第141話 クルーゲ流の戦士
私たちは館の探索を続ける。リビングのような部屋に入ったが死霊の姿はない。ここで、1階の部屋はすべて回ったことになるんだけど・・・。
「この部屋には何もいない。ってことは、敵は2階か3階にいるってわけかな? 確か、この屋敷に地下室はないみたいだし」
私の言葉に同意したのはディーターさんだった。
「おそらくそうでしょう。ですが、お気を付けください。階段を登る途中くらいが怪しいと思います。あそこでは、ダクマー様の機動力も奪われてしまうでしょうから」
さすがこの人、よく見ているよね。私が回避系の前衛だということは把握しているみたいだ。
「違ってたらごめんなさい。ティーターさんって、もしかしてゲラルト先生の授業を取ってたりします?」
ディーターさんが顔をほころばせた。
「おお。ということはダクマー様も? あの授業はかなり面白いですよね。私は去年に引き続き、ゲラルト先生の授業を専攻したのでありますが、2年になってからも相変わらず面白いですぞ」
やっぱりそうなのか。どおりで動きに既視感があると思ったんだ。ディーターさんがゲラルト先生の指導を受けたのなら、鋭い動きをするのも納得できるというものだ。
「そう言えば聞いたことあるっす。なんかライムント様の護衛と下級貴族の教員がもめて、ライムント様の護衛が謹慎させられたって。確かその教員がゲラルトって名前だったような?」
やっぱりあの1件っておかしいよね? 相手はライムントの側近なのに簡単に謹慎させられちゃうなんて。
「ゲラルト先生は、クルーゲ家の当主のお気に入りでありますからなぁ。王家の護衛とはいえ、簡単に手を出せる存在ではないのです。あの先生は、盾を使わせたら実力派随一でありますから、教員の中にも守ろうとする人は多いのであります」
そんな話をしていたら、2階へと続く階段に到着した。天井は高く、段数も多い。多分、20段くらいあるのではないだろうか。
「おそらく、階段の途中で襲撃があると思われます。私が先行しますゆえ、ダクマー様は私を盾にするように移動してください。マリウス様とヴァンダ様は遠距離魔法をお願いします」
マリウスが目を見開いた。わが身を盾にするようなディーターさんの言葉に驚いた様子だった。
「ディーター。私は・・・・」
マリウスは何か言おうとするが、ディーターさんがそれを遮った。
「マリウス様はビューロウ領で遠距離攻撃を覚えたのですよね? ならば、この場での戦闘はお願いします。ヘリングの盾となるのはクラー家の誇り。マリウス様の準備ができるまで、きっと耐えてみせるのであります」
これが、クルーゲ流を学んだものの強さだ
ディーターさんはきっと、マリウスたちの準備ができるまで耐え続けるのだろう。耐えに耐えて、魔法使いの援護を待つ。その耐える強さこそが、クルーゲ流の本当の恐ろしさなのだ。
「ディーター。おまえは・・」
マリウスが何か言おうとするが、ディーターさんは笑って階段を駆け上っていく。
「我こそはディーター・クラーなり! 死霊どもには決して負けぬことを、クルーゲ流の精強さを、とくとご覧あれ!」
そしてディーターさんの予想通り、階段の半ばまで登った時に、3匹の死霊たちからの攻撃が始まった。
「きょけきょけきょけ!」
死霊たちの攻撃を、ディーターさんは見事に受け止める。そして、剣でけん制しながら死霊たちを足止めしていた。
「こんなシチュエーションに燃えなきゃ、示巌流の剣時じゃないよね!」
私はニヤリと笑うと、死霊の一体に素早く接近した。
そして横薙ぎの一撃を叩きこんだ!
「けきょーーーー!」
私の剣を受けた死霊は、あっさりと消滅した。
まずは一体!
次の獲物を探した私の目にヴァンダ先輩の魔法によって消えていく死霊が見えた。
「サチャーレン」
ヴァンダ先輩がつぶやく。この魔法、魔力を強制的に引きはがす魔法なんだけど、強力な魔法だけあって消費魔力も多いようなんだよね。それを連発するだなんて、さすが星持ちだ。
「サキューレ・フレーゲン!」
汚名返上とばかりに魔法を放ったのはマリウスだった。巨大な光魔法は風魔法によって吹き飛ばされ、死霊を簡単に消滅させていった。
「おお! それが、マリウス様の!」
ディーターさんの言葉に、マリウスは照れたように頬を掻く。
「ああ。これが私の遠距離魔法さ。まだこの威力しか出せなかったり、連発できなかったりと課題は多いけどね。でも、バルトルド様が授けてくださったこの魔法を無駄にはしないつもりだ」
そう言って、マリウスはディーターさんに微笑みかけたのだった。