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転生少女は色のない魔法で無双する  作者: 小谷草
第3章 色のない魔法使いと闇魔の炎渡り
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第144話 星持ちの価値

 感動するマリウスを連れ、私たちは学園に戻った。


 はっきり言って、今回はいつもの魔物退治よりもかなり苦戦した。それなのに教員を付けないなんて、学園は何を考えているのか。


 いきり立つ私を見て、ヴァンダ先輩が心配そうにしている。


「ダ、ダクマーさん! あっしなら大丈夫ですから! そんな大事にしなくてもいいですから!」


 ヴァンダ先輩はそう言うけど、何か一つ間違えたら怪我をしていたかもしれないのだ。いや、怪我どころか、命まで取られたかもしれない。マリウスだって、怒り心頭の様子だったんだから!


 私たちは職員室に入る。教師たちは驚いた顔で見てくるが、私たちは気にせずずんずんと進んでいく。


 目的の席には、黒いローブを着た20歳くらいの男が静かに資料を読んでいた。こいつが、ウルリヒ・ランケルだね!


 ウルリヒは顔を上げると私を一瞥し、その後ろにヴァンダ先輩を見つけると嘲笑を浮かべた。


「ヴァンダ。何をしている。お前には死霊の討伐を命じたはずだが。ふん。その様子だと逃げ帰ってきたのだな。まったく。星持ちと言われるだけで調子に乗って。やはりお前は名ばかりの魔法使いなのだ」


 こんなに決めつけられているのに、ヴァンダ先輩は黙って下を向いている。何も言えないようだが、拳を握り締めているのが分かった。


「ウルリヒさん。あの屋敷の死霊は学生の手に負える相手ではなかった。それなのに、教員もつけずにヴァンダ先輩を活かせるのはどういうつもりですか。まるで、ヴァンダ先輩を怪我させるために向かわせたようですね。そんなことが許されると思っているのですか」


 ウルリヒがめんどくさそうに発言者のほうを見た。生徒のくせに、バカなことを言い出したと思ったのだろう。だが、その言葉を発した人物を見て目を見開いた。


「マ、マリウス様! なぜこのようなところに!」


 さすがに西の重鎮たるマリウスを無視することはできなかったのだろう。ウルリヒは立ち上がって慌てて一礼した。


「マ、マリウス様がヴァンダの言うことを気にする必要はありません。適当なことを言ったのでしょうが、あの館の死霊はそこまで強力なものではありません。ヴァンダが後れを取った分は私が何とかいたしますので」


 焦ったように言い訳するウルリヒを、マリウスは冷めた目で見返した。


「その必要はありません。あの館の死霊はもう殲滅しましたから」


 ウルリヒは目を見開いた。そんなウルリヒを冷めた目で見ながらマリウスは言葉を続けた。


「今回の死霊討伐には私も参加しました。あそこに現れた死霊は、並みの魔法使いに倒せる相手ではありません。ビューロウ家のダクマーさんやクラー家のディーターがいなければ殲滅は難しかったでしょう。それを、星持ちとはいえ未成年のヴァンダ先輩にすべて任せるなんて。教員が然るべき者を選んで討伐に向かわせるべきではないのですか!」


 マリウスが厳しく追及している。


 まあそうだよね。普通なら、教員が討伐隊に声をかけてチームを作り、そして教員自身がバックアップについていくはずの魔物だったんだから。


 ウルリヒは必死で言い訳しようとしているようだが、言葉が出てこないようだった。


「このことは、学園長に報告させていただきます。軽い処分で済むとは思わないことです。このように手に負えない魔物の討伐に行かせられたら、私たち生徒が安心して魔物討伐に参加することはできませんから」


 そう言ってマリウスは職員室を後にする。私たちは、慌てて彼の後を追ったのだった。



◆◆◆◆


 私はニヤニヤしながらマリウスの後についていく。


「今回はあまりに悪質だ。ディータやダクマーさんがいなかったら、ヴァンダ先輩は確実に怪我をしていたと思う。最低でも、教員のフォローはつけるべき案件だった。ランケル家は後継を争ってるようだが、これを機会にヴァンダ先輩を落とそうというのか!」


 いきり立つマリウスに、ディーターさんが同意した。


「星持ちは家だけでなく王国全体の宝です。それを無暗に傷つけるようなこと、許されるわけがありませぬ。あのウルリヒという男、この学園の教員になるには自覚が足りなすぎる! 我がクラー家は、断固反対しますよ!」


 怒りに震える2人を、ヴァンダ先輩は茫然と見つめていた。


「いえ、あ、あの! あっしの件で怒ってくれるのはうれしいですが、そこまで言うほどのことではありませんから。すこし、冷静になられたほうがよいのでは?」

「う、うん。いちおうウルリヒにはざまぁできたんだから、今回は怒りを鎮めた方がいいんじゃないかなぁ」


 私たちが口々に宥めるが、マリウスたちは私たちを睨み返してきた。


 え? もしかしてこっちに飛び火しちゃった?


「ダクマーさん。私たちは何も自分たちが危機にさらされたから怒ってるんじゃない。ウルリヒがやったことはかなりの問題なんだ。王国の宝である星持ちが、危うく失われてしまうところだったんだからね」

「ヴァンダ様。あなたももう少し自分の身に気を配るべきです。マリウス様と同じ星持ちたるあなたの安全は、何より優先されるべきことなんですから」


 お、おう。どうやら2人はこの件に関して全く引くつもりはないらしい。


「ダクマーさん。君の妹は星持ちらしいけど、彼女がヴァンダ先輩のような扱いを受けたらと考えれば分かるだろう? 厳しい任務に、教員のサポートなしに放り出されると思ったら、彼のやったことがどれだけ悪質かは分かるんじゃないか」


 え? アメリーがこんなことされたらって?


 私は想像する。アメリーがもし、厳しい任務に一人で頬りだされたとしたらどうだろうか。多分私は怒り狂うだろうし、エレオノーラだってそれを命じた者を許さないはずだ。


「だ、だめだよ! そんなの許されるわけない! こんなの絶対にダメだ! うん! 私も抗議するんだから! ウルリヒめ! 許さないよ!」


 そう言って、私たちは当事者のヴァンダ先輩をよそに、学園長に文句を言いに向かうのだった。



◆◆◆◆


 ちなみに学園長のレオンハルト先生も、この件をかなり重く見たようで、ウルリヒにはかなり厳しい処分が科せられたそうだ。本人はこの学園の教員になりたいみたいだけど、その夢はかなり遠ざかったに違いない。ちょっとざまあだよね!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「本人はこの学園の教員になりたいみたいだけど、その夢はかなり遠ざかったに違いない。ちょっとざまあだよね!」 教員と教師は違うのかな?
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