第215話 vs ハイデマリー
「きえええええええ!」
私は剣を上段に構えた。『羆崩し』で、あの杖を一気に叩き切って終りにしてやる!
「馬鹿の一つ覚えみたいに突進しても、私をやれるとは思わないことね!」
ハイデマリーは杖を構えてきた。馬鹿の一つ覚えかどうか、試してみるといいわ!
「たああああ!」
私は勢いよくハイデマリーに突撃した。だがハイデマリーは後ろに飛んで躱すと、すぐに私に向かって大杖を突きつけてきた。
「フレアエンスチレッジ!」
ハイデマリーの杖から、扇状に衝撃が広がっていく!
「なっ!」
私は勢いよく吹き飛ばされ、壁に背中から張りつけられた。
くっ、ただの炎弾なら至近距離でも避けられると思ったのに!
何これ、炎が全面に伸びてきた!? 火魔法の、範囲攻撃とでもいうの!?
「炎弾を避けるのは得意なんでしょう? そうならば、避けられない範囲攻撃で撃退すればいい! 火の魔術は、あなたみたいにワンパターンなわけじゃあないのよ!」
くっ、やるな! 点じゃなくて面の攻撃に切り替えるなんて!
羆崩しは最短距離で突撃する技だ。器用に避けながら攻撃することはできない! 私は壁にもたれかかりながら、何とか立ち上がった。
ハイデマリーはこれまで戦ったどの魔導士よりも強い。前の闇魔との戦いで見せた炭の魔法と言い、この炎といい、いろんな火を使いこなしている。アメリーだって、こんな魔法は使わなかったはずだ。
『羆崩し』で素早く彼女に近づくことは難しい。直線に移動するなら、あの範囲攻撃の餌食になってしまうのだ。それならば!
「はああああああ!」
私は魔力で足をさらに強化した。無属性魔法が静かに足に浸透していく。これなら、ハイデマリーにも足に魔力を込めたことが分からないはずだ!
ハイデマリーは再び大杖を私に突き付けて魔力を籠めてきた。
「これでおしまいよ。この後、エレオノーラも倒さなきゃいけないんだから、あなたにかまっている暇はないわ!」
そういうと、無表情に私を見てきた。
「とどめよ。フレアエンスチレッジ!」
彼女の大杖から広範囲に火魔法が展開された。
私は足に込めた魔力を展開し、素早く横に移動する。そしてハイデマリーの魔法を避けると、半円を描いてハイデマリーに肉薄した。
「秘剣! 『鴨流れ』!」
ハイデマリーには一瞬で私が移動したように見えたかもしれない。直線の動きの羆落としとは違い、鴨流れは攻撃を避けながら静かに接近できるのが特徴だ。足に魔力を籠めることで、素早く回り込んで素早く一撃を放つことができるんだ!
「はあああ!」
私は素早くハイデマリーに肉薄すると、横薙ぎに木刀を振るってハイデマリーの大杖を真っ二つにした。杖に頼りきりの南の貴族なら、これでもう戦えないでしょう!
だがハイデマリーの目の光は変わらない。
「まだ!」
ハイデマリーは右手を私にかざすと、迅速に魔力を展開した。
コイツ! 杖なしでも魔法を構築することができるの!?
ハイデマリーの右手から扇状の火が放たれた。私はなんとか木刀で炎を防ごうとするが、吹き飛ばされて再び壁に激突した。
コイツ! 強い! 杖を失ったはずなのに、おじい様の次に早い構築スピードだ!
「私は魔法使いよ! 杖がなければ何もできないとは思わないことね!」
くそっ! そう言えばデニスが言ってたな。クラスで自分より優れた魔導士は、エレオノーラとハイデマリーだって! 金満の南の貴族のくせに、自力の力だけで魔法を発現できるなんて聞いてない!
私は木刀を杖にして立ち上がると、再び構えた。ハイデマリーは油断なく私を睨むと、右手を前にかざして魔力を展開しようとしてきた。
だがそんな私たちを遮るように、ラーレが声をかけた。
「マリー! やめなさい! 実戦ならダクマーは杖じゃなくてあなた自身を斬ることもできた! 今日は、あなたの負けよ! 大人しく下がりなさい! ダクマーも、もう十分でしょう! 武器を下ろしなさい!」
ラーレが決闘を止めようとするが、ハイデマリーは激しく首を振って私を睨んできた。
「だって、このまま行かせてしまったら、お姉さまは二度と私と会ってくれないじゃないですか! せっかく再会できたのに、もう会えないなんて嫌です! お姉さまは私と一緒に来るのが幸せなんです!」
なんか知らないけど、ラーレとハイデマリーは昔会ったことがあるみたいだ。大事な人と会えなくなる苦しみは、私にもわかる。でも、私だって引くわけにはいかない!
「向こうがやるって言うなら、私だってやめるつもりはない! 腕の一本や二本くらい、覚悟してもらう!」
私たちがラーレの言葉を拒む。すると、ラーレの表情が抜け落ちたのが分かった。
あれ? ラーレってば、理性が限界を迎えていない? あ、これヤバイ。
ラーレが手のひらを上に向けると、黒い炎が生まれた。あの禍々しい炎は、発現されたら終りのラーレの固有魔法だ。
あれ? もしかして私に撃とうってんじゃないでしょうね!
「ラ、ラーレ。 私、助けに来たんだけど!」
「お、お姉さま! 落ち着いてください! その炎、仕舞って・・・」
私とハイデマリーが慌てて止めるが、ラーレの怒りは収まらない。
「2人とも、少し反省しなさい!」
ラーレは私とハイデマリーの間に、黒い炎を放った。
炎は私たちの間に落ちたが、もちろんそれだけではない。炎から出た煙が一瞬にしてあたりに充満してきた。
ちょっと! この魔法、密閉空間だとさらに凶悪になるんだけど!
「い・・・! え・・? これ、ちょっと無理・・・!」
私は魔法を展開して身を守ろうとするが、煙はあっさりと私の周りに集まってきた。
息を止めて煙を吸い込まないようにするが、こうなっては後の祭りだ。私が限界になって煙を吸い込むと、私の意識はそのまま闇に消えていった。




