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転生少女は色のない魔法で無双する  作者: 小谷草
第3章 色のない魔法使いと闇魔の炎渡り
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第151話 ライムントと距離を取ろう ※ オティーリエ視点

※ オティーリエ視点


 私はオティーリエ。前世は日本人なんだけど、病気で死んで、この世界の平民として生まれたんだ。お母さんはきれいな人で、どうやら昔、貴族の妾のような扱いを受けたらしい。でも私を宿したのが分かると放逐され、お母さんは針子として働きながら、苦労して私を育ててくれた。


 4年前、私に光魔法の素質があると分かると、くそ親父が私たちを強引に引き取ったんだ。


 詳しく調査すると、私に光魔法のレベル3の素質があることが分かって、聖女候補だって言われたんだよね。先代は40年くらい前の戦いで大陸に結界を作った偉大な人だったらしく、私は久しぶりの聖女候補として期待されたんだ。


 本家のマリウス様は光の資質は高いそうだけど攻撃魔法が使えない。だから後継にはさせないって一派があって、私は一応光の攻撃魔法が使えたから、彼を危ぶむ人たちが後ろ盾になってくれたんだよね。私はお母さんを楽にさせるには偉い人と結婚して守ってもらうしかないと思って、学園で上位の貴族と縁づけるよう頑張ったんだ。


 そんなある日、気づいたの。ここって、乙女ゲームの世界じゃないかって。そんなフレーズが頭に浮かんだ。でも乙女ゲームってなんぞや、と考えていくうちに思い出したんだ。前世の記憶ってやつをね。


 前世の私は日本で暮らす看護師で、乙女ゲームが趣味の内気な女だった。でも聖女や学園と聞いて、乙女ゲームの世界に転生したのだと思ったんだよね。私自身、銀髪碧眼の美少女だし、学園には眉目秀麗な高位貴族の男がたくさんいたからね。


 自分は聖女だから主人公だと思って、王太子の息子なんかに好印象になるようふるまったんだけど、すぐに失敗したことに気づいた。だって、王太子の息子のライムントはとんだDV野郎だったんだ。自分以外はゴミのように扱うし、平民はもちろん貴族ですらも命なんてないようにふるまっている。この間なんか、自分からぶつかったくせに相手を殺そうとしたんだ。あいつ、まじやばいって!


 そんなことをしていると、公爵令嬢に呼び出された。このころになると私にもわかった。この世界は日本のように優しい世界じゃないってことに。身分は絶対だし、本当にちょっとした理由で殺されることもある。お母さんがなんで貴族にいいようにされるのか分からなかったけど、この世界なら当然のことだったんだ。


 公爵令嬢には会ってすぐに土下座した。それで許してもらおうかと思ったけど、驚いたことに彼女は私と同じ転生者だった。公爵令嬢の隣にいたかわいい女の子が主人公らしくて驚いた。何よりびっくりしたのが、この世界が『戦場乙女』の世界だってことね。


『戦場乙女』は正式には「乙女は戦場で桜吹雪に舞い踊る」っていうゲームなんだけど、攻略が難しかったり理不尽なゲームオーバーがあったり、難しいシミュレーションパートがあったりで乙女ゲームとしては最悪っていう評判だった。絵はきれいだけど、攻略対象のなかには受け入れられない性格の男もいるって噂で、私はプレイしなかったんだ。でもまさか、『戦場乙女』の世界に転生するなんて・・・。


 公爵令嬢から話を聞いた私は、ライムントから距離を取ることにした。でも相手はしつこく話しかけてきて・・・。


「オティーリエ。私が許すと言っているんだ。さっさと傍に来るがいい」


 こっちは距離を取ろうとしているのに、あいつはしつこく近づいてきた。


「い、いえ。私はしがない伯爵令嬢ですので、ライムント様の傍にいるのは恐れ多いです。ライムント様ほど高貴な方にはもっとふさわしい方がいると思いますわ。私のことは気にせず、どうかその方と仲良くなさってください」


 公爵令嬢には悪いけど、私にはライムント様は荷が重い。そう言って距離を置こうとしたんだけど――。


「なんだ? エレオノーラに何か言われたのか。あいつも許し難い。混じりもののくせに、一丁前に嫉妬するなんてな。あいつのことは私が何とかするから、オティーリエは気にせず私の傍に侍るがいい」


 いや話を聞いてよ。てか空気を読め。お前とは考え方が全く合わないんだよ! 心ではそう思ったが、当然そんな心の声は通じない。


「お許しください。私には荷が重いのです。これから礼儀作法や魔法を身に着けていかねばならないので、どうかご容赦ください」


 そう言って頭を下げる。ライムントは舌打ちして、驚くべきことに剣を抜いてきた。え? なんで?


「つまりお前は私に逆らうというのだな。無礼な。私のモノにならないのならここで死ぬがいい」


 うそでしょう!? こんなことで剣を抜いちゃうの!? 思わず手を前に出してぎゅっと目を閉じてしまう。しかし、剣はいつまでも私の体に落ちなかった。


 薄目を開けると、私の前に一人の男子生徒が立っていた。彼は金属のメダルでライムントの剣を受け止めていた。


「ライムント様、おやめください。オティーリエ様は貴族令嬢です。それを無礼打ちしたとすればあなた様の名に傷がつきます。どうか」


 私を守ってくれたのは、いつか食堂でライムントがぶつかった男子生徒だった。


「貴様・・・、一度ならず2度までも」


 ライムント様の顔が怒りに染まる。


「お前! 確か南のブルノン家の嫡男だな! 新参者の貴族のくせに生意気な! お前ごときが意見を言っていい方ではないのだぞ!」


 取り巻きその1がそう言うと、取り巻きその2も同意する。


「はっ! 南の貴族が! 周りは金回りがいいようだが、お前の家はそれほどではないのは分かってるんだぞ! 部門を目指しているそうだが、いつまでも調子に乗りおって!」


 2人はライムントに同調し、男子生徒に詰め寄った。


 え? 私を助けたせいで、彼がひどいめにあっちゃうってこと!? ど、どうしよう!?


 泣きそうになった私を見かねたのか、上位クラスの生徒が止めに入った。


「ここで貴族を無礼打ちすると、本当に名に傷がつきます。南の貴族との関係も悪くしてしまうでしょう。どうか寛大な心でお許しください」


 そう言ってライムントたちを止めたのは上位クラスの生徒だった。たしか、デニスだったかな。彼はあのダクマーさんの兄にあたるらしいけど、取り巻きを外されそうだって聞いている。


 デニスは頭を下げる。ライムントは気に入らない様子で彼らを見るが、急にニヤリと嫌な笑みを浮かべる。何か、ろくでもないことを思いついたようだ。


「ふん! この場は捨て置いてやる。だが覚えておけ! お前の家は、私に逆らったということをな! デニスも、最近は北の獣どもとよくつるんでいるようだが、いつまでもそうできるとは思うなよ」


 そういうと、取り巻きを引き連れて去っていった。デニスも放心したようにしている。


 嫌な予感がする。私をかばってくれた彼に、何か不幸が訪れるのではないか。


「ありがとうございます。おかげで助かりました。あの、大丈夫ですか?」


 その少年――ジークはしばらく放心した様子だったが、私が話しているのに気づいてぎこちなく笑みを浮かべた。


「女性を助けるのは、部門の男子として当然のことです。でも気を付けたほうがいい。ライムント様にはこれ以上近づかないことをお勧めします」


 私は1も2もなく頷く。この世界って、やっぱりやばい。ジークさんみたいに素敵な人もいるけど、ライムントのようにやばい奴もいる。私は嫌な予感がして、公爵令嬢にコンタクトを取ることにしたのだった。

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