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転生少女は色のない魔法で無双する  作者: 小谷草
第3章 色のない魔法使いと闇魔の炎渡り
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第160話 国王との面会と立候補と

 あの試合から1カ月が過ぎた。


 ヤーコプの連勝は続いており、中央の貴族がさらに5人が犠牲になった。中には必死で命乞いする挑戦者もいたが、ヤーコプは笑いながらとどめを刺していた。


 8人目の試合はこの週末に行われる予定だが、おそらく勝つことは難しいだろう。


 公開処刑を企画したライムントに批判が集まっている。なんでも外遊から帰ってきた国王に、王太子ともどもかなり厳しく叱責されたとのことだ。王太子の選定も見直されるという噂もある。まあ、ライムントを止めるどころか、一緒になって公開処刑を推進していたからね。


「ダクマー、ごめんなさい。王家から呼び出しがあったわ。私と一緒に王城に来てくれる?」


 えー、王太子から呼ばれたとでもいうの? ライムントの尻拭いなんてごめんなんだけど。


 私が嫌そうな顔をすると、エレオノーラは苦笑した。


「あなたを呼び出したのは国王陛下なの。さすがに断ることができないわ。何とか私が同席することを許可してもらったけど、それだって難しかったのよ。申し訳ないけど、一緒に来てくれないかしら」


 エレオノーラがそう言うなら仕方ないか。私は気が乗らなかったけど、頷いて一緒に王城に行くことにしたのだった。



◆◆◆◆


 王城には豪華な馬車が迎えに来て、私たちを連れて行った。一応、国王の前までは護衛が来てくれる。コルドゥラだけでなく、公爵家の護衛も緊張した様子だった。


「すごく豪勢な部屋だね。ここで待っていればいいのかな」


 私は王城の侍女に案内された部屋でエレオノーラに問いかけた。


「そうね。私が王城に行くときもここに案内されるわ。しばらくしたらまた迎えが来て国王が待つ部屋に案内されると思うけど」


 その時、ノックがして王宮の侍女が声をかけてきた。


「失礼いたします。国王カールマンがお越しになりました」


 え? 私たちが国王のところに行くんじゃないの? 私は思わずエレオノーラの顔を見ると、彼女も驚いた様子だった。


「ど、どうぞ」


 エレオノーラが何とか返事をした。心の準備なんて、こんな一瞬じゃできないよ!


 国王が一礼して入室する。おじい様と同じくらいの年代の、白いひげを蓄えた老人だった。なんか、年齢以上に小さく見える。


 国王は黙って私たちに頭を下げる。え?え? どういうこと? 偉い人って簡単に頭を下げちゃいけないんじゃなかったの?


「こ、国王陛下、頭をお上げください! 私たちごときに下げていい頭ではないはずです。恐れ多いです」


 国王はそれでも頭を下げたまま、返事をした。


「ここは公式の場ではない。だから、頭を下げるのも許されるはずじゃ。この度の件、本当に申し訳なかった。バルトルドの孫に迷惑をかけるなんぞ、本来ならあってはならんことだ」


 私も恐れ多くなって、「もう大丈夫ですから、頭をお上げください」と言い募った。


 国王が応接間の席に着く。私たちも向かいの席に座っている。


「ロレーヌ家の者にも迷惑をかけたな。王太子は廃嫡にする手続きを進めているところだ。ライムントもこれからは厳しく育てねばならん。王族なら、きちんと貴族に利益を配らねばならん。偉そうにしているだけで勝手に回りが動いてくれるわけではないのだ。王太子にはそれを教えてきたつもりだったが、それがまったく通じておらんかった」


 え? そんな重要なこと、私が聞いていいの?


「今回の一件で、王家は求心力を失った。奴らを排しない限りは、貴族の信頼は得られまい。幸いなことに、第2王子は優秀だ。ちょっと武によりすぎているところはあるが、あ奴なら貴族を粗末にすることはないだろう」


 国王の言葉に静かに頷く。まだ会ったことはないんだけど、第2王子のアウグストは結構評判がいいらしい。北で、他の貴族を助けたりしているらしいからね。


「私共は、王家が信頼できる方に率いられていればそれで結構にございます。正直なところ、今回のように貴族の命をないがしろにするようでは、私共はともかく、下の者がついてきてくれないでしょうから」


 エレオノーラがそう言うと、国王陛下は眉を顰める。え? エレオノーラ、失言しちゃった?


 国王は悲しそうな顔をして、エレオノーラを見つめている。


「もうカールおじさまとは呼んでくれんのか?」


 エレオノーラは慌てて私を一瞥すると、言い訳をした。


「いえ、それはまだ小さかった頃の話ですから。私はもう16歳なんです。子供のような振る舞いは許されませんわ」


 国王はため息を吐くと、愚痴を漏らした。


「小さいころのエレオノーラは本当にかわいくてのぅ。まるで絵本の中の妖精が飛び出してきたのかと思ったわ。カールおじさまカールおじさまといつもワシの後をついてきてくれて、ずいぶんと慰められたもんじゃ。ライムントの奴も何が不満なのだ? 仮に不満だとしても穏便に婚約候補じゃなくする方法はいくらでもあったはずじゃ」


 うーん、でもライムントは思想の根本から無理だと思うな。なんか回りが自分のために動いて当然って考えてるみたいだし。


 国王は一息つくと、私の目を見つめてきた。その鋭い眼光に自然と襟が正された。


「お嬢さん。ビューロウのバルトルドは、私のことを何か言っていたかな」


 え? なんでそんなこと聞くの? おじい様からは今の王にしっかり仕えろとした言われてないけどな。


「えっと、おじい様からは王にしっかり仕えろとしか言われてません」


 私は正直に話すことにした。腹芸なんて私にはできないからね。


「そ、そうか? 本当に? 何か恨み言でも言っていなかったのか? いや、君の立場なら言えないのは分かるけれども」


 うーん、おじい様から今の王に対する不平不満は聞いたことないけどなぁ。


「おじい様は、『今の王は本当によくしてくれている』といつもおっしゃっていました。こういうと嘘っぽく聞こえますけど、でも王家に対する不満は聞いたことありません。あの爺は不満があったら身内には隠しきれないタイプですので、多分本音だと思いますよ」


 国王は私をじっと見つめる。そしてエレオノーラに向き合うと、声を落として話しかける。


「この子、大丈夫か? なんか思ったことをそのまましゃべっている気がするぞ。バプテスト叔父上から聞いていた通りだな。貴族としてこれはまずいのではないか」


 なんかいきなりひどいこと言われた気がする! それに、バプティスト様は国王陛下に私のことをなんて話してたんだろう。聞きたいような、聞きたくないような・・・。


 エレオノーラは苦笑しながら答えた。


「ダクマー様は、その、ちょっと正直な方ですから。それをきっちりフォローするのが、ロレーヌ家の役目だと思っております」


 なんか、褒められていない気がする。国王は下を向いて考え込むと、「まあロレーヌがフォローするなら大丈夫か」とつぶやいた。


「さて、現在公開処刑を行っておるが、正直思うような成果は得られておらん。王家に所属する強者は最低限しかおらんからな。優秀な者はほとんど闇魔の戦いに出ておる。あのヤーコプを、野に放つわけにはいかん。どれだけ民に犠牲が出るか、わからんからな」


 まあそうだよなぁ。解放されたヤーコプがおとなしくしているはずがない。きっと気軽に周りの人を傷つけていくだろう。


「王家として、何か対策を練っているのですか」


 エレオノーラが尋ねると、国王は少し考えこむそぶりを見せて、私に向き直った。


「お嬢ちゃんはどう思う? あのヤーコプに、勝てる者をしっておるか?」


 私は即答する。


「おじい様なら確実に。どんな勝負を挑んでも、ヤーコプを必ず倒すでしょう。でもおじい様は領にいて、すぐにこちらに来られるわけではありません。仮にも領主ですし、命令するのは難しいかと思います」

「ふむ、そうだな。バルトルドなら必ず奴を殺してくれるだろう。それに北に行った騎士団長も、おそらくヤーコプを殺してくれると思う。しかし、今回は完全に貴族を敵に回しておる。おそらくおあ奴が来られるのは最後の一戦になるだろうな」


 国王は白いひげをなでながら言う。まあ今回は王族をはじめとする中央の貴族がやらかしたことで、東西南北の貴族が出る幕はないはずだ。中央のやらかしは中央で何とかするしかないのだ。南の貴族たちも、ジークの一件でかなり怒ってっているみたいだしね。


「学園の教員陣の参戦は難しいんですか? ガスパー先生やゲラルト先生なら、なんとかなると思いますけど・・・」


 国王陛下は首を振った。


「ワシが即位する前の話だが、教員陣が政争に巻き込まれたことがあっての。教員だけでなく学生も巻き込まれて死者が多数出たことがあるんじゃ。それ以降、教員陣はこういったイベントに参加できんことになっておる。王太子が学生を参加させたのも相当強引な手を使ったらしい。さすがに、奴の二の轍を踏むわけにはいかんからの。現役の騎士団から選ぶしかないのだ」


 現役の騎士団員かぁ。でも有力なのはみんな第二王子の指揮の元、北に行ってるって話だよね? ちょっとこれまずいんじゃない? 王の護衛を動員するわけにもいかないだろうし。


「まあ、最終手段は元騎士団長を呼び寄せることだな。もっとも、奴は自領で忙しくしておるから簡単には呼び出せぬ。来られるとしても最後の10人目の時になるだろう」


 クルーゲ家の現当主が呼び出されることになっているのか。でもその前に、王都の人たちが絶望しちゃいそうな勢いだよね? 将来有望な若者が何人も殺されてるって話だし。


 あれでも、これって・・・。私は思いつく。これは私をアピールするチャンスなのではないか。


「もし許されるなら、私にヤーコプを倒す許可をいただけませんか? あの男は、止めに入っただけの我が兄デニスを斬っています。ビューロウとしては黙っているわけにはいきません。私なら、奴を斬れます」


 私は国王に頭を下げる。国王にお願いされたら、私も動いてもいいはずなのだ。国王自らに依頼されたのなら名誉だし、むしろ王家に貸しを作ることになるはずだからね。


「ヤーコプは、既に7人抜きをしておる。おそらく8人目も勝てまい。お嬢ちゃんが敗れると、ヤーコプが解放される可能性が高くなるのだぞ。それでもやれると申すのか?」

「ダクマー、無理しなくていいのよ? 私たち東の貴族はこの件と関係がない。無理する必要なんてないの」


 エレオノーラも国王の前なのに、けっこう言うなぁ。でも私も引けないのだ。


「デニスは正しいことをしようとした。それなのに怪我して終りだなんて、私たちは受け入れられない。お願いします。ヤーコプを必ず斬ります。斬って見せます。どうか私を9人目の戦士に任命してください」


 国王は目を見開いて私を見る。そして、昔を懐かしむかのように目を細めた。


「ああ、なつかしいな。ビューロウの狼と、久しぶりに会えた気がする。そうか、お嬢ちゃんはビューロウの狼なのだな。狼ならば、矜持を傷つけられたままではおれまい」


 国王は目を閉じる。泣きそうな顔に見えるのは、気のせいだろうか。


「あいわかった。ワシが依頼すれば東の貴族のメンツも立とう。ダクマー・ビューロウよ。ワシが命ずる。9人目の戦士となって、ヤーコプを仕留めるのだ」

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