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転生少女は色のない魔法で無双する  作者: 小谷草
第1章 色のない魔法使いは領地ですくすくと成長する
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第2話 前世の記憶

「どういうこと? あれ? 私ってもっと大きくなかったっけ?」


 混乱は深まるばっかりだった。たしか、私は隣のアキちゃんと一緒に近くの高校に通う女子高生だったはずだ。


 あれ? でも日本に貴族なんていたっけ? そういえば、私はダクマーって呼ばれていた気がする。黒い髪は前世と同じだし、顔立ちもそっくりだけど、なんか違う。


 考えれば考えるほど、よくわからなくなった。私はゆっくりと周りを見渡した。ここは、あの日から2年を過ごした私の部屋だ。でも日本で暮らした記憶もある。どういうこと?


「ちょっと、冷静になって思い出してみよう」


 おかしいなと思いながら、記憶をたどってみる。私は日本の女子高生だったはずだ。うん、これは間違いない。でも、8年間を貴族令嬢として過ごしてきた記憶もある。


 魔法が使えないと知った時の絶望感やラーレが不器用に慰めてくれた時の安心感が、今でも心に深く残っている。


「これはもしかして、ネット小説とかである異世界転生と言うやつかもしれない」


 日本での出来事をもう少し深くたどってみよう。


 学校での思い出や、剣術道場に通った日々が頭を過った。そして、剣術のイベントに向かう朝のことを思い出した。


 確かあの日、家のお父さんが足を折る怪我をして、剣術のイベントに送れなくなったんだ。そのことは覚えている。隣のアキちゃんのお父さんが、「それなら自分が送っていくよ」と言ってくれたんだっけ。彼女の家とは家族ぐるみで仲が良かったから、感謝とともにお願いすることになったんだよね。アキちゃんも付いてきてくれたんだ。


「確か、あの日は雨と雷がひどくて、山間の道を通るときに、急に山の斜面から石が振ってきて。車の天井がどんどんと鳴って――。そして大きな石が降ってきたんだ!」


 え? そのあとは? 天井に石が降りてきて、上からすごい力で押されたのを思い出した。私は思わず、両手で体を抱きしめた。つまり、私は落石事故に巻き込まれて死んだってこと!?


 私は茫然とした。そして気が付いてしまった。あの状態では、自分もアキちゃんもおじさんも、生きているとは思えない。


 それに――。


「別の世界に転生したってことは、お母さんにはもう会えないってこと? ちょっとドジなお父さんとも、かっこつけなお兄ちゃんとも、もう会えない? 毎日おいしいご飯を作ってくれて、いっぱいわがままも言って、いっぱいいろんなところに連れて行ってくれたのに? まだお礼もちゃんと伝えていないのに」


 日本にいたころの記憶がフラッシュバックした。そして家族の顔や友人の顔を次々を思い出した。


 私は大粒の涙を流しながら、大声で泣きだした。専属メイドのカリーナが慌てて駆け寄ってきたようだった。



◆◆◆◆



 泣き疲れて眠ったようだ。気づいたら夜になっていた。体には毛布が掛けられている。おそらく、カリーナが掛けてくれたのだろう。ラーレもそっとしておいてくれたに違いない。


 ちょっと今世のことを振り返ってみよう。


 今の私はビューロウ子爵家の長男の娘として8年前に生を受けた。この世界には魔法があり、貴族はほとんどが大量の魔力と高い資質、そして家に伝わる独自の魔法を持っている。我が家に伝わるのは身体強化の魔法だ。


「そう言う意味では、ギリギリ身体強化を使えるようになったから、この家の一員としての最低限の力は身に付いたと言えるのではないかな」


 でも身体強化魔法は簡単に行えるイメージがあって、それが秘儀ってだけで下に見られちゃう。昔、両親が嘆いていたんだ。最近では、身体強化を簡単に行うための魔法も公表されたことだしね。


 なぜ貴族に魔法が必要とされるかというと、魔法が人々の生活を豊かにするから。そして闇魔や魔物との戦いでも必須とされているからだ。約100年前、北東のアルプトラウム島に現れた闇魔と呼ばれる種族は、世界樹の力を利用して、アルプトラウム島のヨーク公国と北の大陸の帝国を滅ぼした。闇魔はその勢いを止めることなく、この王国にも攻めてきているのだ。この国は劣勢で、平民はもちろん、貴族や王族にも多数の戦死者が出たっていうから、戦いの激しさが察せられようというものだ。


「確か、先代の聖女が命と引き換えに結界を張ってくれたおかげで、ここ30年ほどは闇魔は王国に攻め入れないんだよね。闇魔には休眠期とかもあって活動時間は限られていると聞くし。単発的に侵入しているみたいだけど、それはなんとか対応できているらしいからね」


 闇魔は不老不死と言われている。100年前に相対した相手を前回の戦いでも見たと言われているからだ。


 私たちが暮らすこの国はクローリー王国とよばれ、魔法使いが支配する国だ。王族の下に貴族がいて、貴族はそれぞれの領地を支配している。特徴的なのは、貴族はみんな、魔法の扱いに優れた魔法使いと言うことだ。


 この国の貴族は、15歳から18歳まで中央にある学園で魔法の扱い方や戦い方を学ぶことになっている。学園を卒業しなければ貴族とは認められないなんてことが常識になっているほどだ。


 学園で認められるために、貴族の子息令嬢は生まれてから魔力を扱う訓練を行うそうだ。貴族は魔力の強い者同士が結ばれることが多いから、貴族の子息は高い魔力を秘めていることが多いんだけど・・・。


 そこまで考えて、思考の隅に引っかかるものがあった。


「ん? ビューロウ家の娘って、なんか前世でも聞いたことがある気がする。ダクマー・ビューロウって、なんだったかな?」


 そういえば、アキちゃんが好きだったゲームの主人公のデフォルト名がそんな感じだったような・・・。私も1回だけだけどプレイしたことがある。ゲームが下手だから全然できなくて、しかも内容はあんまり覚えてないけど、何度もゲームオーバーになりながら何とかクリアできたんだよね。


 あのゲームではここみたいな感じで、登場人物の髪や目の色がカラフルだった気がする。


 アキちゃんといろいろ話していたのを思い出す。「ゲームのキャラって、なんかいいよね。こんなセリフ言ってみたい」と言った私に、アキちゃんはこう言ったんだ。


「でも選択肢にあるようなセリフを言うだけじゃ、ホントは好感度なんて上がんないよね。普段の会話とか、表情とかしぐさとか。そう言ったものが『主人公』だからこそ、みんな好きになってくれるんじゃないかな。私たちみたいなのが同じこと言っても心に響かないと思うよ」


 確かにそうだなーと思ったけど、同時に夢がないと思ったね。


 そう、私は主人公に転生したけど、彼女とは別の人間だ。表情も話し方も、そして心の動きも、主人公たちとは違うのだ。


 何より違う点がある。私に魔法の資質が全然ないことだ。


 資質とは、火水土風の4属性と、光闇の上下2属性、合わせて6属性の魔法をどれだけ使えるかを指している。魔力量が足し算なら、素質は掛け算だ。これが高いほど、少ない魔力で魔法が使えると言われている。


 貴族は魔力量が多いのに対し、資質については平民・貴族に関わらず高い数字を持っていることがあるそうだ。


「この国の人って、5歳くらいの時に必ず資質を調査するんだよね。まあ屋敷に調査員を呼びつけるのは貴族だけらしいけど。でも私には、どの属性も資質も全くなかったんだ」


 思い出すのは応接間で行われたあの資質検査だ。資質は水晶の光の強さで分かるんだけど、私はどの水晶も光らせることができなかった。私みたいに魔法の素質が全然ないのは、貴族はもちろん、平民でもかなり珍しいらしい。 


「主人公はたしか、プレイヤーが魔法やスキルを自由にカスタマイズできたはずだよね? なんで私は魔法が使えないんだろう? このままじゃあ、闇魔との戦いに勝つどころか生き残ることすら難しくない?」


 ちなみにおじい様が言っていたけど、私の魔力量はかなり多いらしい。貴族は爵位でだいたいの魔力量が決まっているらしいけど、私は王族なみの膨大な魔力があるそうだ。なんでも、嫁いできた祖母の影響でおじい様の息子や孫はかなりの魔力量があるらしいけど・・・。


 まあ、私には宝の持ち腐れだよね。


「魔法の多くは魔力で文字や魔法陣を描くと発動するらしいんだよね。指から色のついた魔力が出て、文字や魔法陣を描くことで様々な魔法を発動させるんだ。けど、私の魔力は透明だから、何かを描くことはできない」


 例えば火が2の、水が1の資質を持っている人は、2の濃さの赤と1の濃さの青の魔力を使うことができる。魔法文字や魔法陣の属性と、魔力の色が一致すれば、魔法を発動できるんだけど・・・。私はいろいろ試したけれど、全然だめだったんだよね。身体強化など魔法陣が必要ない魔法は発動させられるようだから、まったく魔法を使えないわけじゃないんだけど。


「でもそんな私だから、領内に私を支持する人がほとんどいないんだよね」


 本来、魔力の資質については当主や両親くらいにしか伝えられないことになっているけど、こういうことはどこかから漏れるものだ。私に資質がないらしいことは周囲の人に伝わっていて、私を支えてくれる側近は誰もいない。両親は頑張っていろんな人に打診しているみたいだけど、誰も手を上げないそうだ。まあ、誰につくかで出世するかどうかが決まっちゃうから、しょうがないのかもしれないけどね。


 専属メイドはかろうじてカリーナがついてくれている。カリーナはまだ私の二つ上くらいなだけど、家族が死んじゃって身寄りがないから私につくしかないという事情がある。彼女は孤児だけどいろいろ気が付くし、メイドとして完ぺきなんだけど、出世は難しいと思う。


 彼女は能力があるのに、私につかざるを得ないなんて、こんな主で申し訳ない。

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