第14話 おじい様の実力
次の日の朝のことだった。
ラーレは落ち込んでいた。全力でやった成果が的を少し焼いただけ。私はすごいと思ったけど、そこまで評価された様子ではなかった。
「いやでも、ラーレも魔法を使えたじゃん! 今まで全然使えなかったんだからすごい進歩だよ!」
私は必死でラーレを励ます。実際にラーレはすごい。魔力板の制御については私もグスタフも足元にも及ばないのだ。
「ラーレ嬢ちゃんの魔力制御は実際すげえんだよな。知ってるか? レベル5以上の資質の持ち主は天災とか呼ばれるんだぜ? 暴走させるのが普通だし、魔法を発現させるなんてできないはずだ。闇魔法で魔術を減退させて火魔法を放つ。まあ、普通は切り替えが難しいし、威力が低くなるからやらないわな。でもお嬢ちゃんがもっと闇魔法が上手くなれば、強い火魔法も撃てるようになるんじゃねえか?」
グスタフが感想を言ってくれる。私たちといつも一緒に修行してるから、グスタフもすっかり私たちびいきになってるんだよね。
私たち2人でラーレを励ましていると、おじい様が道場に入ってきた。すべての元凶なのに、私たちに偉そうに言い聞かせてきた。
「やっておるか。貴様らは、魔力板の修行をしっかりやるのじゃ。魔力制御の訓練は特に頑張らんとだめだぞ」
なんか私たちがさぼっているかのような言い分だ。おじい様の言葉に私は憮然となった。
「やってますって! でも、制御訓練ばっかりやって、本当に意味があるんですか? 私はともかく、ラーレはかなり魔法を制御できると思うんですけど」
私が吐き捨てるように言うと、ラーレは慌てて私の頭を掴んでお辞儀させた。
「す、すいません。ちゃんと訓練しますから!」
そういうけど、ラーレだって魔力制御ばかりやらされるのに不安になってるよね。この爺、何にも説明せずに馬鹿の一つ覚えみたいに「魔力制御の訓練をやれ」とばっかり命令するんだ。さすがにちょっと、理不尽に思える。私たちが劣等生だからって、適当なこと言ってるんじゃないでしょうね!
「私たちちゃんとやってるから! 毎日同じ訓練でもね!」
私は腹が立って、かなり反抗的な態度になった。鋭い目で睨みつけるが、叱りつけてくるはずのおじい様は笑い出した。
「はっはっは。ちゃんとやってる、か。そういうのなら、これくらいはできるんだろうな」
そう言って、自分の四方に魔力板を置いた。え、なにをやるつもりなの?
「ダクマー、合図をしなさい」
私は戸惑いながら首をかしげる。でもおじい様に促され「はじめ!」と呼びかけた。
「ふん、これくらいならな」
そう言うと、右手で印を作って目を閉じる。おじい様の体から、4色の光が立ち上る。ラーレが目を見開いておじい様を見た。グスタフも驚いていた。
「それぞれの属性が、独立して動いているとでもいうのかよ! 4つとも、別の属性だぞ!」
おじい様がカッと目を見開くと、4つの魔力板の玉が同時に動き出した。そして蛇のように魔力板の中の道に進み、あっという間にゴールした。え? 離れてたのに動くの? それに4つの板はそれぞれ属性が違っているし、ルートも違う。単に魔力を籠めただけでは動かないはずだよ! こんなこと、飛び抜けた魔力制御がないとできないはずだ。
「ふん! これくらいはできるようにならんとな」
おじい様は疲れたような顔をして言う。いやすごい!
「まじか、魔力制御を極めるとこんなこともできるのか! これなら複合魔法だって実現できるんじゃないか!」
グスタフも素直に称賛している。
「おじい様! おじい様のこと、初めて尊敬しました! これなら大道芸で食べていけますよ!」
ラーレとグスタフは、今度は私を驚愕の表情で見つめた。おじい様はしばし唖然としたが、下を向いて怒りに震えだした。
「だまれ!! いいからお前もしっかり練習しなさい!」
おじい様は怒りに肩をいからせながら、ドスドスと足音を立てて出ていった。
「ホント、ダクマーお嬢ちゃんは大物だよな」
グスタフがあきれたようにつぶやいた。え? 私が悪いの? 私悪くないよね?