第156話 東側の貴族の反応
「エレオノーラ! どうしよう! 公開処刑が決まっちゃった!」
私たち東側の貴族はエレオノーラが借りた談話室に集まった。いつもは逃げ回るラーレも、今回は私の後に黙ってついてきてくれた。
「ええ。11月に闘技場で公開処刑を行うらしいわ。南の貴族はライムント様の暴走を止められなかったみたいね」
くっ、私が試合に出られればなんとかなったかもしれないのに!
「実は、ダクマーが試合に出させるという話もあったけど、それは東側の上層部でつぶしたそうなの。もうビューロウの力はアピールできてるし、何のメリットもないからね。南の貴族もこの公開処刑を止めたかったみたいだけど、やっぱり王家には逆らえなかったみたい。なにしろ王太子夫婦がやる気になっているみたいだからね」
私の参戦は断られていたのか。
「でも私が戦えば勝てるかもしれないよ?」
私はそう主張するが、エレオノーラは首を振った。
「勝てる勝てないの問題じゃないの。私たち東側の貴族が、王家に好きに使われるか、そうでないかもかかわってくるのよ。だから東側のトップとして、あなたの参戦を認めるわけにはいかないわ。それこそ、王家から頭を下げられないことにはね」
私の参戦は認められないのか。でもエレオノーラの言うことは分かる気がした。東側の貴族が王家の好きなように動かされるって、私はいいけどラーレやマーヤさんたちも好きに戦わされるわけだからね。さすがにそれは認められない。王家に頭を下げられて仕方なしに、って言うならわかるけどね。
「くやしいけど、最初にジークが戦うのは避けられない。王家は、ジークの次にマルティンを動かすつもりみたいよ。マルティンって、魔力障壁持ちの魔物を倒している経験もあるから、王太子はかなり自信があるみたい。実際、ダクマーの目から見て彼はどうなの? 光魔法を使うのを見たことあるって話よね?」
私は先日のラーレとの話を思い出した。ラーレを見ると、彼女も首を振っていた。剣術の授業の時にマルティンを見たけど、全然怖いとは感じなかったんだよね。光の資質が高いみたいだけど、それがどうしたって感じだし。
「正直な感想を言わせてもらうと、マルティンはうち一番の戦士よりだいぶ弱いと思う。うちのグスタフでもヤーコプに勝てるかどうかわからないらしいから、ヤーコプに勝つのは無理だと思うよ」
ギルベルトも渋面を作った。
「そうか、この前は会えなかったけど、ビューロウには『灰の剣豪』って言われるグスタフがいるんだよな。マルティンじゃあ勝てないってのは決まりっぽいな。エレオノーラ、どうする?」
「どうするもなにも、家とは関係のないことよ。王家と南の貴族が何とかする問題よ。王家から頭を下げられない限りは、うちらが動くことはないわ」
エレオノーラの言葉に、東側の貴族から安堵の声が聞こえてきた。
「でも王家が頭を下げてきたら? 確か、10人抜きしたらヤーコプは解放されちまうんだろう? そんなやべぇやつを野放しにしたら、何人犠牲者が出るか分からないぞ。ビューロウでもダメみたいだし」
ギルベルトがさらに突っ込んで尋ねてきた。ん? ビューロウがなんだって?
「ちょっと待って。ビューロウなら、私が出ればやれると思うわ。多分私なら一瞬でケリが付くと思うし」
東側の貴族から驚きが漏れた。エレオノーラも絶句した様子だ。
「えっと、灰の剣豪と互角みたいなこと言わなかった?」
他の貴族もその言葉にうなずいている。
「この子、近接戦闘に対してはちょっとおかしいですから。この子が本気になったらグスタフでも止められないんです。なにせ、グスタフ本人も勝てないって言ってましたからね」
ギルベルトの表情が驚愕に染まった。ん? あなた、私が戦うところ見てたよね?
「ダクマーさんがそんなレベルになっているとは思わなかったよ。いざと言うときはダクマーさんが戦うってことか? なんかずいぶんやる気になってるみたいだけど」
「ふっ、よく言うじゃない? なぜ戦うかって聞かれたら、そこに強い奴がいるからよってね。ビューロウ家として、挑まれたら勝負を避けることはないわ」
私の言葉に慌てたのがラーレだ。
「いえ、ビューロウ家で好戦的なのはこの子だけですから! 私もデニスもホルストも、全然大丈夫じゃないですからね!」
でもあなた、炎の秘術一発で魔犬どもを一気に無効化したよね? 正直ラーレなら、マルティンごとき瞬殺できると思うんだけど。なんか、魔法構築のスピードが、さらに速くなってる気がするからね。逃げ足も尋常じゃないし。私でも追いつけないんだから相当だ。
「そういえば、デニスやホルストはどうなの?」
「デニスは取り巻きを外されたみたい。公開処刑では試合会場に立たされるみたいだけど、そのあとはライムントから離れるみたいなことになってるそうよ。なんか不興を買ったとかで突き放されたようなこと言ってたわ。ホルストは、ちょっとわからないかな」
デニスはライムントのことが合わないって言ってたし、取り巻きから外されたのは逆によかったんじゃないかと思う。ホルストのことはラーレでも分からないみたいだ。
「とにかく、東側はこの騒動に基本ノータッチということで。実はちょっと南側にコンタクトを取ってみたの。でも全く見向きもされなかったから、関わるのは難しいと思うわ。私たちは当日、ジークが勝つ、いえ、生き残ることだけを祈りましょう」