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転生少女は色のない魔法で無双する  作者: 小谷草
第4章 色のない魔法使いと貴族と王族と
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第198話 ヨッヘム

 潜入者を拘束してしばらくすると、エレオノーラが入ってきた。その後ろにはなぜかアメリーがいる。


「あれ? アメリーも来たの?」

「いえ、なんかお姉さまの部屋が騒がしかったので様子を見に来たんです。そしたら、エレオノーラお姉さまがいらしたので、同行させていただいたのです」


 エレオノーラが息を吹き出した。他の人たちは何が起こったか分からない様子だけど、私にはわかる。アメリーにお姉さまと言われたのがよっぽどうれしかったのだ。


「てか、王の影がダクマーの部屋に潜んでいたということ? よくわかったわね」


 エレオノーラが取り付くろうように言った。


「いや結界の練習をしてたらなんか気配がして・・・。ほら、私は一応護衛だし、一応ダクマーの安全は気にしなきゃいけないでしょ? 結界を使うまで全然分からなかったからびっくりしたのよ」


 ラーレは答えた。うん、ずっと修行に付き合っているうちに、ラーレの結界の精度はますます高くなった気がする。ギルベルトの探知魔法と比べてもそん色ないほどなんだ。まあギルベルトの魔法ほど、遠くを探れるわけじゃないみたいだけど。


「とりあえず、本人に話を聞いてみましょうか」


 そういうと、エレオノーラの護衛の一人が潜入者の猿轡を外した。潜入者は息を吐き出すと、荒い呼吸を繰り返した。


 潜入者の顔を見て驚いたのは、エレオノーラだった。


「ヨッヘム?」


 え? 知り合いなの? 怪訝な顔でエレオノーラを見ると、私にそっと耳打ちしてくれた。


「ほら! 前に言ったでしょう。例のゲームの登場人物の一人よ。王の影に所属する諜報員の一人、ヨッヘムよ。たしか、格闘術で戦うキャラだったはず」


 うげぇ、ゲームの登場人物の一人かぁ。マリウスやギルベルトみたいに気のいい奴かもしれないけど、ライムントやホルストを知ってるから、あんまりいい印象はないんだよね。


「さすがロレーヌ家、拙者の名前を知っているとは・・・。拙者は何もしゃべらないでござるよ。とっとと殺すがいいでござる」


 ござるキャラのくっころ入りました! 誰得だよ!


「う~ん、王の影に手を出すとめんどそうだよね。かといって、このまま返すわけにはいかないし」

「お嬢様、死体が残らないように始末することもできます。必要でしたら、いつでもお声掛けください」


 コルドゥラがなんか怖いこと言いだした! いや、やらないからね! ヨッヘムもなんか怯えた顔で私を見てるし。


 どうすんの、これ!


 そのとき、ヨッヘムからお腹が鳴る音が聞こえてきた。彼をよく見ると、やつれていて顔色が悪いように感じる。


「カリーナ様、悪いんだけど、一人分の食事を出してもらえるかな。この人、おなかすかせてるみたいだし」


 ラーレが言うと、カリーナが急いで食事の準備を始めた。


「ラーレ先輩、この人は侵入者なんですよ? それなのに、食事を与えたりするんですか?」


 エレオノーラが信じられないものを見るかのようにラーレを見る。でもラーレは、落ち着いた目でエレオノーラを見返した。


「エレオノーラ様、すみません。でもビューロウ家の人間の目の前で、おなかをすかせた人を出すわけにはいかないのです。腹をすかせた人を見かけたら、おなか一杯になるまで食べさせる。これは、祖父バルトルドが定めた我が家の方針なのです。刺客かもしれないとはいえ、それを破るつもりはありません」



◆◆◆◆


 ヨッヘムは勢いよくご飯を掻き込んでいる。最初は断固として拒否していたようだけど、ラーレが毒が入っていないことを示すように一口ご飯を食べると、我慢できなかったようで、自由になった手でスプーンを持ってご難を食べだした。


「お変わりが必要なら言ってね。まだあるみたいだから」


 ラーレが優しく伝える。ヨッヘムは、なぜか感動したような顔でラーレを見つめた。なんだこれ。


 しばらくヨッヘムがご飯を食べる音だけが続いた。そして水を飲むと、ラーレに向かって深々とお辞儀をした。


「ありがとうございます! もう3日も何も食べていなかったでござる! 詳しくは言えないけど、今の雇い主が食事も与えずに厄介な仕事をさせようとしてきたのでござる。まったく、人をひととも思わない所業でござるよ。拙者たちだって、人間だ。物を食わねば死んでしまう。今の雇い主は、そんなことすら忘れているでござるよ」


 なんとなく、第一王子夫婦の顔が思い浮かんだ。あの人たちなら、そんな勝手なことしそうだよね。偏見かもしれないけど。


「で、どうするの? 誰かは言わないけど、雇い主は失敗を許す人とは思えないけど」


 ヨッヘムは下を向いて考え込む。そして決意したように虚空を睨んだ。


「もう知ったことではないでござる! だいたい、今の雇い主には本当は私たちへの命令権はないのでござる。それなのに、身分を盾に命令してきて、本当はやりたくなかったでござる! もう、本当の雇い主に直訴して、やめさせてもらうでござるよ!」


 この忍者、大丈夫なの? でも上司があれだと、いろいろつらいよね。


「まあ、ここだけの話だけど、適当に時間を稼げば今の任務から解放されるはずだと思うわ。国王はもう第一王子夫婦を見限ってる様子だしね」


 確かに国王本人が、第一王子を廃嫡するって言ってた気がする。ヨッヘムはハッとする。期待に満ちた様子でエレオノーラを見つめると、エレオノーラは笑顔で頷いている。


「じゃあ、方針は決まりね。誰かは知らないってことにするけど、雇い主が失脚するまで、ヨッヘムさんは適当に時間を稼ぐということで」


 ラーレが言うとヨッヘムもエレオノーラも頷く。


「まあ、王の影を敵に回すわけにはいかないですからね。でも大丈夫なんです? 王太子の交代って、結構時間がかかるイメージですから」


 アメリー、王太子って言っちゃったよ!


 でもエレオノーラは気にせず言葉を続けた。


「おそらく大丈夫よ。あと数日で、第二王子が王都に戻ってくるの。そしたらすぐにでも、国王から発表があるはずだわ。あと数日頑張れば、後継の交代も成し遂げられるはずよ」


 うん。他人を顧みない後継者なんて、邪魔なだけだからね。


 でも私も他人の感情を読むのは苦手なところがあるから、気を付けないとなぁ。この前もラーレを怒らせたばかりだし。


 喜ぶヨッヘムを見ながらそんなことを思うのだった。

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