホルストなんか途中で気絶しちゃうし! 挙句にヴァンダは耳元で叫び続ける! すぐに着くんだからちょっとの間くらい我慢しなさい!」


 そう。あっしはラーレ先輩に背負われて高速で移動しているのだ。本人曰く、これが一番早いらしいんだけど・・・。


 確かにラーレ先輩の足は考えられないくらい速い。並走していたはずのヨッヘムは、いつの間にかはるか後方にいて、必死の形相で先輩を追いかけている。王の影より速いって、どういうこと!?


「ラ、ラーレ様! そのあたりでストップでござる! 学園の敷地内にはもう入ったでござる! ちょっと、息を整えさせて・・・」


 ヨッヘムの言葉で立ち止まり、あっしを静かに降ろしてくれた。なんか、まだ地面が揺れている気がする。騎獣に乗るより速いなんてどうなってるんすか! 確かに昔の魔法使いは、騎獣より速く走ったと言われてるっすけど!


 ラーレ先輩はヨッヘムの息が整うのを待っているようだった。この後、ビューロウ家の護衛と合流する手はずになっているんだけど・・・。


「はぁ。一番上の兄弟ってこういうところがあるわよね。弟や妹が疲れたら背負ってあげなきゃなんない・・・。こういうところは損だなって思うわ」


 いや、今回は先輩が自分から背負うって言ったんじゃないすか! そのおかげでいち早く学園に着いたんすけど、なんだか理不尽に八つ当たりされた気がするっす!


 でも、ラーレ先輩に背負われて懐かしい気持ちになりやした。昔は、こうやってウルリヒ兄上に背負われることも多かったのに・・・・。遊び疲れたあっしを、ウルリヒ兄上は決して見捨てず背負ってくれたんでした。


 いつから、あっしたちはお互いを嫌うようになったのだろうか。兄より先に闇魔法を展開できた時か、闇魔法で初めて魔物を倒したときか。それとも、あっしが闇の星持ちに認定されたときだろうか・・・。


「ラーレ先輩。あっしたちがやろうとしていることって正しいんでしょうか。確かに兄はやり方はあれですが、闇魔を操れたとしたら王国側の勝利に近づくのは間違いない。ナターナエルの持つ情報には、戦況を一気に変えるものがある可能性は高いですから。横暴だからってそれを止めるのは、もしかしたら間違っているのでは?」


 あっしがおずおずと訪ねると、ラーレ先輩は心配そうな顔であっしを一目見て、明後日の方向を見ながら、それでも断言した。


「多分、ウルリヒさんの魔法が上手くいくことはない。一見上手くいっているように見えても、それは多分まやかしよ。闇魔を操ることなんて、できっこないんだから」


 へ? ラーレ先輩は適当なことを言う人じゃないけど、何を根拠にそんなことを言っているのだろうか。


「私の母は、闇魔法の名家、バル家の出身よ。うちに嫁いできたとき、おじい様がバル家の秘術について詳しく聞いたそうなの。当時、バル家は没落寸前だったから、秘術が消えちゃうよりはって、その秘密を詳しく教えたそうよ。そしておじい様は結論付けた。世界樹の加護をなんとかしない限り、闇魔を使役するのは難しいってね」


 ビューロウの中でそんなやり取りがあったんっすか! バル家って言うと、うちが闇の魔法家を名乗る前はかなりの勢力があったと聞いてやす。闇魔法のノウハウも、うちとは比べ物にならないくらい研鑽を積んでいたそうです。その秘術でも、闇魔を操る方法はなかったということ?


「しかし、それが本当に正しいと言えるのでござるか? いや、ビューロウ家のバルトルド様が著名な魔法使いということは聞いているでござるが、確か彼は闇魔法を使ったことはなかったような・・・」


 いつの間にか息を整えたヨッヘムが会話に加わった。ラーレ先輩はそっと頷いた。


「まあ確かに。おじい様は闇魔法を使えないし、言ってることが正しいかどうかなんてわからないわよね。でも、私やダクマーはおじい様の言葉を信じている。それに足るだけの実績があるからね」


 そう言うと自分の両手を見ながら教えてくれた。


「まず一つ。私の秘術はおじい様が開発したものだということ。闇魔法が使えないのに、誰よりも強力な魔法を開発して見せた。ウルリヒさんには悪いけど、魔法の研究者として頭一つ抜けているのよ。うちのおじい様は」


 うう。たしかに。ラーレ先輩のあの魔法は他の魔法とは一線を画するものだ。黒い炎の威力もさることながら、あの魔力を阻害する煙は凶悪の一言だ。発動させたら、止める術はない。さらには、敵味方の区別を付けられるというから、本当にどうしようもない魔法なのだ。


「そしてもう一つは、あの人は魔法に関して嘘は言わないということ。私は知っての通り魔力過多で、いろんな人から魔法を使えないと言われてたけど、おじい様だけは魔力制御を鍛えれば必ず魔法を使えると言い続けてくれたわ。でも反対に、ダクマーには魔法陣を扱えるとは絶対に言わなかった。知っての通り、ダクマーは魔法を使った剣術は得意だけど、今だに魔法陣を扱うことはできない。あの人は、できることとできないことをしっかり見分けることができるのよ」


 そ、そうなんすか。それだけの実績があるなら、先輩たちがビューロウ家のバルトルド様の言うことを信じるのは仕方のないことかもしれない。


「話を聞く限り、ウルリヒさんがそこまで優れた研究者とは思えない。おじい様や歴代のバル家の魔法使いより優れているとはどうしても思えないのよ。そんな彼が、バル家の魔術師でもなし得なかった闇魔の使役を実現させたなんて、信じられないわ」


 うう。ラーレ先輩はそう言うけど、あっしにも身内をかばいたい気持ちはある。あっしが反論しようとしたその時、先のほうからあっしたちを呼ぶ影があることに気づいた。


 その影は素早く私たちに近寄ると、声を顰めながら話しかけてきた。


「ラーレお嬢様。ヴァンダ様。お気を付けください。この辺りの巡回兵の様子が何かおかしいのです。見つけられたら何をされるか分かりません。姿を隠しながら、学園の地脈に向かいましょう」


 その影――ビューロウ家の選任武官のコルドゥラは、声を潜めてそう言ったのだった。



※ ビヴァリー視点


「兄上。どういうおつもりですか? 父上の許可なしにこの地脈に押しかけるなんぞ・・・。これは、父上から反逆と取られる可能性がある。今なら見なかったことにしますので、どうかお帰り下さい」


 学園長が、堂々とした態度で私たちを説得している。


 私たちは連れだって学園の地脈へと向かっていた。途中の守衛はライムント様の部下のホルストという男が一瞬で無力化した。あまりの手際に私は思わず声を漏らしてしまった。まあ、守衛が血を流して倒れたのを見て「やべぇ」と言って頭を掻いたのは気のせいだと思いたい。


「ビヴァリーよ。今日で、すべてが変わる。私たち召喚魔法の使い手が正当に評価されない日は今日で終わるのだ。これからは、我らが召喚魔法が人々の生活に欠かせないものとなる。恐れ、危ぶまれてきた日は今日で終わるのだ」


 テオフィル先生が喜びを隠しきれないように語り掛けてきた。


「でも・・・」


 私はヒエロニムス様の周りにいる黒づくめたちを見回した。


 今日、学校に向かう前にテオフィル先生が迎えに来た。そして、召喚魔法の未来のために自分についてくるよう説得してきたのだ。


 私は半信半疑ながら先生の後に続き、こんなところまで来たのだけど・・・。


「あの黒いローブの連中、なんなのですか。こんなところに押し入るのに姿を隠すなんて怪しすぎます。ヒエロニムス様でさえ、姿を隠していないのに」


 私が声を顰めながら訪ねると、テオフィル先生は苦笑しながら答えてくれた。


「彼らは中央の貴族とその部下と、ヒエロニムス様の切り札らしい。なんでも学園長の意表を突くためにそうしているそうだが・・・。なんとも悪趣味な話よ。まあ、こういった遊戯にも付き合っていかねばならんのは、ワシらの立場なら仕方のないことなのかもしれんがな」


 テオフィル先生の言うことに納得しそうになるけど、なんとなく嫌な感じがする。黒いローブたちの中でひときわ背の高男から発する気配は、私をかなり怯えさせた。どこかで感じたことのあるその気配は、私に不吉な予感をさせたのだった。


「先生。今からでも遅くありません。この集団から逃れて陛下に許しを請いましょう。もちろん、簡単には許されず、陛下の怒りを買うかもしれませんが、このまま従うよりはましです。今なら、まだ間に合うはずですから」


 私は声を顰めながら嘆願するけど、テオフィル先生は困ったように微笑んだだけだった。その表情を見て、テオフィル先生が引くつもりなどないことを理解する。


 思い返せばテオフィル先生はいつも言っていた。私を悲しそうに見て、「こんな才能のある子が認められないのは間違っている」と・・・。


「私のためならいいのです! 私は実力で自分の力を認めさせてみせます。だから、こんな誤った道は選ばず、先生は正道を行ってください! 今ならまだ間に合います! 学園長に許しを請うのです!」


 私が心から説得している間にも、学園長とヒエロニムス様の対峙は進んでいた。学園長は地脈を背にしながらなんとか説得しようとするが、ヒエロニムス様は小ばかにしたような顔で学園長を見下していた。その冷たい顔に、私は背筋に冷たいものが走るのを感じた。あの人に付いて言ってはならない。そう強く感じたんだ!


「くっくっく。貴様ごときが私に意見をするなぞ、許されると思っているのか? 妾の子のくせに、王国の正統な後継者の私に意見をするなんぞ・・・・。学園長という不相応な立場に着いたことで何か勘違いしたのだな。貴様ごときが学園を統べるなど、いつまでも許されると思うなよ!」


 強い口調で言うヒエロニムス様に、学園長の隣の教員たちが食って掛かろうとする。だが学園長は教員たちを押しとどめ、さらに言葉を尽くして説得した。


「私が下賤の者だというならそうなのでしょう。学園長の立場が私にふさわしくないのも自覚しております。ですが、国王陛下の許可なく神鉄の武具を使った実験をするのは間違っております。今日のところはお帰り下さい。国王陛下の許可があれば、どれだけでもお手伝いいたしますので」


 言い募る学園長に向かって、フードで身を隠した人物があきれたようにため息を吐いた。


「ヒエロニムス様。無駄ですわ。この人は、心の底から意気地のない人なのです。国王陛下のお言葉がなければ指一本動かせない臆病者なのです。なにを言っても無駄ですわ。こんな人、構うまでもないのですよ」


 その言葉に学園長は目を剥いた。


「エルヴィーラ・・。君なのか?」


 フードの人物・・・エルヴィーラと呼ばれた女はフードを脱ぎ、冷たい目で学園長を睨んだ。


「あなたはあのころから全然変わらないのね。一時とはいえ、こんな男が私の婚約者だったなんて吐き気がするわ。まああなたのおかげで、私は真に愛する人と一緒に慣れたのだけど」


 そう言って、女は隣のフードの男を流し目で見つめていた。男は笑いながらフードを外した。そして表れたのは、20代後半くらいの背の高い男だった。間違いなく貴族。立ち振る舞いから察するに、相当の高位貴族が黒いローブの一団に紛れ込んでいたのだ。


「ゴルドー侯爵はヒエロニムス兄上を未だに支持していると聞いたが、君もそうなのか! フィリベルト!」


 フィリベルトって、フィリベルト・ゴルドー!? 闘技場を支配する中央の大貴族じゃない! ゴルドー家の後継で、王宮にも大きな影響力を持つって聞いたけど・・・。


「くはははは! 王族のまがいものごときが偉そうな口を叩くなよ! 貴様は黙って私たちに従えばいいのだ! そうすれば、おこぼれくらいはくれてやっても良いのだぞ!」


 こいつら! 寄ってたかって学園長を馬鹿にするとでもいうの!? こんな奴らと一緒にされたくはないのに! 先生がいなかったら、あなたたちなんてすぐに手を切ってやるんだから!


「さあ! 学園長を語る愚か者を斬ってしまえ! おっと、一応は王族だからな! 命は取るなよ! 我々の力を見せつけてやろうではないか!」


 そう言って、他のローブの男たちを振り返った。


 だが、そこに立っている者はいなかった。みんな蹲っている。一瞬にして、黒ずくめの男たちのほとんどは、大剣で斬り倒されてしまっていたのだ。


「学園長。申し訳ない。あまりにも聞くに堪えない戯言だったので。つい、手を出してしまいました。でも、もう十分でしょう。反乱の証拠は、これで十分集まったはずです」


 手を下した男――ホルストは、この場にそぐわない笑顔で頭を掻いた。


「ホ、ホルスト!? どういうことだ! 貴様! ビューロウの後継になりたいのではなかったのか! この場に来て裏切るなど!」


 ライムント様が醜く喚いた。どういうこと!? この土団場で、ホルストさんはヒエロニムス様を裏切ったとでもいうの?


「あなたを信用するわけないじゃないですか。あなたたちは散々、地方の貴族をないがしろにしてきたのですから。それに私は裏切ったつもりなどありませんよ。私が命令を聞くのは、当家の当主と国王陛下だけです。地方には、あなたの味方をする貴族など、どこにもいません。あなたについていけばどうなるかなんてわかっているのですからね」


 そ、そういうこと? つまりホルストさんは、最初からビューロウ家の当主の命を受けてヒエロニムス様の命令を聞くふりをしていたってことなの?


「さて、悪いが少し眠ってもらおうか。君たちの処遇は、国王陛下や学園長が決めてくれる。まあ、意識がない方が君たちにとって幸せだと思うけど、な!」


 そう言って、ホルストさんは大剣を大きく振り回した。あのダクマーさんの従弟というのも頷けるくらい、鋭い一撃だった。


 だけど・・・。


「さすがにこれは通せないですね。防がせていただきますよ」


 その一撃を、フードを着た男が片手で止めてしまう。


 うそ! あんなに強そうな攻撃を、片手で簡単に止めたとでもいうの!?


「ほう。なかなかいい攻撃ですね。でも、私を倒すまでには至らないようです」


 男は笑いながらフードを外した。


 その顔を見て私は茫然となってしまう。凍の男のことを知っている。故郷で、あまりにたくさんの人を殺してきた男なんだ。私の幼馴染もこいつに殺された。旧帝国領に住んでいた人でこの男を知らない人はいない。この男は残酷な行いで、多くの人を傷つけてきたんだ!


「道化師レオポルド。あの森にいた闇魔が、なんでこんなところに?」


 凶悪な闇魔が、ホルストさんの前に立ちふさがっていたのだった。

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