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転生少女は色のない魔法で無双する  作者: 小谷草
第3章 色のない魔法使いと闇魔の炎渡り
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第167話 ラーレとナターナエル

 ラーレは炎にまかれている。炎の勢いはすさまじく、近づくこともできないし、最後をみとることもできそうにない。


 今日は、私たちが誇りを取り戻す日になるはずだった。でも私が未熟だったせいで、ラーレはあっけなく炎にまかれてしまった。


「よくも! よくも!!」


 振り返ってナターナエルを見た。どこかさみし気に笑うやつを睨む。私は素早く立ち上がると、体に魔力を循環させて刀を構えて突撃する。ナターナエルは余裕の表情で手を私に向けた。


「くはははは! 愚かな! ここで死になさい!」


 3発の炎弾が私を襲う。私は刀を振るって1発、2発と炎弾をはじく。


 だが3発目には反応できない!


 直撃するかと思った炎弾は、しかし黒煙に防がれて横にそれていった。ラーレが残した黒い炎は、こんな状態になっても私を守ってくれているのか。 


「ばかな!」


 ナターナエルは驚愕に目を見開く。使い手が倒れたはずなのに、ラーレの炎の魔法は私を守ってくれていた。同じ炎の使い手として、信じられない気持ちがあるのかもしれない。


「きえええええええええ!」


 私は刀を上段から振り下ろす。コイツだけは許さない。絶対に仕留めて見せる!


 示巌流の一撃は、相手を確実に殺すためにある!


「秘剣! 羆崩し!」


 これまでにないくらい強い抵抗があった。


 だが私の一撃は、魔力障壁ごとナターナエルを斜めに斬り裂いた。


「馬鹿な・・・! この技は!」


 四天王と呼ばれる闇魔の強さは、その魔力障壁の強固さにある。一度障壁を展開すれば魔法も物理攻撃もほとんど通さない。だが、神鉄の刀は、力づくでナターナエルの魔力障壁を斬り裂いた!


「まさか・・・・、ビューロウの狼があの方の技を持って蘇ったとでもいうのか!」


 ナターナエルが動揺しているのが分かった。真っ二つにはできなかったものの、致命傷には変わらない。とどめ!


 だがナターナエルの闘志は消えていない! 私を睨むと、両手を広げて構えた。


「ただでは滅ばぬぞ! ビューロウの末は私が連れていく!」


 ナターナエルはその身に炎を纏って私に近づいてくる。だが負けない!


「秘剣!鷹落とし!」


 私は大きく一歩下がりながらナターナエルを斬り上げた。


 しかし左脇から肩まで斬り裂かれたのに、あいつの勢いは止まらない。


 炎を纏ったあいつに抱き着かれたら、きっと助からない! 私が避けるよりも、あいつが抱き着くのが速そうだ。だけど私は、どこかあきらめたように近づいてくるナターナエルを見つめた。


「相打ち狙いか。でも、ラーレも死んじゃったならしょうがないよね」


 なんかあいつも必死で、でも生きているのがつらそうな顔をしている。こいつも、なんか悲しいことがあって苦しんでいるのかと、なんとなく思った。


 ナターナエルの手が私に触れそうになったその時、私の後ろから発射された黒い炎がナターナエルを吹き飛ばす。


 あれは! あの炎は!


 私が勢いよく振り返ると、炎の中から人影が現れた。焼き尽くされたはずのラーレが、こっちに向かってゆっくりと歩いてきた。服はぼろぼろで、至る所から煙が立ち上っていた。でも、生きている!


「ダクマー、怪我はない?」


 そう言って私の無事を確かめるラーレを驚いた目で見つめる。すさまじい熱の炎を浴びたはずなのに、彼女は傷一つついていない様子だった。まるで炎が彼女を傷つけるのを避けているように見えた。


「ラ、ラーレこそ、大丈夫・・・なの?」


 ラーレはあたりを見渡す。炎が彼女を避けているのに驚いている様子だった。


「あいつ、炎の四天王のくせに制御間違ったのかな。この炎、私を傷つけることはないみたいよ」


 茫然としてそうつぶやくラーレに、私は抱き着いた。炎の中にいたラーレは、熱くて燃えるようだったけど、私は気にしなかった。ラーレが無事だったことに安堵し、私は大声で泣き続けた。



※ ナターナエル視点


 2人の少女が抱き合って泣いているのが見えた。それを見て、自分の最後の攻撃が失敗したことを理解する。命を懸けた一撃が防がれたのに、悔しさはない。それどころか、これでよかったのだという想いが私を満たしていた。


 すっと前に、彼女と同じように泣いていた男がいたことを思い出す。


 その男は折れた剣を見ながら膝をつき、私に泣きながら何度も謝っていた。


「ごめんなぁ。オレに力がないばっかりに、お前にこんなことさせちまうなんて。もう戦わなくてもいい場所にいたはずなのに、ごめんなぁ」


 なぜ彼が自分に謝っているのかは思い出せない。でも、お前が謝ることじゃないと、慰めるような気持ちがわいてきたのは確かだった。


「ごめんなぁ。オレじゃあ、お前を助けられないかもしれない。でもオレがだめだったとしても、オレの子孫が必ずお前を解放する。だから、もうしばらくだけ待っていてくれ。辛抱ばかりさせて、本当にごめんなあ」


 泣き続ける彼の姿を思い出す。そして少女たちを見る。ああそうか。彼は約束を守ってくれたのだな。私は消えてしまうが、それでも彼女たちが、他の奴らもきっと救ってくれるに違いない。


 それは、100年ぶりの安らぎになる。消えゆく私の顔には、安らかな笑みが浮かんでいたと思う。

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