第19話 アメリーとの模擬戦 ※ 後半 ラーレ視点
おじい様の道場で私とアメリーは向き合った。
「お姉さま・・・。申し訳ないですが、勝たせていただきます。資質のない魔法使いが、戦闘に向かないことを証明してみせます!」
私は戸惑いながらアメリーを見た。
アメリーは右手で木刀を持ち、左手をだらりと下げている。左手で腰に差した短杖を抜いて攻撃するつもりなのだろうけど・・・。
「では準備はいいか? 変なところがあったら構わず言うのだぞ」
おじい様が私たちの顔を見回した。
ちなみに、私たちにはおじい様お手製の防御魔法がかけられている。この障壁は生半可な魔法では破れないし、敗れたときは試合の決着となる運びになっている。聞くところによると、学園の授業でもよく使われる方法らしいけど・・・。
「よし! はじめ!」
おじい様が合図を送ると同時に、アメリーが素早く後ろに飛びずさる。そして左手で短杖を抜くと、素早く魔法を放った!
「炎よ!」
杖先から魔法陣が発現し、そして火の玉がこちらに向かってきた。
これが短杖の効果だ。杖を構えてから魔法が発現するまでほとんど時間が掛からない。この構築スピードこそが、短杖の効果なんだけど・・・。
「よっと」
私はひょいと横に飛んで魔法を躱した。
杖先から魔法が飛んでくるのは分かるので、よけるのは難しくない。攻撃が単調になるのが、短杖の欠点と言えるんじゃないかな。
「まだまだ!」
アメリーは続けて火の玉を発動させるが、私は簡単にその攻撃を躱していく。
う~ん、でもこの攻撃でアメリーとの距離は結構空いたな。
アメリーも貴族だから、このくらいの魔法を撃ち続けても魔力切れになることはない。この戦いに勝つにはこの距離を縮める必要があるんだけど・・・。
「まあ、修行にはちょうどいいかな」
私は火の玉を避けながらアメリーとの距離を測った。この距離なら、近づくまでに最低1発は打たれてしまうことになるけど・・・。
「ええっと、多分こうすれば・・・」
私は足と武器に魔力を展開する。魔力を纏った感触は分からないけど、これで今まで以上に素早く動けるはずだ。
「さて・・・いくか!」
私はアメリーの火の球を避けると、勢いよく飛び出した。
「くっ! は、はやい! でも!」
突撃する私の正面から火の玉が近づいてきた。
でもね! この程度のスピードなら、切り払うことだって難しくないんだから!
「はああ!」
私が火の玉に向かって木刀を斬り上げた!
ただの木刀なら、火の玉は消せないかもしれない。でも、この木刀には無属性魔法がこもっている!
「なっ! 火の玉が、消えた?」
キャラリーのデニスが驚愕の声を上げた。
そう、私の剣擊は、アメリーの魔法の火をかき消すことに成功したのだ。私の無属性魔法は、魔法の構築を打ち破る効果がある!
「これで終わり!」
私は木刀を勢いよく振り下ろした!
しかし私の一撃は、アメリーの木刀に受け止められてしまった。
「なっ! 火魔法を展開していたはずなのに!」
短杖とはいえ、魔法を発動させるにはその色の魔力が必要になる。例えばファイアの魔法の短杖なら赤の魔力を籠める必要があるのだ。そして一度色を固定してしまうと、同時に他の属性を扱うことはできない。おじい様ほどの魔法使いでもない限りはね。
でも赤の魔力って、身体強化には向かないって聞いたことがあるけど・・・。
「わ、私だって毎日修行しているんです!」
アメリーを見て気づく。その体に青の魔力が宿っていることを・・・。
「2属性の、同時展開だと?」
おじい様の口から驚愕の声が漏れた。
アメリーは火と水の2属性の魔法を同時に扱ったってこと? これってめちゃくちゃ高度な技術なんじゃなかったっけ?
「はあああ!」
アメリーが私を突き飛ばす。そして距離を取った隙に再び火の玉を放った。
「アメリー! やるね!」
私は嬉しくなって思わず声をかけた。
まだ10歳に満たないのにこんな高度な技術を展開するなんて、さすが私の妹!
「じゃあ、私も一つ、見せてあげようかな」
そして左手で木刀の柄を握り、木刀を引いて右手を前に突き出した。
「くっ! 負けません!」
アメリーは続けて火の玉を打ち出すが、私は横に飛んでその攻撃を簡単に躱していく。
「いくよ」
私はつぶやくと、一瞬にしてアメリーとの距離を縮めた。
「秘剣! 鶏食み!」
そして勢いよく突きを放った!
「くっ!」
私の突きが、アメリーの木刀を弾き飛ばす。続く2撃目でおじい様が掛けた防御障壁を破壊し、3撃目をアメリーの目前で止めた。
一瞬にして突き付けられた木刀の先を見て、アメリーの目が驚愕に見開かれた。
「それまで」
おじい様が私の勝利を告げた。
模擬戦は、何とか私の勝利で終わったのだった。
※ ラーレ視点
「まあ、今回はダクマーの勝ちだったけど、アメリーもすごいじゃない。まさか、2属性の同時展開ができるなんて思わなかったわ」
「うんうん。びっくりしたよ。こんなの、大人の魔術師でもできる人いないからね。やっぱりアメリーはすごいなぁ」
私が慰めると、ダクマーも続けてアメリーの技を褒めたたえた。
くやしいけど、アメリーはやっぱりすごい。私より3つも年下なのに、こんな技術を身に着けるなんて。領内にはダクマーと同い年に剣の天才少女がいるそうだけど、剣と魔法を同時に使う人で勝てるはいないのではないだろうか。
私たちが口々に慰めるが、アメリーはなぜか私を睨んできた。
そして泣きながら私を指さし、大声で叫んだ。
「お・・・、お姉さまは私のお姉さまなんですからね! ラーレ姉様より、私のほうが姉妹なんですからね!」
そう叫ぶと、泣きながら道場を飛び出していった。
茫然とする私たちに、デニスが慌てて頭を下げた。
「アメリーはちょっと混乱しているみたいです。ラーレ姉さんは悪くないですから! 大丈夫ですから!」
そう言って再び一礼すると、慌てて道場を出ていった。おそらく、アメリーを慰めに行ったに違いない。
「えっと・・・。何とか勝てたよ」
ダクマーはヘラリと笑った。
「まあ、見事だったぞ。これでアメリーも、魔法を使えないからと言って相手を侮ることはないだろう。よくやった」
いつの間にかそばにいたおじい様がダクマーをほめた。
「あ、おじい様! ちょっと身体強化について聞きたいんだけど・・・」
ダクマーはそう言って何やらおじい様に相談しにいった。
身体強化について話し合う2人をなんともなしに見ながら、ふとさみしさを感じた。
ダクマーは強くなった。先日はデニスの剣術を破り、今日はアメリーの魔法に打ち勝った。色のない魔法使いとして、確実に力をつけているのが分かる。
「でも私は? 私、ダクマーより2歳も年上なのに、何にも成し遂げていない」
この前初めて発動させた魔法も、両親を失望させただけだった。
剣術の腕も大したことはない。ダクマーには到底及ばないし、素振りもなんか違う。足運びだけは結構様になってきたけど、剣を使った立ち合いで相手に勝てるとは思えない。
魔法を使った身体強化も火魔法を使うなんて聞かないから、身体強化すらまともに使えないのかもしれない。
「いつか私を置いて、遠くに行っちゃうのかなぁ」
頑張っているダクマーに何か言おうとは思わない。でもこのままでは、ダクマーは私の手の届かない先のほうに行ってしまうのではないだろうか。
ずっと一緒に過ごした妹の成長を、素直に喜ぶことができない。そんな自分に失望しながら、それでも不安を抑えることはできなかった。