第200話 フランメ家の新たな護衛 ※ ラーレ視点
※ ラーレ視点
「な、何でアンタたちがここにいるのよ」
学園の護衛が過ごす待合室で、私は思わず叫んだ。だってそこには、元クラスメイトのオイゲンとフェーベがいたのだから。
「なにって、姫と同じさ。フランメ本家のハイデマリー様の護衛になったのさ。ナターナエルが死んだとはいえ、王領に魔物が現れるケースはかなり多い。どこの家も、次期当主を守るための人員を増やしているのさ」
オイゲンの言う通り、王領での魔物の発生率は高くなっている。貴族が襲われるケースも少なくないと聞いているけど、それでもこの2人が護衛になるなんて!
「当主候補だったラーレ様が護衛になるよりは珍しくはないですよ。それよりせっかく同じ護衛になったんですから、少しお話しませんか」
フェーベがこれまでにない笑顔で話しかけてくる。ちょっと! 怖いんだけど!
「我々は東の貴族家に所属していますから、南となれ合うつもりはありません。どうか、お引き取りを」
コルドゥラが素早く言い放ってくれた。我が領のエリートだから、こういう時は頼りになる。私はさりげなく、コルドゥラの背中に隠れた。
フェーベはムッとしたようだが、オイゲンは笑い出した。
「まあこれまでの東と南の関係を考えれば警戒するのは分かるよ。だが同じ貴族から護衛になった同志じゃないか。少しくらい、話をしてもいいんじゃないか」
コルドゥラの目が鋭くなった。
「しつこい。貴族とはいえ、ここに来たからには同じ立場です。あなたたちも、ハイデマリー様の護衛に集中すべきでしょう。それとも、南の貴族家は東に含むところでもあるのですか?」
強情に拒絶するコルドゥラを、オイゲンたちは睨みつけていた。しかし、そんな私たちを他の護衛が見とがめる。
「おいおい、確かにビューロウの護衛は美人ぞろいだが、しつこくすると嫌われるぜ。護衛同志でもめても主人に迷惑をかけるだけだ。ここは貴族の社交の場じゃない。大人しく引きな」
あれは、西のヘリング家の護衛ね! マリウス様の護衛についてきてくれたから覚えてる。
「ちっ、姫、また近いうちに話させてください」
そういうと、オイゲンたちは離れていった。
私はヘリング家の護衛に一礼した。
「ありがとうございました。助かりました」
護衛は笑って答えた。
「いや、ビューロウ家にはマリウス様が世話になっている。この部屋にいる護衛はみんなお嬢ちゃんたちの味方さ。安心してくつろぐといいさ」
笑顔で手を振る護衛に、私はもう一度お辞儀をした。
「貴族が護衛になったからもっといろいろ言われると思ったけど、親切な人もいるものね」
コルドゥラはあきれた顔をした。
「ラーレ様の場合は当主の狙いは明らかですからね。英雄たるダクマー様を援護させるために護衛になったことはみんな分かってます。ここにいる護衛はみんなあなたをただの護衛だと思ってないのですよ」
私は思わずコルドゥラの顔を見返した。
「ダクマー様と剣を交えてから、隣に並び立つことだけを考えて修行してきました。あのころからは考えられないくらい力をつけたと思いますが、分かるんです。私では後姿を追うのがやっとで、隣に並び立てることはないのだと。ダクマー様と同等なのは、特殊な魔法を持つあなただけです。だから、自信を持ってください」
驚いた。てっきりエリートのコルドゥラには見下されていると思っていたけど、まさかここまで評価が高いとは。
「でも私、剣なんてほとんど使えないし」
私がつぶやくと、コルドゥラはさらに言い募った。
「でも足回りの強化は素晴らしいじゃないですか。ナターナエルに襲われたあの時、本来なら私が盾にならなければならないのに、ほとんど動けませんでした。それに、あの黒い炎はあなたにしか使えません。アメリー様ですら、まったく原理が分からないとおっしゃっていましたし。ダクマー様の足りない部分はあなたなら埋められる。いえ、あなたにしか埋めることはできないのです」
半信半疑で周りを見ると、なぜか部屋にいる護衛たちはみんな納得した様子だった。アメリーを待つエラとミリも当然と言った表情で頷いている。
「ありがとう。ちょっと考えてみる」
私は椅子に座って、ダクマーを待つことにしたのだった。




