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転生少女は色のない魔法で無双する  作者: 小谷草
第4章 色のない魔法使いと貴族と王族と
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第221話 西と北の戦い

 演習場に馬蹄の音が響いた。土魔法で整備された道を、騎馬隊が土煙を上げながら進んでいく。数人がかりの土魔法で道を作り、騎馬隊が蹂躙するという連携が見事にはまっていた。


「すごい! これがメレンドルフ自慢の騎兵隊ね! 大規模な土魔法も隙が無い! あれって護衛の人も混ざってるんでしょう? あんなの使われたら、野戦じゃ勝てないよね!」


 学園のバルコニーから模擬戦を眺めていた私は、大興奮で隣のエレオノーラに話しかけた。北の貴族はメレンドルフ流の槍術を学んでいる者が多く、平地で戦うことになると騎馬隊が力を発揮する。学園の西にあるこの平原はかなり広いんだけど、迅速に移動する騎兵隊を見ればとても狭く感じるのだ。


「ええ。今北で戦ってる部隊はここのよりいい騎獣を揃えてるらしいから、もっと壮観だと思うわ。学園でこんな戦いが見られるなんてね」


 私たち東と南の戦いはなんだかんだで互角のシーンが多かったけど、この分だと北は圧勝するんじゃないだろうか。


 でもそんな私の感想は、次の瞬間にあっさりと覆された。


「おちつけ! 剣術隊! 騎兵隊を止めるぞ! 我らの精強さ! 見せてやるのだ!」


 おお! あれはディーターさん! 西の剣術隊を指揮してるんだね! 隣にはアンスガー先輩もいて、厳しい顔で盾を構えていた。


 よく見れば、西の剣術隊にはゲラルト先生の授業を取っている平民がちらほらみられる。みんな盾を構えて、魔術師が避ける時間を作ろうというのだろうか。


 騎兵隊と剣術隊が激突した!


 倒れる剣術隊の戦士たち。だた騎兵も騎獣から叩き落される戦士たちが多いのに気づく。足を止めている騎兵もちらほら見かける。


「剣術隊! やるね! あの騎兵の突撃から、魔術師を守り切ったよ!」


 私は大興奮だ。東の剣術隊じゃあ絶対に防げなかったよ! 剣術の授業を取った顔見知りもいて、みんな得意げな顔をしている。


 そして足を止めた騎兵に、西の魔術師隊からの水弾が降り注ぐ! 仲間同士で相殺しないよう、属性を揃えてるんだね! 生き残った騎兵の何騎かが倒れ込むのが見えた。


「くっ! さすがクラー! やるな! もう一度突撃するぞ!」


 フェリクス先輩が丘に登っていく。そして、逆落としの要領で騎兵を再突撃させていく!


 すんごい勢いだね! これ、西の剣術隊は耐えれるの!? 


「守って落とすんだ! フェリクス様を倒せばこちらの勝ちだ! 耐えるぞ! 『風は、西より立ち起こる!』!」

「『風は西より立ち起こる!』」


 西から大きな叫び声が起こった。再び剣術隊と騎兵隊が激突するということか!


 今度はさっきよりも激しいぶつかり合いだった。剣術隊を抜くように、数騎の騎兵が抜けていくのが見えた。そのなかにフェリクス先輩とザシャ先輩の姿がある!


「行かせてなるものか!」


 後方で指揮を執っていたディーター先輩がフェリクス先輩の前に立ちふさがった。そのとき、騎兵隊の一騎が先頭のフェリクス先輩を追い抜いてディーター先輩に突撃する。あれは、ザシャ先輩!?


「はっ! 大将首はもらったぞ!」


 ザシャ先輩の突撃を、しかしディーターさんが盾で守り抜く! そして西の魔術師から放たれた水弾が、ザシャ先輩を撃ち落とした!


 これが西の連携だよね! 剣士が足止めして魔術師が仕留める。王国を代表するこの連携がつながれば、北の騎兵とはいえひとたまりもないのだ。 


「すごい! ディーター先輩、ザシャ先輩を落としちゃったよ!」


 しかしフェリクス先輩の勢いは止まらない。数騎と共に魔術師隊に切り込んでいく!


 騎兵隊は剣術隊を抜いて魔術師隊へと押し寄せていく! そして、指揮を執っていた西の魔術師に肉薄する。


「くっ、くそ!」


 西の魔術師は水弾を放つが、フェリクス先輩は槍で軌道を反らす。そして槍を一突きすると、西の指揮官はあっさりと吹き飛ばされた。


「西の、クレーメンス・ヴァッサー! 打ち取ったりー!」


 北から歓声が起こった。西のディーターさんたちは茫然とした様子だった。


 この領地対抗戦は、北の勝利で終わったのだった。



◆◆◆◆


「いやすごかったね! 北の騎兵隊も見事だったし、西の剣術隊も硬かった! ヘリング家が加わっていたら、どっちに転んだか分かんないよね!」


 そう、西の軍勢にはヘリング家は参加していない。というのも、ヘリング家は衛生兵を率いてけが人の収集に努めることになったのだ。今も模擬戦を終えた会場では、ヘリング家の衛生兵たちが忙しく走り回っている。


「まあでもしょうがないよ。西はいわば飛車角落ちみたいなもんだから。だって、マリウスとオティーリエは衛生兵を出すために不参加でしょう? 光魔術を扱う中心人物が欠けてるんじゃあ、力負けするのも仕方ないと思うよ。ヴァンダ様も非参加だったしね。むしろ、よくこの条件でよく戦ったと思うわ」

「それにしても、クルーゲが力を落としているってのは何だったんだろうね。西にも北にもクルーゲの使い手がいたけど、みんな精強だったよ! 特に平民でもすんごい戦力になってたからね。上級生はほとんどぴんぴんしてるし」


 今回、途中離脱した多くは1年生だった。みんな、この学園でいかに力をつけているか、分かったんじゃないかな。


 エレオノーラは頷いた。


「騎士団長が推し進めていた平民の戦力化ってのがよく見えた一戦だったと思うわ。私たち貴族も、負けてられないわね」


 そんな話をする私たちだが、試合会場ではディーターさんたちとフェリクス先輩らが熱い握手を交わしているのが見えた。みんなお互いの強さを実感したようで、悔し気だけど誇らしい気持ちで健闘を称え合っているようだった。


「これさぁ。中央の生徒はほぞをかむような気持ちで見てるんじゃない? この領地対抗戦に参加した生徒はみんな充実したような顔をしてるし」


 この領地対抗戦にはあのフリッツでさえも参加して、平民の戦士と何やら話している。みんな、この戦いで自分の弱点や強みが分かったようなんだよね。これに参加できなかった生徒は相当悔しいんじゃないかな。


「中央の貴族は領地対抗戦には消極的だったからな。何しろトップのライムントが消極的だからな。あいつはまったく、両親の影響ばかり受けて・・・。私の前では素直な子供なのだが」


 一緒に観戦していたレオン先生がつぶやいた。


 うーん。あのライムントが素直だっていうのは同意できないんだけどね。それとも、レオン先生の前では違うというのだろうか。


「やっぱり北は精強っすね。西はヘリング家がいないとやっぱり決め手に欠けやす。あっしも、参加を認められませんでしたし」


 ヴァンダ先輩がぼやいた。


 そう、この試合にはヴァンダ先輩は参加を止められたんだよね。ヴァンダ先輩が参加すると、生徒を守るはずの魔力障壁を簡単に引きはがしてしまう。それだと、生徒の命が失われるからっていう理由で参加が認められなかったんだ。ヴァンダ先輩はついこの間、闇魔や魔物の障壁を引きはがしたばかりだからね。


「今のクルーゲ侯爵になって西は弱くなったと言われているが、そうでないことが証明されたな。平民を戦力化すると魔術師が本当に戦いやすくなることが分かったと思う」


 クルーゲは闘技場での汚名返上と行きたかったようだが、それを見事に証明してみせた。向かうところ敵なしのメレンドルフの騎兵を、一度は確実に防いで見せたのだから。


「ダクマー君たちは見ていなかったようだが、北の魔術師隊と伏兵の戦いも面白かったぞ。北の土魔法の魔術師隊を西の部隊が奇襲していたんだが、オリヴァーくん率いる戦士隊が西の部隊を見事に撃退していたよ」


 なんか北の魔術師隊のところも騒がしいと思っていたけど、西の部隊が奇襲をかけていたのか。オリヴァーは魔術師隊を守り切ったけど、土魔法の部隊は最初以外は騎兵隊を援護することができなかった。


 これ、西の奇襲隊は見事に役割を果たしたってことだよね?


 いやあ、観戦しただけだけど面白かった! 西も北も、それぞれの強みを存分に生かして戦っていたよ! 私も、ちょっと暴れたくなってきたんだけど!


「正直、うちでは北の騎兵隊を止められそうにありませんわ。ビューロウの戦士は倒すことに特化しすぎて、防御には向かないもの。うちがやるときはもっと機動力が生かせない場所に誘い込まないと」


 エレオノーラはそこまで言って、何かに気づいたように手を叩いた。


「そうか、だからあの時バルトルド様は最初に土で地形をいじったのか。動きに柔軟性のある戦士たちを活かし、敵の機動力を殺す。やっぱり、バルトルド様は歴戦の強者だけあって、よく考えられて魔法を使っていたのね」


 あ、ヨルダンに襲われたときの話か! 確かにおじい様は最初に土魔法で地形を変えたんだよね。あれのおかげで敵はこっちに直接突っ込んでくることができなかったんだ。


 エレオノーラの言葉を聞いて、私はレオン先生を見た。


「そうだな。地形によって戦士の活躍はまるで違ってくる。生徒たちはそれを考えて指揮するように伝えないとな。これは教師陣の指導力が試されるだろう」


 レオン先生は渋い顔をした。


「指導役の先生方は忙しい方が多いのに、さらにカリキュラムを増やされることになるな。魔物退治の選抜もしっかりやってもらわねば困るし、頭が痛いよ」

 


◆◆◆◆


 レオン先生たちとこまごまと話した後、衛生兵の護衛をした人たちと軽い打ち合わせをした。みんな得る者は多かったようで、充実した表情をしてたのが印象的だった。


「でも私も戦いたかった! 衛生兵の護衛とかやれることはあったはずだよ!? せっかく連休をつぶしたんだから、もっと私も活躍したかったのに!」


 そう。今年の連休は、この領地対抗戦の影響でつぶれてしまったのだ。戦場の選定や参加メンバーの把握など、エレオノーラやレオン先生を手伝いをしていたらあっという間に領地対抗戦の日を迎えてしまったのだ。まあ、いい戦いが見れたからしょうがないんだけどね。


 愚痴る私を、エレオノーラが窘めた。


「あなた、戦場に立ったら絶対戦うでしょう? これはあくまで西と北の模擬戦だから、あなたの出る幕じゃないのよ」


 そんなことを話しながら玄関を出ると、ちょうど北のメレンドルフの人たちが帰ってくるところだった。すぐに私たちに気づいたらしく、緩んでいた気持ちを引き締めたのが分かった。


「おお! ロレーヌとビューロウじゃないか! 見ていたか? 見事に勝ってみせたぞ!」


 誇らしげに語るフェリクス先輩とは対照的に、ザシャ先輩は落ち込んでいるようだった。


「俺は、今回途中でやられちまったがな。やっぱ、クラーのやつはすげえわ。魔術師と連携して、あっさりこっちを落としてきたんだからよ」


 ザシャ先輩が肩をすくめながら言った。


「でもあの時、ザシャ先輩が盾にならなきゃフェリクス先輩が落とされてたかもしれませんからね。2人が上手く役割分担したからこそ、西に勝てたんだと思いますよ。正直、私たち東だとちょっと厳しかったというか、平地じゃ絶対勝てないなと思いました」


 私が言うと、ザシャ先輩が照れたように頭を掻いた。


 エレオノーラも私に続いて戦闘を褒めたたえた。


「素晴らしい模擬戦だったと思います。メレンドルフの精強さ、そしてラント家の魔法の精密さを再認識しましたわ。西が強かった分、その強さが際立っていたと思います」


 エレオノーラがそう褒めたたえると、フェリクス先輩たちは顔をほころばせる。この人、エレオノーラが美人だからって日和ったな。


「だが、課題も多かったのは事実だ。もしヘリング家やランケル家が加わっていたら、相当厳しいものになっていたと思う。特にランケル家の星持ちは、こちらの守りを無効化できるらしいからな」


 おおう。フェリクス先輩の中で、ヴァンダ先輩のことは相当評価されているみたいだ。


 でも分かる。ラーレやホルストもそうだけど、闇魔法って本当に厄介だ。特に他の属性魔導士と組んだときは厄介極まり合いと思うんだよね。


 私が考えている間にエレオノーラが答えた。


「もし北と戦うなら、私たちは絶対に正面から戦いません。騎兵隊の力を発揮できない場所を選ぶと思います。だからきっと、北との戦いは知略を競い合うことになると思いますわ」


 戦略を練るのは私の仕事ではない。エレオノーラやデニスが頑張ってくれるはずだ。2人とも優秀だから、きっと私たちが負けない戦い方を考えてくれると思うんだよね。


「俺達も同じさ。アンタと正面からやり合うつもりはない。その長い剣が届かないところからチクチクやらせてもらう。うちの槍兵も魔法使いも強いから、覚悟しておくんだな」


 私たちはお互いにニヤリと笑った。


「しかし、やっぱりうちはお前さんたちともやり合いたかったな。西との戦いも面白かったが、学園最強の攻撃力を持つお前さんと戦って見たかった。まあ、衛生兵だっけ? あれはすごく役立ちそうだったがな」


 フェリクス先輩が頭を掻いた。


 私が戦うのなら、絶対に騎兵を自由になんてさせない。騎兵が動けない場所に誘い込み、一気に叩く。うん。はまるかどうかは分からないけど、やってみる価値はある。


 フェリクス先輩は大声をあげて笑い出した。


「お前さんたちとやり合うのは楽しそうだ。最近は魔物退治も多いから、一緒に戦う機会も多いと思うが、その時は頼りにさせてもらうぞ」


 朗らかな笑顔で言うフェリクス先輩を見て、こっちも笑顔になる。


「私の方こそ、先輩たちにはお世話になると思います。一緒に戦う日を楽しみにしてますね」


 私たちは笑顔で握手する。そこでふとフェリクス先輩は真顔になった。


「そういえばあんたたちは、ライムント様ともめているそうだな。気を付けろよ。南とは切れているそうだが、あの人はまだ王位をあきらめていない。近いうち、何かをやらかしそうな噂がある。ロレーヌのお嬢様も、十分注意してくれよ」


 そう忠告すると、フェリクス先輩たちは笑顔で去っていった。


 私とエレオノーラは顔を見合わせた。


「ライムントがあきらめてないって、何かするつもりなのかな」


 エレオノーラは思案顔になった。


「正直、貴族の支持を失った第一王子が返り咲くには、相当な武勲を上げる必要があると思うわ。でも、第一王子夫婦もライムントも、戦場から離れた王都にいる。これはひょっとしたらひょっとするかもね。お父様に相談しておくわ」


 エレオノーラのお父さんもうちのおじい様もまだ王都にいる。あの人たちに任せておけば大丈夫だと思うけど、ちょっと不安だよね。

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