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転生少女は色のない魔法で無双する  作者: 小谷草
第4章 色のない魔法使いと貴族と王族と
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第231話 初戦闘 ※ ビヴァリー視点

※ ビヴァリー視点


「おい! 前の連中が止まったぞ。確か接敵はもう少し先のはずだよな? 中位クラスの先輩たち、おじけづいたんじゃないか?」


 ロータルがあきれたように言った。


 その言葉に心の底で同意する。今回引率を任されたのは中位クラスの2年生だ。学園では最初の魔物討伐は中位クラスがエスコートするらしいけど、正直不安しかない。優秀な成績を上げた私たちなのに、なんで中位クラスの人たちに守られなければならないのか。


 でもそんなロータルを窘めたのはアメリーだった。


「戦場ではこちらの想定内に事が進むとは限りません。最初の想定よりも前進したとみるべきでは? コボルトの機動力には目を見張るものがありますし」


 中位クラスをかばうように言うアメリーに、内心かなり腹が立った。


 確か、今回引率しているダクマーはコイツの姉だったよね? だから庇うようなことを言い出したけど、正直癇に障る。アメリーはいつもいい子ちゃんな言動が多いけど、今日は今日はそれが一段と響いている。


 英雄だか何だか知らないけど、所詮は加護なし。私たちの相手にはならない人材のはずなのに。ナターナエルを斬ったんだって、きっとまぐれなんじゃないの? 王都への炎渡りでかなり消耗していたはずだしね。


「身内だから庇いたいってんだろうけど、先輩たちがふがいなくて迷惑が掛かるのは私たちなんだぞ。星持ちだからって調子に乗ってんじゃねえよ!」


 ロータルが悪態をつく。うふふ。アメリーの奴、さすがに伯爵家の嫡男であるにはこれ以上言えないみたいだ。そのやり取りに、ちょっと胸がすく思いがした。あんまりやりすぎるとロレーヌ家が出張ってくるらしいけど、このくらいなら言っても問題ないだろう。


「この先に、コボルトが10体ほど陣を敷いている? おかしいですね。最初は20体ほどいたはずなのに・・・。あ、私たちが追い抜いて戦ってほしいとのことです」


 ハンドサインを読み取ったロジーネがそう報告してくれる。中位クラスの奴ら、さっそくミスをしたのか? 魔物の数を数え間違えるなんて、本当に頼りにならないな。


「まあコボルトごとき、どんなに数がいても私たちの敵ではない。中位クラスの雑魚どもに、私たちの力を見せつけてやろうではないか!」


 ロータルの言葉に私は笑いながら頷いた。

 正直、私の魔法は王国であんまり評価されていない。召喚魔法というと、どうしても帝国の事故のことを思い出させるのか、秘術が召喚魔法に関わると知られると引かれてしまうのだ。


 でも、召喚魔法は素晴らしいものなんだ。この戦いで教員たちにそれを示して、私の実力を見せつけてやる!


 ロータルの言葉に、ロジーネは溜息を吐いた。


「先輩たちへの暴言はともかく、私たちが戦わなきゃいけないのは変わらないですね。私が先行します。アメリーちゃんたちは援護を」


 そう言うと、ロジーネは盾を構えてじりじりと一人先行するのだった。



◆◆◆◆


 前方の茂みの奥にはコボルトたちが何かを探すように周りを見渡していた。時折、何かを確認するかのように言葉を掛け合っているようだった。私たちにはコボルト言語なんて分からないから、何を言ってるのかは読み取れないのだけど。


 先頭のロジーネは一度私たちを振り返る。そして大きく頷くと、茂みから素早く飛び出していった。


 カンカンと、短杖で盾を叩く音が響く。


 音に気づいたコボルトたちが振り返ると同時に、ロジーネは短杖をコボルト目掛けて振りかぶる!


「いけー! ファイア!」


 短杖から魔法陣が現われ、火の玉が飛び出していく! 火の玉はコボルトに直撃し、コボルトをあっという間に炎上させた!


 くっ! さすがロジーネ! 下位魔法のはずなのに、見事な威力だ! 魔法障壁を展開させる隙も与えず仕留めて見せるなんて!


「ウウォオオオオオオ!」


 コボルトの1体が雄たけびを上げて突撃してくる。だがロジーネに近づこうとしたその時、アメリーが姿勢を低くして突撃していった!


「お、おい! 星持ちのお前が何をやっている! お前が前に出たところで、相手にダメージが与えられるわけないだろう!」


 ロータルの言葉に私は目を見開く。星持ちの魔法使いのくせに、自分から相手に近づくなんて何を考えている!


 だが、アメリーが攻撃にさらされることはなかった。一瞬でコボルトの懐に移動すると、アメリーは武器を抜くと同時にコボルトの首を斬りつけたのだ!


 コボルトの首が宙を舞う。私たちは茫然とコボルトの頭部を目で追っていた。


「な、なんだ、今の・・・。魔力障壁を展開する隙すらなかったぞ!」


 ロータルが茫然としている。


 あんなことが本当にできるのか? 抜き手が全然見えなかったぞ! 


 走り抜けていくアメリーを目で追いながら、私は茫然としてしまっていた。


 茫然としてしまった私たちとは反対に、コボルトはひるむことなく剣を抜いたアメリーに殺到する。


 まずい! アメリーは大技を撃った直後だ! このままじゃあ、アメリーに攻撃が当たってしまう!


 だが、コボルトの攻撃がアメリーに届くことはなかった。


「えい! この! この!」


 ロジーネが短杖を使って魔法を放ち、アメリーを狙ったコボルトを吹き飛ばしたのだ。それどころか、盾を持って素早くアメリーの前に立ち、残りのコボルトたちをけん制していた。


「くそっ! さすがに上手い!」


 ロジーネの奴、さすがだった。大技を撃ったアメリーのスキを、完ぺきにフォローして見せるなんて! あいつら、事前に打ち合わせでもしていたのか? いや、コボルトと接敵するまでそんな時間はなかったはずだ。とすると、ロジーネは現場を見てすぐにアメリーのフォローに回ったってことか! あいつも伊達に上位クラスに属しているわけじゃないんだな。フランメ家のハイデマリー様に信頼されるだけのことはある!


「あいつだけに手柄を取らせるわけには!」


 焦ったロータルが、コボルトの群れに水の魔法を放った。

 だけど、その魔法はあっさりと躱される。そればかりか、コボルトの何体かがこちらに突っ込んでくるのが分かった。


 まずい! この位置では、私たちがコボルトの攻撃にさらされてしまう! ロジーネたちが盾になるように移動しなければならなかったのに!


 でも、ここならば私の秘術が使える。私の魔術を見せるのに、絶好の機会なのではないだろうか。


「ふ、ふふふ。私の力を見せてやる! みんな、キャンベル家の秘術にひれ伏すがいい!」


 私は腰から取り出した魔術具を構えた。


 カードのような形をしたこの魔術具は、使えば一瞬だけ魔物を召喚することができるのだ!


「いけ! 火トカゲよ! コボルトどもを焼き尽くせ!」


 魔術具がまばゆい光を放った。そして前方に赤い魔法陣が展開され、その中央に、5歩ほどの高さのトカゲが出現した!


「ぐおおおおおおおお!」


 トカゲは一吠えすると、コボルト目掛けて炎のブレスを吐き出した!


 炎のブレスがコボルトを直撃する。そして一瞬でコボルトを黒焦げにすると、さらに2体のコボルトを巻き込んだ!


「ま、まじかよ! コボルトが、一瞬で消し炭になったぞ・・・」


 ロータルが驚愕の声を上げた。


 見たか! わが秘術を! カードに魔法陣を設置すれば、魔物を一時的に召喚できるのだ! 

 まあ、これを行うにはあらかじめ地脈で魔法をセットしておかなければならないけど、威力はこの通り! 星持ちの火魔法以上の威力を吐き出すことができるのだ!


 コボルトは私たちに無謀にも向かってくるが、火トカゲの爪としっぽによって吹き飛ばされる。そして火トカゲは一吠えすると、そのまま光をまき散らしながら消えていった。


「とどめは俺に任せろ!」


 吹き飛ばされたコボルトに、ロータルが嬉々として魔法を放った。


 ロータルの魔法はコボルトの命を確実に奪っていく。ロータルは嬉しそうに高笑いを上げているけど・・・。


 あのコボルトは私の秘術で倒したものなんだけど、まあいいか。コボルトにとどめを刺すのは誰かがやらなきゃいけないことなんだし。


 前方ではアメリーとロジーネが残りのコボルトを始末していた。10体のコボルトを、私たちだけの力で殲滅することができたのだ。


 私はほっと一息つく。中位クラスの先輩たちに足を引っ張られる事態にはならなかったようだ。


 だが構えを解いて、ロータルのところに向かおうとしたその時だった。


「ビヴァリーさん! あぶない!」


 驚いて振り返ると、私に向かって駆け出してくるコボルトと目が合った。


 コボルトは大きく跳躍すると、その爪を私目掛けて大きく振りかぶっていた!


「!!!!」


 私は体を硬直させて思いっきり目をつむった。


 だけど、コボルトの攻撃はいつまでたっても私に降りてこなかった。


 恐る恐る目を開けると、私とコボルトの間に上級生が佇んでいた。たしか、2年のジークという生徒だったか? 彼は小型の盾を使ってコボルトの一撃を受け止めていたのだ。


 次の瞬間、ジークは前蹴りを放ってコボルトを突き飛ばす。そして体勢を崩したコボルトに、影のようなものが一瞬ですり抜けていく!


「・・・え?」


 吹き飛ばされたコボルトには首がなかった。私をすり抜けていった影は、一瞬にしてコボルトの首を斬り飛ばしていたのだ。


「残りは俺達でやるか。下級生とはいえ、10体のコボルトを無傷で倒せたなら上出来だろう」

「そうだね。貴族だけで戦うのは初めてだろうから、私たちで殲滅しても問題ないと思う。私たちが何もしないのはそれはそれで問題だからね」


 コボルトの首を斬り飛ばしたのは、アメリーの姉のダクマーだった。


 正直、全然気配が分からなかった。ダクマーは一瞬でコボルトに近づいて、その首を跳ね飛ばしたのだ。


 いつの間に移動したのかは分からない。その速さも隠密性も、私には察知することができないほどすさまじいものだった。


「あっちの方も上手くいったみたいね。とりあえず、下級生に傷一つなかったのは良かったと言えるんじゃないかな」


 ロータルの傍らには中位クラスの優等生っぽい生徒がおり、こちらもきちんとフォローして魔物からロータルを守り抜いたようだ。ロータルを襲ったコボルトは風魔法だろうか。魔法の一撃で吹き飛ばされ、優等生の魔法でとどめを刺されたといった感じだ。


 私は今度こそ戦いが終わったことを感じ、思わずその場にへたり込んでしまった。

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