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転生少女は色のない魔法で無双する  作者: 小谷草
第3章 色のない魔法使いと闇魔の炎渡り
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第155話 公開処刑が決まる

 噂が流れた。5年ぶりとなる公開処刑が、この学園で行われるというものだ。処刑対象は人斬りヤーコプ。南領を荒らしまわったた男で、南部では蛇蝎のごとく嫌われている。


 私とラーレは夕食を食べながら噂について話し合った。


「南の貴族は反対してるらしいわ。まあ当然ね。ヤーコプがどれだけやばい奴なのか、身をもって知ってるんだから」


 この国の貴族ははっきり言って強い。学園で魔法などの戦闘技術をしっかり学ぶし、有事があれば先頭に立って戦うからだ。でもヤーコプは、そんな貴族を何人も殺している。護衛がたくさんついてるにもかかわらず、だ。


「南の貴族はお金があるから護衛の質も数もいいはずなんだけどね。それでも、何人も貴族がやられてる。ヤーコプがどれだけやばいか、わかりそうなもんだけどね」


 それでもライムントは公開処刑を強行するようだ。今は国王も闇魔対策で地方を周遊しているようだけど、その隙をついての行動らしい。


「ライムントの自信の根拠は何なんだろうね」


 ラーレがあきれたように答えた。


「なんで上級生の私が、同級生のアンタより情報を知ってるのよ! ほら、いつもライムントの護衛についている男っているでしょ? あいつはマルティンって言って、中央の宮廷貴族の息子らしいのよ。光魔法の資質も高いらしいわ。武の三大貴族のどれかの流派を学んだわけじゃないけど、やたら武術が強くて、学園では負けなしだったって噂よ。なんでも、2年のメレンドルフ家の嫡男と互角に戦ったとか」


 え? フェリクス先輩と互角? 見た感じだとそんなふうには見えなかったけどなぁ。


 ラーレもそう思ったのか、そのまま感想を口にする。


「まあ、メレンドルフにしてみれば王家とことを構えるわけにはいかないから、手加減したんだと思うけどね。でも、そんなことライムントには分からないじゃない?」


 そのマルティンってやつが、ライムントの自信の源なのか。一回見たことあるけど、あいつ程度ならうちのグスタフの方が数段強いと思う。聞くところによるとヤーコプは相当強いらしいけど、そんなんで、本当にヤーコプを何とかできるのだろうか。


「ヤーコプとグスタフって、どっちが強いのかな」


 私が聞くと、ラーレはちょっと悩んだ様子だった。


「多分だけど、集団戦になったらグスタフが勝つと思う。あいつ、この数年で指揮がすごくうまくなったからね。でも個人戦だと、ちょっと分からない。ヤーコプは護衛を連れた貴族を何人も倒している。私としてはグスタフが勝つ、って言いたいけど、正直どっちが勝つか分からないわ」


 それじゃあ、悪いけどマルティンとやらだと勝てないと思う。ヤーコプってのは知らないけど、グスタフの強さは分かる。そして一見しただけだと、グスタフとマルティンにはかなりの差があるように感じていた。


 契約魔法を使っているんだから、一回公開処刑が決まったら、罪人が死ぬか解放されるまで、王家と言えども手が出せない。もし契約を破ったら、契約者にとんでもない激痛があるらしい。なんでも、こういう儀式にはかなり偉い人が名前を使うらしいけど、そこんとこ、ライムントは分かっているのだろうか。だからこそ、南の貴族は公開処刑に反対しているんだろうけど・・・。


「ジークは南の貴族だ。近隣の貴族の仲間が殺されているから、ヤーコプの対戦相手に指名されたら絶対に受けると思う。あいつ、矜持だけは本物だからね。大人が止めてくれるといいんだけど」


 ラーレも不安そうな表情だ。


「なんでも、この公開処刑には、王太子と王太子妃も賛成しているらしいわ。王家の力を見せつけるんだって言われているけど、たまったもんじゃないわね。多分、南の貴族が無様に負ける姿を見た後、マルティンが華麗に倒すっていうシナリオなんだろうけど、そうそうまくいくとは思えないわ。私たちはエレオノーラ様が守ってくれるだろうけど、そのジークって子には後ろ盾がいないんでしょう? ちょっとまずい気がするわね」


 沈黙が訪れた。


 ラーレはデザートを無言で食べた後、自分の部屋に戻っていった。その後ろ姿を見ながら、戦いは避けられないんんだろうなと、なんとなく思った。



◆◆◆◆


「公開処刑が決まったぞ! 相手は人斬りヤーコプ! 南の貴族を多数葬ってきた強者だ! 処刑人にはジーク、お前の名前が記されている。お前、大丈夫かよ!」


 クラスメイトの一人が慌てて教室に駆け込んできた。大人はライムントの暴走を止められなかったのか。当のジークは青い顔をしてその言葉を聞いている。


「指名されたのは、南の貴族として光栄なことだ。オレは逃げない。大丈夫さ。南にブルノン家ありってことを見せつけてやる」


 こぶしを握り締めて宣言した。クラスメイト達は痛々しいもののようにジークを見ている。私は思わずジークに何か言おうと口を開こうとするが、その前にジークが声を上げた。


「ダクマー、止めるなよ。ヤーコプは南の貴族にとって宿敵ともいうべき存在なんだ。むしろ、オレにお鉢が回ってきたのはラッキーだと思うぜ。これで我がブルノン家も、ビューロウ家と肩を並べる存在になるだ。うん、オレはついているよ」


 まるで自分に言い聞かせるかのようだった。


「でも! 相手は」

「わかってる! 頼むから、何も言うな! オレは負けない。負けられないんだ!」


 叫び出したジークに、かける言葉が見つからない。


「公開処刑は11月か。あと1か月ちょっと時間がある。それまでちょっと鍛え直すよ。しばらく学園に来られないけど、みんな応援してくれよな!」


 ジークが言うと、気まずい空気が流れたものの、「がんばれよ!」「負けるな!」「応援するからね」など、ジークを励ます声がクラス中から聞こえてきた。仲が良かったホルガーが青い顔をしているのが印象的だった。


 マーヤさんやドロテーさんは私を見ていた。私は何も言えなくなって、思わず天を仰いだ。

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