第233話 ピンチに援軍はつきもの
私たちは防衛ポイントへと向かっていた。
隊列はこれまで通り、先頭に私たち、真ん中にアメリーたち、そして後方に教員陣と言った順番で進んでいる。前回よりも隊列間の距離は短く、なるべく密集して進んでいるんだよね。
「みんなストップだ。そろそろ探索を行う」
エッボ先生はそう言うと、右手に緑の魔法陣を展開した。
「サッチャー・ナッチ!」
四方にエッボ先生の魔力が飛んでいく。そして戻ってきた魔力を読み取ると、エッボ先生は焦ったような声を上げた。
「「くっ! 気づかれたか! 後方から闇魔たちが7体ほど徒党を組んで近づいてきている! みんな! 走れ! 一刻も早く味方と合流するんだ!」
エッボ先生の魔法は隠密性が高そうなのに、それでも闇魔はこっちの動きを察知したとでもいうの!?
「こ、こんなところで闇魔と戦うなんて冗談だろ!? お、オレはまだ、こんなところで!」
我先にと走り出したのはロータルだった。いや闇魔に追われて怯えるのは分かるけど、私たちを追い抜かそうとすることないじゃない!
「くそっ! このままじゃ、アイツ、孤立しちまうぞ! 俺達も急ごう!」
ジークが焦ったようにロータルを追う。私たちも慌てて彼の後を追うんだけど・・・。
「ジーク君! ロータル君を止めろ! 正気を失っては闇魔の思うつぼだぞ!」
後方からエッボ先生の指示が飛ぶ。私たちも慌ててジークを追うんだけど・・・。
ちょっと! 魔法使いのくせに、ロータルの足は速すぎない? 多分、身体強化を使っているんだろうけど、すんごいスピードで泣きながら走ってるようだけど!
その時、私たちの斜め後ろから何かが高速で飛来してきた。
これは、闇魔の魔法!? 闇魔が後ろから攻撃を放ったとでもいうの!?
数は6発! 教員陣のスキを突いて魔法を撃ったのはさすがだけど、でもここには私がいる!
「させるかぁ!」
私は刀を振るって闇魔の魔法を撃退した。
でも数が多い! 3発は私の無属性魔法でかき消せたけど、残り2発は前のほうに突っ切っていったよ!
「くっ! 食らうかよ!」
ジークが盾を構えた。そして魔法を上にかちあげて直撃を躱すことに成功した。
直接受け止めずに魔法をそらすとは・・・。腕を上げたね!
だが残りの1発はロータスの前方に着弾する。そして地面に落ちると、そこから爆風が勢いよく巻き起こった!
「う、うわぁ。なんだ! なんなんだよ!?」
ロータルは爆風によって後方に吹き飛ばされた。
まずい! 押し戻された! このままじゃあ、闇魔に追いつかれてしまう!
「くっ! させるか!」
ガスパー先生がロータルをかばうように前に立った。
そしてエッボ先生は・・・。
「フェウェウェーク!」
上空に向かって火魔法を撃ちあげた!
魔法は空高く上ると、はじけて大輪の花を咲かせた。
領地対抗戦でハイデマリーが上げたけど、見事な花火だよね! この魔法で緊急事態が起こったことを知らせているのか! 南領の人って、かなりの人がこの魔法を使えるよね!
「グオオオオオオオ!」
いつの間にか、大量のコボルトが雄たけびを上げながら襲ってきた。あれは、闇魔に召喚された魔物か! しかも先頭にはナイフを持った派手な服の闇魔が襲い掛かってくる。 ちょっと! やばくない!?
「くっ! 好きにさせてたまるか!」
ガスパー先生が槍を振るう。
だけど、走り込んできた闇魔は頭を下げて槍を避けると、ガスパー先生目掛けてナイフを突きつけた! ガスパー先生は槍の柄で何とかその一撃を受け止めるが、その直後に放たれた回し蹴りであっさりと吹き飛ばされていく。
「くっ! レイ!」
エッボ先生が魔法を放つ。だが、その魔法は闇魔の魔力障壁によって簡単に阻まれてしまう。
この闇魔、強い! エッボ先生の強力な魔法を簡単に防ぐなんて!
「武具持ちか、あるいは上位闇魔か・・・・。ぬかったわ!」
エッボ先生は悔し気だ。だけど次の瞬間、闇魔目掛けて強力な魔法が放たれた。
「ベスチバーン!」
すさまじい熱量の魔法が、まるでレーザーのように伸びていく。
これはアメリーの火魔法か! さすが星持ち、凄まじい勢いの魔法だね!
だけど闇魔は余裕の顔で含み笑いを漏らした。
「フフフ。星持ちですか。これは幸先がいい」
なにこいつ! アメリーの魔法に全く動揺しないなんて!
すさまじい熱量の魔法は、しかし闇魔の魔力障壁によって阻まれた。
「う、うそだろう! あんな強力な魔法が、あっさりとかき消されるなんて!」
ロータルが泣きそうな声で叫ぶ。
こいつ・・・。ただの武具持ちじゃない! おそらくヨルダンと同じ高位闇魔か!
こんなところでこんなに強力な闇魔と出会うなんて!
「そんな・・・。私の魔法が・・・・」
アメリーが茫然としている。
まずい! ここは戦場だよ! 立ちすくむなんて、攻撃してと言ってるようなもんじゃない!
私はアメリーに近寄って盾になろうとするが、そんな私の足元に風の魔法が放たれる! 私は何とか横に飛んで躱すが、そのまま足止めを食らってしまう。思わず魔法を撃った方向を見ると、杖を持った闇魔と目が合った。いつのまにか、私は6体の闇魔に囲まれてしまっていたのだ。
「はっはっは! あなたは神鉄の武器を持っているようだが、近づけなければ戦えないだろう! 距離を取ったまま、なぶり殺しにしてやるぞ!」
闇魔たちは連携して私に攻撃してくる。躱し続けることはできるけど、このままじゃ、私は攻撃に参加できない! 闇魔たちめ! 私を中距離から狙い続けるつもりか!
「くっくっく。ナターナエル様を倒した剣も、距離さえとれば襲るるに足りませぬ。封じさせていただきますよ」
そう言って嘲笑したのは、アメリーの攻撃を防いだ高位闇魔だ。
改めてみると、コイツ、かなり変な格好をしている。派手は色の服を着ていて、まるでサーカスのピエロみたいだ。
こんなふざけた格好の闇魔に、侵入されたとでもいうの!?
「く、くらえ! 私たちを馬鹿にするな!」
ロータリが放った魔法は、しかしあっさりとピエロの魔力障壁に防がれた。
あれは、青い色の障壁・・・。水の障壁で守られているということか! さすが高位の闇魔だけあって、凄まじい防御力だよ!
ピエロは大声で笑い出した。
「はっはっは! いやぁ、王国の貴族とはこんなに無様なものなのか。魔法もこんなに無様で、本当に哀れだねぇ。かわいそうだから、この場で殺してあげるよ」
そう言ってピエロは手を前にかざした。
私は慌ててロータルを助けに向かおうとするが、私を囲んだ闇魔にあっさりと足止めされる。
ちょっと! 私が行かないと、ロータルを守ることなんてできないじゃない!
周りを見ると、中位クラスの面々は闇魔と戦闘中だった。ロジーナも、自分を襲う闇魔に対処するので精いっぱいのようだった。
「じゃまだ! どけ!」
ガスパー先生の槍が、闇魔の頭を貫く。
その一撃は見事だけど、その位置からじゃあロータルを守ることなんてできない!
「くっ! 逃げなさい!」
エッボ先生が叫ぶが、ロータルは震えたまま動けない。
なんか涙ぐんでいるように見えるんだけど! まずい! このままじゃあ!
ピエロはニヤニヤ笑いながら、魔法を発現した。
「くっくっく。ざぁんねんでした! この子は、ここで死ぬんだよ!」
その大きな光球は、ロータルに向かってゆっくりと頬り投げられた。
ロータルの顔が絶望に染まる。
あの一撃を食らったら、ロータルは跡形もなく消えてしまうだろう。私は近づきたくても近づけなくて、ピエロを睨むことしかできなかった。
だけど、その時だった。
「若者よ。伏せなさい」
次の瞬間、いきなり現れた影がロータルの前に立ちふさがった。私の目で持捕らえられないくらい素早い動きだった。
その影はロータルを魔法からかばうように盾を構えた。
「速い!」
私がつぶやくと同時に、ピエロの魔法が盾に直撃した。
すさまじい爆風が起きる。砂煙が起こり、前方を確認することができないんだけど・・・。
「な、なんだと!? なぜおまえがここにいるんだ!」
ピエロが驚愕の表情を浮かべている。
あの光球は、盾を持った男にあっさりと防がれたのだ。
「う~ん。なかなか。悪くない一撃だけど、ちょっと詰めが甘いかな」
その男は大きいわけではない。むしろ背は低くて、顔も童顔だ。せいぜいで中学生くらいにしか見えないんだけど・・・。
その男は似合わない口ひげを撫でつけながらつぶやいた。
「まあ、少年を守れたんだから良しとしようか。僕が来たからには、君たちに次世代の若者は殺させやしないよ」
私、知ってる。この人のことを。
白く輝く盾と剣、そして黒い鎧を纏ったこの人は、王国最強と言われる猛者なんだ。私は手紙でしか話したことがないけど、噂は何度も耳にした。私たちビューロウにとってライバルともいえるこの人を、国王陛下は厚く信頼していると言われている。
「さて、反撃の時間と行こうかな」
西を統べる大貴族の一人、フリードリヒ・クルーゲが、神鉄の武具を持って参戦してくれたのだった。




