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転生少女は色のない魔法で無双する  作者: 小谷草
第4章 色のない魔法使いと貴族と王族と
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第218話 ヨッヘムへのお礼と懲りない南領 ※ 後半 ハイデマリー視点

「で、なんであんたがここにいるの? ここ、女子寮なんですけど」


 私は自室のテーブルで、おいしそうにご飯をほおばるヨッヘムを睨んだ。コイツの情報のおかげでラーレを助けに行けたんだけど、それとこれとは別問題だ。


「あ、ごめん。私が呼んだんだ。今回の件ではヨッヘムにもお世話になったからね。何かしてほしいことないか聞いたら、ご飯食べたいって言うから」


 そう言われると、何も言えなくなる。カリーナのご飯は美味しいからね。彼女にも許可を取ってるみたいだし、そう言われると、家主として許可せざるを得ない。


 ラーレは寮の近くにいたヨッヘムに声を掛けたそうだ。毎回、どうやって見つけてるのか分からない。私には気配のけの字も分からないのにね。


「でも、あのときよくラーレが監禁されている場所が分かったよね。ヨッヘムの隠形がすさまじいのは知ってるけど、女子寮に忍び込むのは大変だったでしょう? あ、もしかしてしらみつぶしに探したとか?」


 私は思わず尋ねた。でかこいつって任務に忠実そうだよね。かなり労力がいる仕事でもこつこつとこなしそうだ。


 でもヨッヘムは慌てて首を振った。


「確かに今回はラーレ様の居場所を確認に入ったでござるが、それは裏どりだけ。ちゃんと仕入れた場所にラーレ様がいるか確認しただけでござるよ」


 うむむ。さすがに要塞化して広い女子寮を隅々まで探ったわけではないらしい。てか女子寮を隅々って、確かに任務とはいえちょっと引くよね。


「あ、ごめん。苦労してくれたのに変なこと言って。でも、南の奴らは結束強そうだけど、よく情報を仕入れられたよね」


 ヨッヘムは真面目な顔で返事をした。


「実際、南領の生徒からほとんど情報は漏れていなかったでござる。今回は、別のところからのリークがあったでござるよ。詳しくは言えないでござるが」


 別の場所、かぁ。南の連中は他の領地とはそこまで付き合いがあるわけじゃなさそうだし、中央あたりに内通者がいるのだろうか。


「もしかして、王太子側からリークがあったとか? あいつら性格悪そうだしね」


 私が思いついたことを言うと、ヨッヘムはそっと目をそらした。 お? 当たらずとも遠からず? ちょっとおもしろくなってきたかも!


 さらに追及しようとした私に、ラーレが釘を刺した。


「こらダクマー! 安易に変なこと言わないの! ヨッヘムが困ってるじゃない! ヨッヘム、ごめんね。言えないことは言わなくてもいいし、おなかがすいたらいつでも来ていいからね」


 ラーレが私を睨みながらヨッヘムを解放した。まあ、こいつがすんごく役に立つのは分かったよ。女子寮は基本的に男子禁制だけど、こいつなら特別に認めてやらないことはない。まあさすがに他の人には内緒だけどね。


「はいはい。すみませんでしたー。でも、ハイデマリーとよく続いたよね? あんなに口うるさいのに。私なら速攻で返事忘れそうだわ」


 私が感想を漏らすと、ラーレはあきれたように私を見た。


「まあ、大雑把なアンタと真面目なマリーとは合わないかもね。未だに部屋をすぐに散らかすし。ほらっ! カリーナ様が片付けてくれるからって、ちゃんと使ったものは元に戻す! ホント、ずぼらなんだから」


 調子に乗ってたら、さらに弾が飛んできた!


 声に出さずに笑うヨッヘムを横目に、私は慌ててテーブルの上を片付けたのだった。



※ ハイデマリー視点


 領地対抗戦を終えて一息ついた。


 私はふとラーレお姉様と初めて会った時のことを思い出した。


「あなたくらいの年なのに、まだ魔力板の訓練をやっていますの? マリーはとっくに魔力板は卒業しましたわ。所詮は野蛮な東の貴族。所詮は滅んだ狼。ビューロウ家の実力なんて、その程度のものよ」


 会議に参加する当主を待つ間、控室でたまたまラーレお姉様と一緒になった。今思い出すと、ずいぶん生意気なことを言ったものだと恥ずかしくなる。


 あの時お姉さまは、部屋の端っこで魔力板を使った訓練をしていたのを覚えてる。南でいつも悪口を言われているビューロウの子女がいると分かって、一言言ってやろうと思って声を掛けたのよね。


「そっか。でも私には必要なんだ。邪魔にならないように気を付けるからね」


 お姉さまはそう言って、さらに見つからない場所に移動しようとしたんだ。でも私は、適当にあしらわれたと思って怒鳴りつけたんだ。


「なによ! 魔力板の練習なんて、ある程度操作出来れば十分じゃない! それとも、他にやれることはないの!? 所詮はビューロウの小娘ってことなの!? なんとかいいなさいよ!」


 お姉さまは困ったように笑っていた。そして愛想笑いで立ち去ろうとするお姉さまを、私は回り込んだんだった。


「ちょっと貸しなさい! 私ならあなたより早くクリアできるんだから!」


 そう言って彼女の魔力板を奪い取った。魔力板を操作して、私の実力を見せつけてやるつもりだったのだ。だけど・・・・。


「な、なによこれ! ちょっと魔力を込めただけでこんなに動くなんて・・・、これ、壊れてるじゃない!」


 そう、お姉さまの魔力板は難易度がすごく高く調整されていて、全然うまく操作できなかったんだ。お姉さまは私が落ち着くのを待って、魔力板をそっと受け取ると、実際に使い方を見せてくれた。


 お姉さまが操作する魔力板は、鮮やかに動いた。中の玉が動きすぎることはなく、道順通りにゆっくりと動いていく。本当に簡単に、玉を操作してゴールさせたのだ。


「へ? なんでこんなに滑らかに動きますの? なんか種とか仕掛けとかがあるんじゃないでしょうね!」


 私は納得できなくて、ラーレお姉さまに怒りをぶつけた。ラーレお姉さまは困ったような顔をした後、私に魔力板を渡した。そして私の後ろに立って手を握ると、私の手のひら越しに魔力板を操作した。


「ほら。これならわかるでしょう? これくらいの魔力を少しずつ動かせば、ちゃんとゴールできるから」


 手のひら越しに感じたお姉さまの魔力は、私以上に強い火の資質を示し、それでいて繊細な動きをした。魔力の濃度も、その精密さも初めて感じるものだった。正直、負けたと思った。私以上の資質の持ち主は初めてだったのだ。


 私はお姉さまを振り払い、睨みつけた。


「何なのよ、あなた! なんでこんなことできるのよ! こんなことできたって、なんの意味もないじゃない!」


 私はいきり立って言った。だって、当時の魔法の先生は短杖の使い方ばかり教えて来ていたのだから。


 お姉さまはちょっと困ったような顔をして、答えてくれた。


「私はこれができないと魔法を使えないんだ。それに、繊細に魔法を操作出来れば、高度な魔法も使いこなせるようになるんだって。おじい様が言ってたの。魔力の資質が高ければ高いほど、繊細な魔力操作が必要だって。魔力は資質のレベルが高い方が動かしやすいみたいだから、他の人に言うと微妙な顔をされちゃうんだけどね」


 お姉様はそういうけど、同じような言葉を、当主であるおばあ様からも聞いたことがあった。専門家なら杖なしでも魔法が撃てるようになって当たり前だって。短杖を使えばだれでも強くなれる。でも専門家を名乗るなら、杖なしでも魔法を構築できる技術が必要だって。


 正直、おばあさまの言葉は家庭教師の先生の言葉と反してるし、私には十分魔力制御の技術が身についていると思っていた。でも、お姉様と比べると、私の魔力制御はつたない。確かにこれでは、専門家を名乗ることなどできないかもしれない。


「なによ! ちょっと魔力制御が上手いからって、調子に乗らないで! こんなのすぐにできるようになるんだから!」


 私は涙目になって魔力板を睨みつけた。そんな私をお姉さまは困ったよう見て微笑み、優しく声をかけてくれた。


「ほら。貸してごらん。こうやるとちゃんと動くようになるから」


 背中越しに私を抱きしめて、魔力板を操作する。お姉さまが私の手のひら越しに玉を操作すると、スムーズに動き出す。そして、お姉さまが手を離すと、中の玉はぎこちなくではあるものの、私の思う通りに動き出した。


「! 動いた! 私でもちゃんと動かせたわ!」


 私は嬉しくなって、お姉さまに笑いかけた。お姉様も微笑みながら、私をほめてくれた。


「すごいね。私の妹分だとこんなにすいすい動かせないから。ここまでスムーズに動かせるのは、日ごろの訓練があるからだと思うわ」


 お姉さまの言葉に、私は思わず目を見開いた。


 火の資質がレベル4で次期当主と目されている私は、確かに褒められることが多かった。でも二言目には「素質の高さには驚かされます」と言われる。まるで全部素質のおかげで、私が必死で訓練していることは考えられていないかのようだった。


「魔力板の操作を見れば分かるよ。頑張って毎日訓練しているんだね。マリーちゃんは偉いよ」


 その言葉を聞いて私は泣きそうになる。


「そうよ! マリーは頑張ってるの! 素質が高いから何でもできるわけじゃないのよ! できるようになるまで頑張ってるからできるのよ!」


 私は叫んでいた。今思い出すと本当に子供じみた言い分だ。でも当時は、私の素質しか見ない周囲に失望していた時だった。素質が高いからできて当り前――。そんな陰口を何度も聞いて、とても傷ついていたことを思い出す。


「大丈夫だよ。マリーちゃんが頑張ってるのは、私分かるから。うん。大丈夫だからね」


 気が付くと、私はラーレお姉さまに縋り付いて泣き出していた。ラーレお姉さまは、私を抱きしめながら、そっと背中を叩いてくれた。



◆◆◆◆


「あのあと、強引にラーレお姉さまの連絡先を聞いたんでしたわね。手紙を出したら返事を返してくれて、そこから文通が始まった。訓練がつらい時も、お姉さまの手紙を見れば落ち着けた。知ってまして? 私がこれだけ魔力構築の腕が上がったのは、少しでもお姉さまに近づきたかったからなんですのよ」


 誰にともなくつぶやいた。


 あの対抗戦の後、無理やり拉致したことすごく怒られたけど、また定期的に会ってくれることを約束してくれた。


 お姉さまは優しい。ビューロウ家であのダクマーで年下の扱いに慣れているみたいなのは悔しいけど、私のために時間を割いてくれるのは素直にうれしい。


「お姉様が南に所属しないことは残念ですが、魔道具のチャージのために来てくれることになりましたし、そこは成果と言ってもいいかもしれませんわね。まだこちらにもチャンスがある。オイゲンは難しそうですが、こちら側に嫁いできてくれれば、南に永住してくれる可能性はなくはないはずです」


 私が男だったら、絶対にお姉さまを逃がしはしませんのに。


 でもまだチャンスはある。私はこれからもお姉様と過ごせるように、策をめぐらせ始めたのだった。

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