第176話 エレオノーラへの相談とレオンハルト
しつこく誘ってくるハイデマリーたちをなんとか振り切った私たちは、エレオノーラに相談することにした。
「そもそも、ハイデマリーとはなんか親し気だけど、どういう関係なの? 私は社交の授業で初めて会ったけど、ラーレは違うみたいだよね」
「ほら。私って昔、中央の会議に出席したおじい様についていったことがあったでしょう? そのときに同じように当主についてきたマリーと話したことがあったのよ。それで仲良くなって、文通相手になって。学園に来てからもちょくちょく話しかけてくれるようになったんだ。こんな感じになるとは思わなかったんだけどね」
私は頬を膨らませた。
ラーレが文通してたのは知ってたけど、ここまでとは思わなかったんですけど! 不機嫌になる私をスルーして、エレオノーラがフランメ家について教えてくれた。
「あの家って、よくわからないのよね。南の貴族家は炎の精霊を信仰してるとか言われているわ。一族は炎の巫女と呼ばれる女性が当主よりも力を持ってるのよ。巫女になるには、かなり厳しい条件がある。なんでも炎の巫女が不在のときもあったらしいから。でも炎の巫女がいる間、フランメ家が発展したのは確かなことらしいのよ」
エレオノーラの家も、今は南の貴族とは交流がないらしく、私たちの話を聞いて戸惑っている様子だった。
南の領は外国と接しているために交易が盛んで、お金を持っている貴族が多かったりする。東や北のことを貧乏人ってバカにしてるしね。そんな南の貴族を統括するフランメ家にいきなりあがめられても、現実感がないというか・・・。掌返しがすごいよね。
「炎の巫女、ね。でもどうしてラーレが選ばれたの? ラーレは3年生なのに、なんで今更声をかけてきたんだろね。てか急に『炎の巫女』とか言われても信用できないんだけど」
ラーレはこの学園で私ほどではないものの友人が少なかいらしい。友人と呼ばれる生徒は図書館の人たちくらいで、同じクラスの貴族からはほとんど相手にされていなかった。本当に教室の隅っこで過ごしていたらしいのに、あの公開処刑で変わったようだ。
「あの、ナターナエルが炎で私を殺そうとしたとき、なぜか炎が私を避けたでしょう? あれが炎の巫女の証だって言ってるらしいのよ。正直、今までずっと接点がない相手だから、うれしいとか悲しいとかよりも戸惑ってるのよ。まあでも、まだいぶかしんでいる人もいるし、私はもうすぐ卒業だから、関わることなんてなさそうだけどね」
なんだろうね、炎の精霊って。精霊なんて見たことないし、本当に存在するのかも分からない。それを信仰しているなんて、価値観が違いすぎて、どうしたらいいのか分からない。
「なんかマリーはずっと私のことを気に掛けるように言ってたらしいんだけどね。でも、私はもうすぐ卒業だし、あんまり関係ないかな。エレオノーラ様、申し訳ありませんが、ダクマーが変なことをしないように、それとなく見てあげてくれませんか?」
なんで私のこと頼んでるのよ! そんなに私のことが信頼できないの!? まあ、私だったらできないけど。
「ええ。来年はアメリーちゃんも入学するから、ビューロウのことは私がよく見ておくわ。ラーレ先輩はもしかしたら戦場に向かわれるかもしれませんが、気を付けてくださいね。あの秘儀があるとはいえ、闇魔は強力です。せめて、私やダクマーが行くまでは、決して無理はなさらないでくださいね」
そうか。ラーレは卒業したら戦地に向かう可能性があるのか。おじい様次第だと思うけど、叔父夫婦は戦地に行ったて言うし、ラーレも一緒に行くのだろうか。
「本当はダクマーを残していくのは不安しかないんですけど、私も貴族ですから戦わないわけにはいきません。でも大丈夫です。私も無理せず後方で戦います。一応、今のビューロウには前衛になる戦士たちが揃っていますから」
ラーレが戦うならグスタフあたりがフォローしてくれると思うが、私も不安だ。前線では何があるか分からないし、いきなり襲われたりしないだろうか。てか、私が不安ってどういうこと!
「ええ。ダクマーは剣術の腕は認められつつあるけど、西や南に敵が多い。考えなしのところがあるけど、そこは私が上手くフォローいたします。ラーレ先輩も十分に気を付けてくださいね」
なんか2人とも理解し合ってるようなんですけど。ちょっと! 納得できないよ!
◆◆◆◆
「と言う感じなんです。2人ともひどいと思いません? 私は間違ってることなんて何一つしていないと思うんですけど」
学園長室で、私はレオンハルト先生に愚痴をこぼしていた。ライムントのことを報告しに来たとき、「何か気になっていることはないか」とか聞いてきたので、愚痴ってみたんだよね。学園長は最初、「何言ってんだコイツ?」みたいな顔をしていたけど、次第にあきらめたようで、私の愚痴に付き合ってくれたんだ。レオンハルト先生は、ライムントと違って付き合いがいいよね。
「それを私に言うのは間違っている気がするが、まあいい。でもいいことじゃないか。ロレーヌもビューロウも、君が英雄だからって態度を変えない。あっさり手のひらを返してきたフランメに不信感が募るのは分かるが、それでも少なくとも2人は君の味方になってくれるということだろう?」
まあそれは確かに。そう言われてみれば、コルドゥラもカリーナも私への態度は変わらなかったりする。そういう意味では、私は周りに恵まれているのかもしれない。
「まあライムントのことはなんとかしよう。あいつにとっては、急に周りから人が去っていったように見えてちょっと混乱しているんだ。私たちからしたら、他人をないがしろにしたからとすぐにわかるんだけどな。これからあいつは、他人にも意志があることを学ばなければならない。それを学べるかどうかであいつの未来は決まるだろう。お前たちは気にせず自分が学ぶべきことを学びなさい」
そう言って、私に退出を促した。私はまだ語り足りない気分だったが、レオンハルト先生も忙しいからしょうがないよね。
とぼとぼと帰ろうとする私の背中に、レオン先生が声をかけてきた。
「ダクマー。愚痴りたいときはいつでも来なさい。愚痴くらいは聞いてやるし、茶菓子くらい用意しよう。君は少し隙がありすぎる。ストレス発散くらいは付き合うから、その代わり普段はしっかり気を引き締めるんだぞ」