第208話 東の貴族の意地 ※ エレオノーラ視点
※ エレオノーラ視点
学園長室で、私と学園長とヘルマ様が話し合っていた。ブレーメ家のヘルマ様は、王都で南の生徒を指導する立場だ。フランメ家の暴走に頭を痛めている様子だった。
「本当にすまない。ビューロウ家には我が家を含め、世話になっている家は多い。だから、ラーレ嬢を返したいと思う家も少なくないんだが、生徒たちの抵抗が激しくて連れ出すことができなかった。誘拐したのが、南の総意だとは思わんでくれ。今は私の姪のロジーネがラーレ嬢を守っている。だが、それもガブリエーレ様が戻るまでしかできないだろう。連休に入ってあの方が戻ったら、正直手の打ちようがない。強引にでも、南領に連れ帰るだろうな」
そう言って、ヘルマ様は頭を下げた。南はフランメ家の権力が強い。ガブリエーレがやると言ったら、他の貴族は従わざるを得ないらしい。まあ、「炎の巫女」は、高度な魔道具をチャージできる唯一の存在らしいから、巫女のために必死になるのは仕方ないのかもしれない。
フランメ家に異議を唱えられるのは、彼女のブレーメ家の他、わずかにすぎない。ましてや、仲が微妙になったとはいえ、王太子の協力もある。状況は、かなり厳しいと言わざるを得ない。
「エッボの奴も、学園で魔道具を使わせるなんてふざけたことをしてくれる! 奴は穏健派のはずなのに、ころりと意見を変えおって! この国は、南の貴族だけで動いているわけじゃあないんだぞ! 他の貴族をないがしろにするなんて、あの王太子と同じ末路になるというのに」
確かに、エッボ先生はふざけていますわよね。火魔法を担当し、南の貴族と学園をつなぐ重要人物のはずなのに、魔道具使用の書類を提出せず、「忘れてた」なんてめちゃくちゃな理屈を言うなんて。普段は温厚で生徒の評判もいい先生なのに、こんな強引な手を使うとは読めませんでしたわ。
「ヘルマ様。私たち東の貴族は、ラーレ先輩の誘拐を認めるわけにはいきません。本人が納得していたならまだしも、こんな強引な方法を使われては、他の貴族からの反発も大きくなります。なにより、私自身がこの結果を納得できないのです」
東の貴族を統括するロレーヌ家として、フランメ家の好きにさせるわけにはいかない。我が家が普段、しっかりと東の貴族を守っているからこそ、有事の際に団結して従ってくれるのだ。
エッボ先生たち南の貴族が強引に行動するというのなら、こっちにも考えがある!
「ヘルマ様。王都の学生を統括するあなたにお願いがあります。私たちの行動を認めていただきたいのです。王都の貴族を統括するヘルマ様の許可があれば実現できると思うんです。この書類にサインをお願いしてもよろしいでしょうか」
私は用意した書類をヘルマ様に渡す。ヘルマ様は最初、怪訝な顔で書類を受け取るが、内容を読み進めるにつれ目を見開く。そして私の顔を一度見たのち、再度書類を読んでしばし固まった。そのまま震えていたが、やがて声を上げて笑い出した。
「くくく。これは! これは面白いな! 私もこれに参加したくなったぞ! 不本意な者も多いかもしれんが、これはいい! 女子寮を要塞化したのがあだとなるな! エッボの奴にも意趣返しができる! 私は協力するぞ!」
ヘルマ様は上機嫌で書類にサインを書き込んでくれた。そして署名を終えると、学園長のレオンハルト先生に書類を渡す。
レオンハルト先生は書類を受け取ると、素早く目を通した。そして読み終えるとニヤリと笑って自分も書類にサインしてくれた。
「ふふ。ちょうどうるさいOBどもから、新人たちが使えないと苦情を寄せられていたんだ。このイベントを実行できれば、生徒たちにはまたとない経験を積むことができるな。リヒト家のオティーリエ君が提唱した兵科を試すのにも絶好の機会になるだろう。よかろう! 許可しよう! だが、東の貴族をまとめることが必須だ。できるのか?」
レオンハルト先生は笑いながら書類を返してくれた。レオンハルト先生の不安も分かるが、私はロレーヌ家の一員だ。東の貴族をまとめるのに力を尽くすのは当然のことよ。
「お任せください。ロレーヌ家の一員として、必ず東の貴族をまとめて見せます。フランメ家に目にものを見せてくれますわ」
私は晴れやかに笑った。
私は前世からダクマーを信じている。彼女ならきっと、私の想像以上の成果をあげてくれるはずなのだから。
「くくく。面白くなってきたな。明日は私も見学させてもらう。最近はつまらない仕事も多かったが、久しぶりに楽しい一日になりそうだ。君たちの奮闘を楽しみにしているぞ」
レオンハルト先生の激励に力強く頷いた。
私たちを甘く見たこと、絶対に後悔させて差し上げますわ!




