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転生少女は色のない魔法で無双する  作者: 小谷草
第3章 色のない魔法使いと闇魔の炎渡り
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第147話 3人目の転生者

「え? オティーリエと話してみたいって? 彼女、ダクマーが気にするほどの人物じゃ、ないと思うんだけどなぁ」


 あの後、マリウスに思い切ってオティーリエと話せないか聞いてみた。一応親戚のマリウスなら、彼女と話すつてがあるのではと思ったのだ。マリウスはなぜ私がそう言うのか分からないようで、ちょっと考えるそぶりをした。


「う~ん、ビューロウ家には大きな恩があるからできれば応えたいけどね。あ、ほら。決着はほぼ着いたとはいえ、彼女とは後継を争った関係だろ? 私が言っても聞いてくれないと思うけどなぁ」


 マリウスの言うことは分かる。最近私はマリウスやギルベルトともよくつるんでいるし、彼女にとって私はマリウスの取り巻きみたいな貴族だと思われているんじゃないかな。


「ちょっと話してみたいと思っただけなんだ。無理にとは言わないから、話すだけ話してみてくれないかな」


 彼女はあのあと、ライムントから距離を取ろうとしてるみたいだけど、あまりうまくいっていないようだ。ライムントがしつこく連れまわそうとしているのを彼女が何とか断っている様子をたまに見かけるようになった。


「まあ、ライムントとの考え方の違いに気づいたようだけど、はっきり言って彼女は自業自得だ。王族の傍に行くということは、その横暴さを目の当たりにするのは常識だと思わないか? 私としてはほおっておいて、ライムントを引き付けてくれたら万々歳なんだけどね」


 まるでこの間のエレオノーラのようなことを言う。


「う~ん、詳しくは言えないけど、彼女は私と同じ可能性があるんだよね。だから一応忠告だけはしておきたいんだ」


 マリウスは納得の表情を浮かべた。


「ああ、君とエレオノーラがたまに話している件か。まあ秘密を暴く気はないが、そうだというならちょっと納得だね。分かった。話すだけ話してみようと思う。だけど、あんまり期待しないでくれよ」



◆◆◆◆


 意外なことに、オティーリエはすぐに話に乗ってくれた。私はマリウスに時間と場所を伝えると、エレオノーラと一緒に談話室で彼女を待つことにする。


「ごめんね。エレオノーラまで巻き込んじゃって。でも一度、オティーリエと話してみたいと思ったんだ」


 エレオノーラは笑顔で首を横に振った。


「ううん。彼女が転生者の可能性があるのなら、一度きちんと話をしなきゃと思ってたのよ。私の場合は確かめないといけないことがあるし」


 確かめないといけないこと? なんかあったかな。


「ほら、私たちが転生する前のことを思い出して。もう一人、私たちと同じ運命を辿った人がいるでしょう?」


 あ! アキちゃんのお父さん!


 でもオティーリエは女の子だし、アキちゃんのお父さんは40代のダンディーなおじさんだった。


「ネット小説とかでたまにあるのよ。おじさんが若い女の子に転生しちゃうって話が。あんまり考えたくはないけど、オティーリエがお父さんって可能性もなくはないのよ」


 私はげんなりした表情になる。あの恰好がよかったおじさんが、ライムントに纏わりつく女子になるなんて、あんまり考えたくない。銀髪碧眼で目がぱっちりしたかわいい女の子に転生したら、分からなくもないけどね。


「おじさんなら盆栽見せたらよってこないかな? たしか、コンクールに入賞したとか言ってなかった?」

「この世界に盆栽なんてあるわけないでしょう。そろそろ約束の時間だから、ちょっとは気を引き締めなさい」


 エレオノーラに叱られてしまった。



◆◆◆◆


 私がもしかしたらの可能性にどぎまぎしていると、ドアをノックする音が聞こえてきた。


「どうぞ」


 エレオノーラが言うと、オティーリエがおずおずと入室してきた。顔色は悪い。横暴なライムントに、気おされてしまっているのだろうか。


 彼女は入室するなり頭を下げる。まさかの土下座である。


「本当にすいませんでした! 同じ光魔法を専攻しているので、恥ずかしながらもライムント様とお話しさせていただきました。もう二度と近づきません! これからはつつましく生きていこうと思っているので、私と家族の命だけは勘弁してください!」


 入室するなり謝ったオティーリエ。私とエレオノーラは思わず顔を見合わせた。どうやら彼女は、高位貴族の横暴さを実感したようだ。エレオノーラは面食らった様子だが、すぐにいつもの調子を取り戻した。


「何か勘違いしているようですけど、私は別に、あなたとライムント様がどうなろうと気にしていません。同じ光魔法を使われると聞いておりますし、むしろ身分さを超えた愛を応援したいと思っておりますのよ」


 エレオノーラはライムントを押し付ける気満々だ。私がエレオノーラにちょっと引いていると、オティーリエが反論してきた。


「いえいえ、私なんぞ、ライムント様と釣り合っておりません! 公爵令嬢のエレオノーラ様こそが、ライムント様にふさわしいと思います」

「そうおっしゃいますけど、ライムント様が私に興味がないのは明らかですわ。やはり、一緒にいても苦ではないオティーリエ様こそ、ライムント様にふさわしいのではなくて?」


 ひどい押し付け合いを見た。私は顔を引きつらせながら、エレオノーラに声をかけた。


「ライムントのことはどっちでもいいから。今日、来てもらった理由は他にあるでしょう?」


 エレオノーラは言い足りないような顔をしたが、咳払いをしてオティーリエに向き直った。


「オティーリエさん、日本、と言う言葉に聞き覚えはないかしら?」


 オティーリエは驚いた表情だ。


「へ? なんでその言葉を知ってるの? もしかして貴方達って?」


 私とエレオノーラは頷き合うと、思い切って話をした。


「オティーリエさんもそうだと思うから言うけど、私たちは日本からの転生者なの。私たちは前世で17年間生きてきた記憶がある。あなたもそうなんじゃない?」


 オティーリエは目を見開いた。そしてしばし沈黙があたりを支配した。


 オティーリエは俯き出す。その目にはみるみるうちに涙がたまっていった。


「私、すっと一人なんだと思ってた。あなたたちも、日本から転生してきたのね。なんかわかる。だってあなたたちのしぐさって、すごく日本人っぽいもの。そっか、私は一人きりで生きていかなきゃいけないと思ってたけど、そうじゃないのね」


 大粒の涙をぬぐいながら、オティーリエは続けた。


「ご、ごめんなさい。お互いどんな人か分からないのに、私、うれしくて。もう日本のことなんて、誰にも話せないと思ってた。そっか、うん。私、一人じゃないんだね」


 オティーリエはそう言うと、静かに涙を流し続けた。

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