第145話 ライムントの恋人?
学園に戻った私たちは、頻繁に談話室に集まるようになった。ヨルダンとの戦いで結束力が強くなったように感じる。私とエレオノーラとマリウスとギルベルト、この4人が集まってお茶を飲んだり雑談したりするのだ。ちなみにラーレはめったに参加しない。やはり、上位貴族が集う場には、怯えてなかなか来ないのだ。
「ラーレ先輩は、今日も不参加なのか?」
ギルベルトがちょっと寂しそうに言った。同じ魔法過多だけあって、ギルベルトはラーレに話しかけることが多い。一方で、ラーレがギルベルトに話すときは未だに緊張している。あんなに強い魔法を使うのに、ラーレらしいと言えばラーレらしい。
「う~ん、夕ご飯は毎晩うちに来てるから、元気なのはそうなんだけどね。ラーレは卒業とかあるから、ちょっと忙しいのかもよ。たまには顔を見せるように言っておくわ」
私がそう言うと、ギルベルトは嬉しそうだ。「お願いするね」と笑顔で答えた。
「そういえば知っていて? ライムント様に、どうやら春が来たらしいのよ」
婚約者候補なのに、エレオノーラは嬉しそうに言った。まあ、あの人俺様だし、義理も人情もなさそうだし、苦手だと思うのも分かるなぁ。
他の2人も、初めて知ったような顔をした。
「へえ、そうなんだ。なんか良かったんじゃない?」
ギルベルトは本気で興味なさそうだ。マリウスも手に持った本から目をそらさずに「そうなんだね」とまるで気にしていない。
「あれ、2人はライムント様と仲がいいんじゃなかったの?」
確か、ゲームではそんな感じだったと思う。側近候補と言うか、取り巻きみたいになっていたと思うんだよね。
マリウスは本気で嫌そうに顔を上げた。
「かんべんしてくれよ。正直、あの人とは貴族としての生き方も考え方も違う。一緒にされるとお互いに嫌な思いをするくらいだ。どうしてそう思ったのか、本気で理解に苦しむんだけど」
ギルベルトも難しい表情になる。
「うん。僕もあの人はちょっと苦手かな。東の貴族を見下すようなことも多いし。僕とは距離を置いてる感じがするしね。話したこともほとんどないよ」
そっか。ゲームとはだいぶ違うんだな。
「でね! 最近は、ある特定の女子生徒としょっちゅう一緒に過ごしているそうなの。その女子生徒には頑張ってもらって、一日も早く婚約者候補から降りたいのよね」
ああ、そうか。エレオノーラは下手したらあいつと結婚しなきゃいけないかもしれないんだよね。確かにそれは避けたいかも。でも、あのライムントと一緒にいるって、どんな子なのかな。
「エレオノーラも大変だね。ちなみにどんな子なの?」
正直私もライムントには興味ないけど、エレオノーラが喜んでいるみたいなので聞いてみた。
「えっと、下のクラスに所属している同級生みたいなのよね。確か、リヒト家のご令嬢らしいんだけど、詳しくは知らないのよ。あれにも登場しなかったし。あなたたちは何か知らない?」
リヒト家って、西の貴族だよね。西の貴族と言えばマリウスだけど・・・。ちなみにアレとはゲームのことだ。2人は心得たもので、この手の話は流してくれる。
って、どうしたのマリウス。すごい顔になってるけど?
「リヒト家・・・、リヒト家のオティーリエか! 上昇志向が強いのは知っていたけど、まさかライムント様をターゲットにするとはなぁ」
「知ってるのか、マリウス?」
ギルベルトが聞くと、マリウスは渋い顔になった。
「いやさ、リヒト家はうちの叔父が継いでいて、オティーリエはいとこなんだ。彼女は叔父の妾の子で、小さい頃は平民として暮らしていたらしいんだよね。だから、貴族としての礼儀作法は身についていない。でもどうやら光魔法に強い素質があったらしく、数年前に引き取られたんだ。彼女は天真爛漫と言うか、距離なしと言うか。けっこうなれなれしくて困ってるんだよ」
◆◆◆◆
オティーリエ・リヒトはかなり光の資質が強いらしく、マリウスが攻撃魔法を覚えるまでは、後継に推す勢力もあったとか。そう言えば、この前ディーターさんが西に聖女候補がいるって言ってた気がする。
「ライムントが彼女のバックに着くなら、ちょっと面倒なことになりそうだな。さっきも言ったけど、彼女は上昇志向が強い。もしかしたら、エレオノーラと敵対することになるかもしれないね」
「う~ん、私としては、ライムント様と彼女がくっつくなら早くくっついてほしいんだけどね。そうしたら、晴れて婚約者候補から解放されるしね」
エレオノーラがいいならそれでいいけど、でもあのゲームに聖女なんていたかな? 現実では先代聖女がすごい結界を張ったのは有名な話なんだけどね。
「聖女って、この時代にもいるんだね」
マリウスは本気でうっとうしそうだ。
「大叔母が没してから、聖女に認定された人間はいないんだ。聖女になるには厳しい選定がある。容姿とか、品格とかね。なにより強い光魔法の資質が高くないといけないんだ。具体的に言うと、レベル3以上の資質がね。オティーリエにはその資格がある。だから、本人も、その周りもうちの跡継ぎになるって、騒いでるんだ」
光魔法は、特殊な属性だ。貴族でもほとんどがレベルゼロで、先天的に資質を持っている人は珍しい。レベル1でもかなり優遇されると聞いている。
素質を持っている人は少ないけど、王家とマリウスの出身のヘリング家は別だ。光魔法を持つ人が生まれやすく、ヘリング家は回復魔法の使い手を出すことで、この国に確かな力を示している。分家とはいえ、ライバルに力を持った令嬢が現れたら、かなり立場が悪くなるのではないか。
「マリウスも大変だね~」
私が気楽に言うと、マリウスは「ホント他人事だよね」と私を半眼で見つめた。いや実際に他人事だしね。
「でも私はバルトルド様から例の魔法を授かったから、後継問題は片付いたようなものなんだよね。先代聖女が残したあの魔術にはそれだけの価値がある。私が力を手に入れたのは、家の護衛を通じてかなり広まっているらしいからね」
どうやらここでもおじい様はいい仕事をしたらしい。ホント、剣術以外は優秀な人なんだよね~。
「オティーリエとその一派は、焦っているのかもしれない。あの魔法を覚えたことで、私は大きくリードしたのだから。王家と組むと、ろくなことをしない気がするね。ライムント様の一派は、ただでさえ強引な行動が目立つから。まあ対策はいろいろしているから大丈夫だと思いたい。でもちょっと気を付けないと、まずいよなぁ」