第211話 突入! 南領!
「くらええええ! ファイア!!」
「そんな攻撃が当たると思うなよ! ウインド!」
爆発音がする。これまで見たことがないくらい、大規模な演習だ。至る所で派手にやり合っているのが分かる。
私たちは寮の内部を目指して駆け出した。私たちの行く手を防ごうと何人かの貴族が立ち塞がるが、すかさず東の貴族がその者たちの行く手を遮った。
「ダクマー様の邪魔はさせません! ご武運を!」
そう叫んだのは、昔お茶会をしたお隣さんのエルナ様だ。たしか、アメリーと同級生だったよね? その傍にはマーヤ様やデリア様の姿が見える。
私は彼女たちに頷くと、そのまま入口に向かって駆け出した。
「ありがとうございます! 恩に着ます! 栄光は緑の手の中に!」
「栄光は緑の手の中に!」
私たちは口々に言い合うと、玄関を抜けて寮内に入った。
◆◆◆◆
「ここが南の女子寮か。こんな時じゃないと入れないだろうし、なんか迷路みたいだな。ちょっと緊張するな」
デニスがつぶやく。コイツ、彼女持ちのくせにこんなところで緊張してるんじゃない!
そして侵入してきた私たちを、階段から6人の敵が襲撃してくる。だけど甘い!
「てやあああああ!」
私は素早く前に出ると、木刀を横薙ぎに振るった。あっさりと3人が倒れると、残りの3人は動揺した顔をしている。
「くそっ! 東の貴族は弱いんじゃなかったのか!」
そう言いながら私たちの進路を阻むが、戦闘態勢になるのが遅い!
「ウォーター!」
デニスが人差し指を突き出し、魔法を放った。
「がああああああ!」
デニスの魔法を受けて南領の生徒が崩れ落ちていく。
「はあああああ!」
コルドゥラも負けていない。彼女は木刀を振るって斬り倒すと、残りの一人をアメリーが居合抜きで仕留めた。そして護衛の双子が魔術具で6人を素早く拘束するのが見えた。
「さすがビューロウの戦士だね。南領の戦士がまるで相手にならない。あっという間に倒すなんて」
後ろから追いついてきたのはギルベルトだった。
私たちは彼に頷くと一丸になって階段を上っていった。
「あれ? エレオノーラは?」
「エレオノーラ様は外で指揮を執っている。この寮からかなりの数の戦士が打って出てきたからね。ハイデマリー様をけん制しているから、こっちには来られないかもしれない」
そんなことを話しているとすぐに2階に到着した。3階に続く階段は傍にはない。寮を要塞化しているという話もあったのは、こういうことか!
「くっ、3階に続く階段はどこ!?」
私は焦った。普通は階段って一箇所にまとまってるよね! 1階と2階を結ぶ階段と、2階と3階をつなぐ階段が別の場所にあるなんて、まるでゲームのダンジョンみたいじゃない!
「落ち着いて。こんな時のために、風魔法は存在する。僕が来たからにはもう大丈夫だ」
ギルベルトはそう言うと、風の魔法を展開した。この魔法は見たことがある! 前にエレオノーラの領地で使った、魔物を見つけた魔法だ! そうか! この魔法なら!
「サッチャー・ナッチ」
ギルベルトの頭上に広がった魔力は四方に散ると、すぐに元の場所に戻ってくる。ギルベルトは戻ってきた魔法を読み取ると、こちらに振り返った。
「3階に向かう階段はこっちだ。急ごう。ラーレ先輩を助けるんだろう?」
そうだよね。なんか、魔法って攻撃手段の一つみたいに思ってたけど、こういう便利な魔法も当然あるんだよね。私はギルベルトを尊敬のまなざしで見ながら、3階への階段に向かった。
◆◆◆◆
「うおおおおおお!」
個室の前を横切った時、いきなり奇襲をかけられた。どうやら部屋の玄関で私たちが通るのを待ち伏せしていた様子だ。
私は素早く転がって回避した。外から出てきたのは、ハイデマリーと一緒にいた2人と、その護衛たちだ。部屋からわらわらと出てくる戦士は、10人以上にもなっている。
狭いところで身を潜めているなんて、やるな!
「ちっ! ふせがれたか! だがここは通さんぞ!」
確かオイゲンだったかな? ラーレの同級生が剣と盾を構えて立ち塞がった。その後ろには、フェーベと言われた女子生徒が刺突剣を持って構えている。
「ギルベルト様。ダクマーを頼みます。コイツ一人だと絶対に道に迷う。ラーレ姉さんのところまで連れて行ってください。コルドゥラも頼んだぞ」
そう言うと、デニスがオイゲンたちと私の間に立ちふさがった。その後ろをアメリーとその護衛たちが続いた。
「ギルベルト先輩。お姉さまたちのことは任せました。コルドゥラ、お姉さまをお願いね」
そして双子の護衛とグレーテも、彼女たちに続いた。
「デニス! アメリー!」
私は叫ぶが、ギルベルトが私の手を掴んで進んでいく。
「ここは彼らに任せよう。デニス君の強さは同じクラスの僕がよく知っている。アメリーさんの戦いっぷりもこの間見たし、彼らならきっと後ろからの敵を通さないでいてくれるさ」
私は思わずギルベルトの顔を見た。そしてレオン先生の言葉を思い出した。
一人で戦い続けることはできない。私はもっと仲間たちのことを信用しなければならないのだ。
「デニス! アメリー! ここは任せたよ!」
私が叫ぶと、2人がニヤリと笑った気配がした。
「ああ。任せておけ。たまには兄らしいことをして見せるさ」
「お姉様。後ろのことは私たちにお任せください。ラーレお姉さまのことは任せましたよ」
2人の返事を聞きながら、私は3階に向かって駆け出した。
後ろから闘争の気配がする。でも、あの2人ならきっと、 守り切ってくれると信じられる。私は私の役割を果たすために、3階に続く階段を目指して駆け出した。
◆◆◆◆
3階に続く階段の踊り場を登っているときだった。
「食らいなさい! レイ!」
白衣を着た女が、いきなり私たちに攻撃を仕掛けてきた。
「くっ、ウインド!」
ギルベルトが風魔法で相手の炎をそらした。確か、風魔法は火魔法と相性が悪いはずだ。それなのに、あっさり相手の炎を避けるなんて、さすがギルベルトだ!
「誰だ! 南の生徒出ないのなら護衛か! 邪魔するなら容赦しないぞ!」
そう叫ぶが、白衣の女が笑いだ。
「くふふふふ。当主代理のハイデマリー様が認めていない演習に何の意味があるというのです。私はカールハインツ研究所のリカルダと言います。こう見えても、王家に認められた研究員なのですよ。あなたは多少は風魔法が使えるようですが、この新型杖にはかないません。大人しく、拘束されなさい」
そう言うと女は再び杖に魔力を籠める。あの杖、魔力を込めてから発動するまでの速さがすごい! ラーレやデニスほどの速さはないけど、今までの短杖とは比べ物にならない!
私たちは何とか彼女の魔法を躱す。これは火魔法のレイだね。こんな強力な魔法をこんなに早く発動させるなんて!
思わず臍を噛む私の肩を、ギルベルトがそっと叩いた。
「ダクマーさん。ラーレ先輩が捕らわれてる部屋は分かるね。ここは、僕に任せてくれないかな?」
ギルベルトが私をかばうように前に出た。そして彼の護衛も、白衣の女に向かって武器を構えた。
「ギルベルト! 大丈夫なの? 火魔法とは相性が悪いんじゃないの?」
私は心配するが、ギルベルトは不敵に笑った。
「ちょうど、バルトルド様から授かった魔法を試したいと思っていたんだ。新型の杖を持っている彼女なら、相手にとって不足はない。ラーレ先輩のこと、頼んだぞ」




