第149話 日本で暮らしたことのある仲間
話がひと段落した私たちは、お茶を飲んで休憩している。
「ところでお二人さんはかなり仲がいいみたいだけど、どういう関係? ヒロインと悪役令嬢って、敵対するもんだっていうイメージがあるんだけど」
オティーリエの口調はだんだんざっくばらんになっている。まあ、同じ元日本人だから親近感を感じてくれているのだろう。私も、今日初めて話したのに古くからの友人みたいな気がしてきた。
「えっと、エレオノーラとは前世のころからの親友なの。まあ今の私はしがない子爵令嬢で、いつも迷惑ばかりかけてるんだけどね。今も公爵令嬢として気にかけてもらってるしね」
エレオノーラも詳しく説明した。
「ダクマーとは前世で家が隣で、多分同じタイミングで死んでしまったのだと思うわ。再会したのは学園に来る途中なんだけど、気心が知れているから、こんな感じになったのよ」
オティーリエは驚いた様子だった。
「へえ、前世でも幼馴染なんて、すごい偶然ね。知り合いが見つかってうらやましいわ。ちなみに他に前世持ちの人っていたりするのかな?」
エレオノーラは決心したように話し出した。
「実は、私の父がこっちに来ているかもしれないの。私とダクマーは、私の父が運転する車が事故にあって、こっちに来たのよ。今回も、実はオティーリエさんがもしかしたら父が転生した姿か持って思ってたのよ」
オティーリエはバツの悪そうな顔をした。
「あ、ええと、それはご愁傷さまです。そ、そうか。そんな事情だから、エレオノーラのお父さんがこっちに来てるかもしれないのね。でも大人の男性が女の子に転生なんて、さすがにないと思うわよ」
オティーリエが努めて冗談めかして言うのが分かった。
「まあ、あの事故は不可抗力みたいなものだったからね。おじさん、あの時もすごく安全運転してくれてたし。それにその時の用事は私の送迎だったから、かなり申し訳ない気分なんだ」
私も努めて明るく話した。オティーリエはちょっと戸惑ったみたいだけど、気にせずそのまま話をしてくれる。
「そっか。まあ世間には不可抗力の事故ってあるもんね。私の方はずっと一人だったから、エレオノーラのお父さんの情報はないわ。それでこんな時に言うのもあれだけど、私がしておくことってあるかな。一応聖女候補になるっぽいから光属性の魔法は鍛えてるけど、それ以外でしておくことがあるなら教えてほしい。私、このゲームの存在は知ってたけど、プレイしたことがなくてさ」
エレオノーラは渋面で答えた。
「正直なところ、あんまりゲームの進行通りに進んでいないのよね。先日ダクマーがフリッツと戦ったのは知ってるでしょう? あのイベントは本当は2年の2学期に起こるはずだったの。だからイベントの内容はある程度知ってるけど、それがいつ起こるかは分からないわ。ただ、ゲームの流れ通りなら、3年生になったら私たちも戦場に行かなきゃならなくなるかもしれないわ」
オティーリエの顔色は悪いままだ。
「うわ、3年って、あと1年半くらいしかないじゃん。そういえばダクマーさんはフリッツをぼこぼこにしたんだっけ。まあフリッツはうちのクラスだと嫌われてたから、ざまあ見ろって意見が大半だったけどね」
そういえば、オティーリエは平民が多いクラスだったね。
「平民クラスだと、中級クラスや上級クラスの情報は結構回ってたりするのよ。エレオノーラさんやダクマーさんはむやみに平民を傷つけないから、評判は悪くないわ。ライムント様は顔がきれいだから人気があったんだけど・・・。分からないものね」
平民クラスの事情なんて知らなかったので、これはこれで興味深い。
「この世界の闇魔は強力だわ。下手な魔法は簡単に弾かれちゃうし、魔力障壁はかなり強固で簡単には抜くことができない。おまけに闇魔は強力な魔法を使ってくる。オティーリエさんは光魔法が使えるのなら、それをしっかり鍛えておくことをお勧めするわ」
オティーリエは照れて顔を赤くしながら答えた。
「えへへ、私、光属性の魔法が使えるのがちょっと自慢なの。レベルも3でかなり高いでしょ? 光属性のレベル3はかなり珍しいって言われてる。午後の選択授業でも光魔法を取って鍛えてるんだ。まあ、それであのライムント様と知り合ったのよ。素質が高いといってもやっぱりマリウスにはかなわないんだけどね」
光属性が使えるって、やっぱりすごいなぁ。希少だし、すごい回復魔法が使える属性だからね。攻撃魔法としても優秀だし、身体強化の効果は6つの属性の中で一番大きい。使えると知られるとかなりうらやましがられるんだよね。
反対にラーレが使う闇魔法はちょっと嫌われている。素質がなくても深く絶望したら目覚めちゃう属性でもあるらしいからね。ラーレが領地でみんなから避けられてたのは、この属性を持っているからって言う事情もあると思うんだ。
「聞いてる限りでは、本気で鍛えないと生き残るのは厳しそうね。なんか、学徒動員もあるって話だし。あ~あ、乙女ゲームに転生して、いい思いができると思ってたんだけどなぁ。むしろ前世より難易度が上がっている気がするわ」
気が付いたら、私たち3人は気楽に話せるようになっていた。同じ前世を持つ仲間って、やっぱりいいよね。