第242話 ライムントたちの行方
「ライムントたちがビヴァリーさんをさらったってこと? ヴァンダ先輩を捕まえようとしたように? でも、なんで!」
叫ぶ途中で気づいた。ビヴァリーさんは召喚魔法の使い手だ。もしかしたら、ナターナエルを呼び出すために彼女の力を利用しようとしたのかもしれない。
「ビヴァリーさんは昔、召喚魔法を教えているテオフィル先生に師事したと言っていました。そのつてで連れていかれたのかもしれません。急いで助けないと!」
焦ったように言うアメリーに、ハイデマリーが冷や水を掛けた。
「連れていかれたとは限らないんじゃないかしら? 召喚魔法は騎獣や護衛獣を呼び出す以外では忌避されている。どうしても、帝国の事故のことを連想させられるからね。でも、この件でナターナエルを操って情報を引き出すことができれば、召喚魔法自体も見直されるかもしれない。その子は召喚魔法の復権をかけて自分から協力しているのかもしれないわ」
私はハイデマリーを睨んだ。こいつ! まるでビヴァリーさんが敵対するようなこと言っちゃって! アメリーの言う通り、攫われちゃった可能性だってあるじゃない!
「味方だと思い込んで後ろから斬られちゃう可能性もある。そのビヴァリーって子が敵なのか味方なのか、冷静に判断するべきなんじゃない? 忌々しいけど、あなたは換えの効かない戦力なの。うっかり油断して倒されちゃったら目も当てられないわ」
くっ! コイツ! 私やビヴァリーさんをコマのように言うだなんて!
思いっきり反論しようとした私を、エレオノーラが止めた。
「二人とも落ち着きなさい! おそらく、そのビヴァリーって子もライムント様の近くにいるはず。ライムント様たちを探しましょう。そうすればビヴァリーって子のことは会えば自ずとわかるわ」
悔しいけど、エレオノーラの言う通りだ。ビヴァリーさんが敵なのか味方なのかは実際に会えば分かると思う。今は、彼女たちの行方を全力で追うべっきなんだ!
「今のライムント様についている貴族の一人に、ゴルドー家の人間がいる。ゴルドー家は、闘技場の管理を請け負っている貴族だ。第一王子とも懇意らしいから、闘技場で復活の儀式を行う可能性は高いんじゃないか」
ギルベルトの言葉に私はいきり立った。よし! ビヴァリーさんの潔白を証明するためにも、急いで追いつかないと!
すぐにでも駆けだしそうになる私を、マリウスが止めた。
「確かにライムント様たちとゴルドー家は近しい関係にあるけど、本当にそっちに行ったとはかぎらないんじゃないのか? ライムント様を確認したわけじゃないんだろう? あの人たちがそこにいるとは限らない。時間的にここから行ける場所は限られているんだぞ」
マリウスは顎に手を当てながらぶつぶつとつぶやいた。
「そもそも、ナターナエルの召喚に闘技場の地脈が適しているとは限らない。あそこは王都にある3つの地脈の中で一番小さなものだとされているんだ。いくら都合がいいとはいえ、そんなところで大事な儀式を行おうとするのだろうか。失敗が許されないのは相手も同じなんだからな」
う。そうなのか。王都に地脈が3カ所あるのは知ってたけど、大小があるなんて初めて聞いたよ。私以外はみんな知ってたみたいだけどね!
「一番大きな地脈は確か王城にあるんでしたよね? でも王城ってかなり警備が厳重だって聞いています。それに今は、各地から貴族が詰めています。王城でことを起こす可能性は低いんじゃないでしょうか?」
アメリーの言葉に、マリウスは深く頷いた。
「闘技場は出力不足の可能性がある。そして王城は警戒が強くて入れない。となると、残り一つの地脈を使って儀式を成し遂げようとするのかもしれない」
残り一つ、つまりあいつらは学園の地脈を利用してナターナエルを呼び出そうとでもいうの!?
「学園には優秀な教員がいる。とはいえ、生徒たちを守るためにどうしても戦力を分散せざるを得ない。学園で戦いを学ぶとはいえ、本当に戦力になる生徒はごく一部だからね。所詮は学生、と考える貴族が多い。となると・・・」
マリウスが結論を言おうとしたその時、オティーリエがいきなり窓のほうを指さした。
「ちょっと待って! 窓に何かいる! 2つもあるあれは・・・・紙飛行機!?」
紙飛行機って、確かリッフェンだよね? 魔力のある相手に手紙で伝言を送る魔法! こっちに届いたっていうの?
紙飛行機はコンコンと窓を叩いている。それを見て、ギルベルトは慌てて窓を開けた。
2つの紙飛行機は窓を超えると、それぞれエレオノーラとマリウスの胸の前で止まった。そして、電池が切れたように動かなくなった。2人とも慣れているのか、紙飛行機を掴むと、素早くほどいて中の文章を確認している。
「予想通りね。闇魔の武具を封印した宝物庫からいくつかの武具がなくなっていたそうよ。中には、あなたが倒したナターナエルやヨルダンのものもある。闇魔が落とした武具は、その危険性から重要な宝物とされているのに! 無断で持ち出したらかなり厳しい罰則があるのよ」
おそらく王家の関係者に聞き取りをした返事なのだろう。エレオノーラは手紙を見て悔し気に爪を噛んだ。
一方のマリウスも深刻な顔をしている。
「私のほうは、うちの当主からだ。国王直属の部隊が、闘技場に押し入ったらしい。かなりの精鋭が行っているみたいで、闘技場の地脈はおそらくすぐに徴収されると思う。私たちが今から向かっても、ことが終わっている可能性が高いな」
そっか。闘技場のほうはそんな感じになっているんだね。まあナターナエルの武具が奪われた可能性があるなら、国王陛下が迅速にことを治めようとしたのは無理のないことかもしれない。
「どうする? 私たちも闘技場に行ってみる? 万が一だけど、容疑者を捕える前に召喚魔法が使われた可能性もある。ナターナエルが復活したのなら、コレの出番だと思うけど。さっきも言った通り、あそこにいる可能性は低い。いないという確証もないけどね」
からかうようにハイデマリーが言う。いやコレ扱いされたんだけど! ちょっと!どういうこと!
エレオノーラは腕を組んで考え込んでいるようだった。
「そうね。ダクマーの代わりをできる者はいない。ここで間違えたら大変なことになるか」
そして考えをまとめるために口を開いた。
「闘技場の地脈は出力不足の可能性はあるけれど、でも第一王子としては確実に地脈に辿り着けるのがメリットよ。でも第一王子の立場になったら、そんな誰もいないところで大きなことをやろうとするかしら? むしろ、多くの人に見られたいと思うのかも。かといって王城は警固が本格的に厳しい。ならやっぱり、学園の地脈に行った可能性が高いんじゃないかしら」
学園はすべての貴族が学ぶ場所でもある。新しいことをやるのにうってつけだっておじい様が言ってた気がする。第一王子たちがここで新たな時代を宣言するのはおかしくないかもしれない。
「学園の地脈に行ってみましょう。きっと、ライムント様たちはそこにいる。私たちで、第一王子の野望を止めるのよ!」
エレオノーラの宣言に、私たちは力強く頷いたのだった。




