表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生少女は色のない魔法で無双する  作者: 小谷草
第3章 色のない魔法使いと闇魔の炎渡り
157/395

第157話 ジーク vs ヤーコプ

 ついに公開処刑の日になった。


 その日は恨みたくなるくらいの快晴で、私は思わず太陽を睨んだ。


 ジークから打診があって、私はセコンドとして試合会場に向かうことになったんだけど。


「すまねえな。同じ南の仲間だけに頼むことも考えたが、やっぱりお前に頼むことにしたんだ。オレの雄姿と、ヤーコプの戦いぶりをよく見ておいてくれ」

「やめなよ。アンタは勝つんでしょう? 私が、ヤーコプを見る必要なんてないんだからね」


 ジークは読んでいる。万が一、自分が負けたら必ず私が出るってことを。だから、会場のすぐそばで私に相手の戦いを見せようとしているのだ。少しでも、私が優位になるように・・・。


「俺だって負けるつもりなんてない。お前に、ブルノン流の強さをみせてやるっていってるんだよ。これからは、武の三大貴族じゃなくて四大貴族になるってな」


 ジークはニヤリと笑ってそう宣言した。


「そうですよ! その意気です! ジーク様ならきっと勝てます。そばでみていますからね!」


 同じくセコンドに立つジークの護衛がそう言って励ました。


 多分、殺すのも殺されるのも怖いだろうに、そんな素振りは見られない。コイツ、本当にプライドが高いんだよね。まあ、そのおかげでオティーリエは助かったんだけど・・・。


 私は何か言おうとしたが、何も言えなくて時間だけが過ぎていった。


 そんな微妙な空気が流れる中、控室のドアをノックする音が聞こえてきた。


 会場から現れたのはデニスだった。


「時間だ。そろそろ試合会場に向かってくれ」


 デニスはこの試合で副審みたいなことやるらしい。この試合は中立の立場でこの試合を見なきゃいけない。ライムントに命令されてこの役割になったらしい。まだ学生なのに、王家の威光には逆らえないみたいだ。まあ、これが終わったら側近候補というか、つかいっぱしリからは正式に開放されるみたいだけどね。


「デニス・・・、あの・・・」


 言い淀む私を、デニスは安心させるように微笑んだ。


「私は大丈夫だよ。副審って言ってもやることは少ないみたいだしね。それよりも・・・」


 デニスがジークを見ると、ジークはこぶしを握り締めて突き出した。


「大丈夫っす! オレは負けませんから! デニスさんも、俺の雄姿を見ていてくださいね!」


 そう言ってニヤリと笑うジークに、デニスは自分の拳を当てた。


 あれ? なんかここで友情が芽生えてない? 私、また置いてけぼりみたいなんだけど・・・。


 そしてデニスは思い出したように私に声をかけた。


「ダクマーは、ここを出たところで試合を見守ることになる。まあ、試合会場には結界が張られて対戦者と審判以外は入ることはできないんだけどな。試合に興奮して暴れたりするんじゃないぞ」


 もう! デニスは私のことを何だと思ってるんだ! そんな子供みたいなマネ、するわけないじゃない!


 私は憮然としたまま、デニスの案内で試合会場に出たのだった。



◆◆◆◆


 セコンド席から見上げると、闘技場は超満員だった。


 何しろ数年ぶりの公開処刑だ。娯楽に植えた中央の住民にとっても格好のイベントになるのだろう。


 学生の姿も多く見えている。エレオノーラやギルベルトは私の時と同じ場所で、東の貴族と共にこの試合を見るようだ。


 そして上部にある貴賓席には、何やら偉そうな男女とライムントの姿が見えた。ライムントはなんか、ニヤニヤ気持ち悪い笑い顔をしている。


 私が物珍しさにキョロキョロしていると、貴賓席のライムントが立ち上がってマイクのようなものの前に移動した。


 魔道具から音が鳴ると、会場内のすべての観客がライムントのほうを見た。ライムントは自信に満ちた声で高らかと話し出した。


「この良き日に会場に足を運んでもらい、うれしく思う。今日は我々貴族が犯罪者などには負けないことを証明する日になる。今日戦うのは、王国で貴族を含めた数多くの人を殺めたというヤーコプだ。卑劣な犯罪者だが彼の力でも我々貴族にはかなわないということを証明しよう。対するは、われらが誇る学園で学ぶジーク・ブルノンだ。将来有望な彼は南側の貴族の代表として、このヤーコプに鉄槌を降すべく足を運んでくれた。皆の者、この勇気ある若者に拍手を!」


 そう宣言すると、会場内から拍手が起こった。特に、南の貴族の集団からは応援の声と盛大な拍手が聞こえてきた。


 それを満足そうに見つめると、ライムントはそのまま貴賓席に戻っていく。


 ジークを殺したくてこの公開処刑を提案したのに、何が将来有望だよ! 


 私が怒りに満ちた目で貴賓席を睨んでいるうちに、闘技場の中心部にジークとヤーコプが移動していた。


「あれが人斬りヤーコプね」


 見上げるような大男と言うわけではない。背は高いけどやせていて、一見ヒョロいような印象を受ける。緑の頭髪をオールバックにしていて、目はぎょろりとして血走っている。口元は嫌な笑みが浮かんでいる。なんか変な首輪をしているし、正直ちょっと関わりたいとは思わない。両手持ちの大剣をだらりと下げているのが印象的だった。


 対するジークは、新品と思われる鎧と例の籠手、そして片手剣を握っている。ブルノン流で戦うのだろう。あの時のフリッツほどではないが、魔鉄製のかなりよさげな装備をしている。


「オレはお前なんかに負けない! 必ず勝って、そして南にはブルノン家があると証明してみせる!」


 ジークが決意を込めて宣言した。その顔を見て、ヤーコプはニヤリと笑っていた。


「はじめ!」


 審判の宣言と同時にヤーコプが剣を振るう。ジークは籠手でその一撃を受け流すと、そのままヤーコプを吹き飛ばす。吹き飛ばされたヤーコプだがその表情には余裕がある。


 2人は5歩ほど距離を取って対峙した。


「ひゃっはぁあああああ!」


 ヤーコプがジークに突撃した。ジークは何とか籠手でその一撃を防ぐが、勢いに押されて後ずさる。それを好機と見たのか、ヤーコプは大剣を振り回してジークを攻撃した。


「くそっ、重い!」


 ジークが思わず吐き捨てた。ヤーコプは目が覚めるような連続攻撃でジークを追い詰めていく。


 ヤーコプの奴、ちょっと速すぎる! 普通の身体強化では、あのスピードは説明がつかない!


「あいつの体、緑に光ってる。あれは、風属性を使った身体強化!?」


 ヤーコプの魔力量は多い。そして緑の色もかなり濃いように思う。

 でも、風魔法って、流動性が強いから身体強化に向かないんじゃなかったっけ!?


「ジーク様は身体強化を使っているのに、アイツのスピードに全然ついていけていない! どうなってるんだ!」


 護衛の人が思わず立ち上がって叫ぶ。


「あ・・・。一瞬の強化? 私とおんなじで?」


 そして私は気づく。流動性の高い風の魔力だけど、一瞬だけ強化するなら十分かもってことに!


「あいつ、一瞬だけだ。攻撃する一瞬だけ、流すように身体強化を行ってるんだ! ビューロウの3段階目の強化みたいに、ピンポイントで身体強化をやってるっていうの!? あれ、すんごい技術だよ!」


 私は臍を噛んだ。風の魔力はすぐに流れちゃうけど、一瞬だけなら他属性にもないくらい強い力を発揮する。“動かす”ことに関しては、どの属性よりも強い力を発揮するのだ!


 くやしいけど、ヤーコプの使っている技はビューロウに勝るとも劣らない高度な技だ!


「ひゃっはあああ!」


 横薙ぎの一撃がジークを襲う。ジークは籠手で守ったものの勢い良く吹き飛ばされ、ジークの籠手はそのまま外れて吹き飛ばされていく。


「くそっ!」


 片手剣だけになったジークは、それでもあきらめずに構えた。ヤーコプは笑いながら左手を突き出すと、魔法を素早く構築する。あれは、風の魔法で追撃しようとでもいうのか!


 私は思わず舌を巻く。


「吹き飛びなさい! ウインド!」


 ジークは剣で魔法を受け止めるが、そのまま吹き飛ばされて後ろむきに倒れた。ジークは慌てて立ち上がるが、ヤーコプの追撃はない。あおるように笑うと、舌なめずりする。そして剣を引いて構えた。


「次で決めるつもりかな」


 私はつぶやいた。


 ヤーコプの戦意が、今まで以上に高まっているのを感じたのだ。


「しゃああああああああ!」


 ヤーコプが一瞬でジークに近づくと、その胴を狙って鋭い突きを放った。ジークはその一撃を何とか横に躱す。そして左を通り過ぎようとする剣を脇で挟みこんだ!


「うおおおおおおおお!」


 ジークはヤーコプの大剣と自分の剣に魔力を籠めている。あれは私が教えた無属性魔法!? 色を薄めた無属性魔法を、ヤーコプの武器に流しているとでもいうの!?


「だあああああ!」


 ジークは思いっきり自分の剣をヤーコプの剣にたたきつけた!


 キイイイイン!


 会場内に金属が折れる音がする。ヤーコプの剣は、ジークによって半ばで折られたのだ。


「そうか。無属性の魔法を浸透させれば、鉄製の武器にダメージを与えられる! ジークはずっとこれを狙っていたんだね! ヤーコプの剣は闘技場で使われる量産品だ。無属性の魔力を籠めたら耐えられないか。さすがに剣を持ったジークにヤーコプと言えど勝てるはずがない。今回は、ジークの作戦勝ちだね!」


 私は自分が折った剣を思い出したが、それはそれだ。素直にジークを称賛した。正直、何度も通じる手じゃない。でも大事なのはこの一戦で勝利をもぎ取ったことだ。


 しかしその時だった。主審が、ジークとヤーコプの間に割って入った。


「両者、下がれ!」


 そして試合を止めて2人を定位置に戻したのだ。


「? 何かトラブルでもあったの? でもここまで来て、試合を止める要素なんてないはずだよ」


 審判は折れた剣をヤーコプから受け取ると新たな大剣を渡した。え? なにやてるの!?


 会場内はブーイングだ。当然だ。この勝負はジークの勝ちのはずだ。技量も魔力も上回る相手に、よく戦ったと思う。でも。


 私は思わず貴賓席のライムントを見る。あいつは、おかしそうに顔を歪めていた。


「残念だったな! ここは闘技場だ。武器を失ったらすぐに補充される。そんなことも知らなかったのか!」


 ふざけている。そんなルールなんて聞いたことがない。戦場で、武器が簡単に補充されるわけがないだろう! まあ、私はおじい様が投げてくれた大剣のおかげでヨルダンを斬れたけど、そんなのはレアケースだ!


「く、そ。そんなのアリかよ」


 ジークは悔しそうにヤーコプを睨んだ。ヤーコプは新しい大剣を見ながら笑っていた。


「くははは。小僧、運に見放されたな」



◆◆◆◆


 そこからは一方的な展開だった。ヤーコプの猛攻を何とか躱そうとするが、その剣はジークの体を確実に刻んでいった。


「くはははは。そら、どうした? これもよけられないのか。ブルノン家とやらもたいしたことないのだな!」


 嬉しそうに大剣を振るうヤーコプ。だがジークはあきらめず、剣を使ってなんとか致命傷は避けている。でも、全身傷だらけで、血まみれになっていくようだった。


「ほらよ!」


 ヤーコプが大振りの一撃をジークに放つ。ジークの剣は圧力に耐えきれず、半ばで折れてしまう。

 ジークは思わず折れた剣を見る。


「くっ、交換だ!」


 ジークが叫ぶ。本人にはもう戦う力が残っていないだろうに、気丈な言葉を口にしている。致命傷こそないものの、これ以上戦えるようには見えない。


 だがジークは、戦意を失っていなかった、審判に次の剣を用意するように伝えていた。


「どうした! 次の剣を! 速く!」


 叫ぶように指示を出すが、ジークの剣は補充されない。


「剣が折れたんだ、交換だろう!」


 そう言って剣を補充しようとするが、中央の騎士は誰も動かない。ヤーコプはニヤニヤ笑いながらジークに近づいていく。このまま斬るつもりか!


 その時、ジークとヤーコプの間に人影が現れる。わが兄のデニスだ。


「そこまでだ。ジークの剣が折れている。剣を補充する」


 そう言ってヤーコプを下がらせようとするが、ヤーコプはニヤニヤしながら近づいていく。そして何を思ったのか、デニスに向かって剣を振り上げた。


「デニス!!」


 私は思わず駆け出した。


 セコンド席は近いとはいえ、試合場には結界が張られていて侵入することができない。でも、そんなの私には関係ない!


 私は剣を振り下ろす。結界は一振りで破壊されたが、同時に剣も折れてしまっていた。私は2人に向かって駆け出した。なんで中央の騎士は、デニスを助けないの? 


 しかし無情にも、デニスに向かって剣が振り下ろされる。デニスは袈裟切りに斬られ、そのまま倒れていく。


「デニイイス!」


 私はデニスに駆け寄った。ヤーコプはニヤリと笑って私を斬ろうとしたが、私はその一撃を避けてヤーコプの頬を殴りつけた。


 ヤーコプは、3歩ほど下がって口を拭う。驚いたような目で私を見るが、そんなの気にしている場合ではない!


 袈裟切りにされたデニスだが、命はつながっていた。どうやら魔力による身体強化で、なんとか致命傷を免れたらしい。


「だれか! 罪人を拘束しろ!」


 審判が命じると、やっとのことで周りの騎士が動いた。ヤーコプの首輪が光り、首が締まる。そういう魔法具のようだ。


「デニス! しっかりしろ! デニィス!」


 後ろでジークが崩れ落ちるように倒れた気配がした。私はデニスから流れる血を止めながら、必死で呼びかけた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ