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転生少女は色のない魔法で無双する  作者: 小谷草
第1章 色のない魔法使いは領地ですくすくと成長する
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第23話 秘剣の切れ味 ※ 後半 グスタフ視点

「えっと・・・。真剣なんて初めて持ったんだけど」


 私の10歩ほど前にはわらを巻いた案山子が立っている。案山子にまかれたわらは分厚くて、勢いだけでは斬れそうにない。なんか、おじい様が防御魔法っぽいのを込めていたみたいだしね。


 私は戸惑って見上げると、おじい様は鷹揚に頷いた。


「さっきやったことを、今度はその案山子に向かってやってみるのじゃ。真剣を使うとはいえ、デニスの木刀を斬ったようにはいかんだろう。だが、さっきのように身体強化できれば、かなりの威力になる。お前だけの武器になるかもしれんのだ。一度試してみる価値はある」


 その言葉を聞いて怪訝な顔をしたのはグスタフだった。


「しかし当主様よ。まだ10歳のダクマー嬢ちゃんには早いんじゃないか? わらとはいえ、ちゃんと当てないと斬れるもんじゃないし。その剣だって、それほど鋭いわけじゃないだろう?」


 グスタフの言う通り、刃に直角に当てないと斬れないし、ましてや渡された剣は、練習用の剣だ。丈夫なことは間違いないが、切れ味が鋭いとは言えない。


「失敗しても構わんよ。万一怪我をしてもワシならすぐに治せるからの。ダクマーの怪我を治すのは慣れておるわい」


 おじい様がニヤリと笑う。いや、怪我するたびにおじい様の元に運び込まれていたけどさぁ。


「ダクマーよ。さっきやったように、お前の技でわらを斬って見せよ。身体強化の可能性を見せてほしい」


 私は怪訝な顔でおじい様を見るが、すぐにわらを睨みつける。これは私の力を証明するチャンスではないか。


「まあ、よく分かんないけど真剣を振るチャンスなら、ちょっとおもしろいかもね。危なくないように見ていてくださいよ」


 私は再び魔力を全身に集中させた。そして真剣を上段に振りかぶると、体と真剣に魔力を循環させた。


「きええええええええええ!」


 私は叫ぶ。これは挑戦だ。今まで鍛えてきた剣なら、斬って斬れないはずはない!


 私は息を吸いこむと、床を蹴ってわらに肉薄する。そして気勢とともに勢いよく真剣を振り下ろした!


「秘剣! 羆崩し!」


 ばさり、と音がした。


 私の剣はわらをあっさりと斜めに斬り裂いていた。


「なっ! 一瞬で、あの厚いわらを断ち切ったのかよ! 確か、防御魔法もかかっていたはずだよな!?」


 グスタフが驚愕に目を見開いている。おじい様はニヤリと笑って真っ二つになったわらを見つめていた。


「一撃で、しかもあっさりとは。ワシの強化に近いものがあるな。筋力のことを考えると、魔力による身体強化はワシ以上じゃな」


 正直、自分でも斬れるとは思わなかった。私はニヤリと笑って再び剣を構えた。


「ふっふっふ。大剣豪、ここにあり! この程度のわら位、簡単に斬れてしまうのだ!」


 そう言って、今度は横凪に剣を振るった。


 わらは横一文字に斬って先の方が吹き飛んでいく。この機会に、わらを斬った感覚を覚えておきたい!


 調子に乗って3撃、4撃と剣を振るうが、5撃目を振るった時だった。


 パキィン


 私はわらを横に斬ろうとしたが、真剣の先の方がわらに食い込んだまま残っていた。手元に残ったのは、短くなった真剣だった。


 わらに食い込んだ剣先を見て、私は思わず言い訳をした。


「え・・・。なにこれ、もしかしてこれ、不良品?」


 私が思わずつぶやくと、おじい様は興味深そうに顎に手を当てた。


「いや。道場にある剣はすべてしっかり手入れされておる。お前が使ったからと言って簡単に壊れるはずはない」


 そういうと、私から折れた剣を受け取った。


「なるほどな。真剣の内部にまで魔力を行き渡らせると、鉄製の武器そのものにもダメージを与えてしまうのだな。属性付きの外部強化なら付加価値を与えることもあるんじゃがな」


 え? そう言われても、剣に魔力を流すと自動的に内部にも行き渡っちゃう。武器の外部にだけ魔力を通すことなんてできないよ!


「無属性魔法の思わぬ弱点と言ったところか。見た感じ、魔力が透明に近ければ近いほど、内部に魔力が浸透し、切れ味が鋭くなる。だが、武器自体にもダメージを与えて折れやすくなる。木刀ではそれほど影響がないように見えたが、鉄製の武器はお前には合わんかもしれんの」


 そういうと、納得したようにうなずいた。


 え? 私、鉄製の武器は使えないってこと?


「魔力が透明だから分かりにくいが、剣には相当の密度の魔力が込められておった。ただの剣では、お前の魔力には耐えられんと言うことだな」


 おじい様の言葉に私はいきり立った。


「い、いえ! まだまだです! 私の振りにはまだ改善点はあったと思います! もっと練習して、さらに精度の高い秘剣を撃てるようになりますから! そうすれば、剣に込めた魔力が少なくても、敵を魔力障壁ごと倒せると思います!」


 そう言うと、私は道場の出口に向かって駆け出していった。く、悔しくなんかないんだからね! もっと修行すればきっと、武器を壊さずに強い一撃を振るうことができるんだからね!


「こればっかりは、修行してどうなるということではない気がするがのぅ」


 おじい様のつぶやきが聞こえた気がしたが、私はさらに修行することを誓うのだった。



※ グスタフ視点


「当主様よ。まだあんなにちいせえのに、ダクマーはあっさりとわらを斬りやがった。あれが、体の内部強化ってやつなのか?」


 オレは思わず当主に聞いてみた。真剣を使っているとはいえ、ダクマー嬢ちゃんの剣はすさまじい威力があった。当主に従ってわらを用意したけど、あんなにあっさり斬り裂けるとは思わなかった。


「いや。ダクマーはまだ10歳で、使った剣もそれほど切れ味があるわけではなかった。魔力で内部強化を実現したとしても、まだわらを斬れるほどの力はないはずじゃ」


 当主はニヤリと笑う。ダクマー嬢ちゃんの成長がよほどうれしかったのか、表情を取り繕えないようだった。 


「おそらく、当家に伝わる秘伝書を読んだ成果だな。あれが内部強化を極めた先にあるという、3段階目の身体強化と言うやつよ。あ奴め。魔力による身体強化を、既にワシ以上に使いこなしておるよ」


 当主の言葉にぞっとした。ダクマー嬢ちゃんは10歳のはずだ。筋肉は未発達だし、魔力もこれからさらに大きくなる。このまま成長すれば、どれだけ巨大な強さを手にすることになるだろうか。


「しかし、使える武器に制限が掛かるとはの。無属性魔法の、思わぬ欠点と言ったところか」


 ダクマー嬢ちゃんが折った剣を見てはっとする。無属性魔法を覚えようとしていた俺にとっても、これは他人事ではないのではないか。


「と、当主様よ。オレの武器も壊れやすくなるってことはないだろうな?」


 オレは焦って質問すると、当主様は黒い笑みでオレのほうを見た。


「魔力が薄ければ当然武器の内部に魔力が行き渡りやすくなる。お前は土属性を薄めておるようだが、お前にとっても他人事ではないぞ」


 やっぱりか! 最近、剣が壊れて来てるように思ったのは気のせいではないらしい。大枚はたいて買った剣なのに、どうすればいいのか。


「まあ、対処法がないわけではない。例えばワシが使っている大剣はこのビューロウ家の初代から伝わっているもので魔鉄でできているとされておる。魔鉄製の武器なら、透明に近い魔力にも耐えられるんじゃ。まあ、今は手に入らんが、神鉄の武器でも、無属性魔法に耐えられるだろうよ」


 まじか! 魔鉄製か神鉄製の武器があれば、オレでも安心して戦えるんだな! 希望に顔を緩めるオレに、当主は残酷な言葉をかけてくる。


「しかし、ヨーク公国が滅びた今、神鉄製の武器が手に入ることはない。神鉄で作られたという聖剣も、今は行方知れずということらしいからの」


 神鉄の聖剣か。おとぎ話で聞いたことがあるが、聖剣って割には不気味なエピソードしかないんだよな。たしか、アルプトラウム島では罪人を処刑するのに使われたと聞いている。なんでも、罪人の罪を聖剣で洗い流すためだそうだけど。


 しかも、処刑の後、聖剣は罪人の死体としばらく埋められたっていうから、気味悪いことこの上ない。そうやって埋めたら罪人の死体は消えちまうらしいから、これもう怪談話だよなぁ。


「魔鉄のほうは生産量が少ない上、ほとんどが納品先が決まっておる。ツテと金がないと、手に入れることは難しいぞ。魔鉄製の武器を望むものは貴族でも多いからのぅ」


 その言葉にオレは絶望する。貴族でも入手が難しいなら、平民のオレだと手に入れるのは絶望的と言うことじゃないか!


「まあ、最近は東領の中にも魔鉄が取れるようになったというし、チャンスがないわけではない。ワシも、機会があったら聞いてみるつもりじゃ。お前は、ワシから買えるようにしっかりと金を貯めておくのじゃぞ」


 まじか! さすが当主様! オレのために魔鉄を用意してくれるなんて、こんなにうれしいことはない!


 まあ、正直に言うと授けてくれたらうれしかったが、さすがにそこまで図々しいことは言えない。


「お願いします! オレの腕が上がれば魔鉄製の武器が必要になるなずですから!」


 オレは迷わず当主に頭を下げる。武器の問題は何とかなりそうだった。

 だがそこでふと思う。ダクマー嬢ちゃんの武器はどうするつもりなのだろうか。


「しかし当主様よ。ダクマー嬢ちゃんの剣はどうするつもりなんだ? オレはダクマー嬢ちゃんの後ってことかな」


 オレの疑問に当主様は眉を顰めた。


「あ奴に新しい武器を与えるとどうなるかは分かるじゃろう? きっと調子に乗ってろくなことはせんよ。なんとかに刃物と言うことになりかねんからの。あ奴のことは後回しじゃよ」


 おおう。ダクマー嬢ちゃんの武器はちょっと考えるみたいだ。でも、当主様の危惧は分かる気がする。ダクマー嬢ちゃんに合う武器を与えちゃうと、きっと無茶しちまうに違いないだろうからなぁ。


 オレは新たな武器を振り回すダクマー嬢ちゃんを思い浮かべ、慌てて首を振った。将来のことは将来に考えるしかないだろうなぁ。

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