第131話 ヨルダンとの戦い
ヨルダンは手を上げると、3体の闇魔が前に出てきた。
「小娘ごときが、この俺と戦えると思うなよ。貴様なんぞ、こいつらで十分だ。いや、貴様ごときに3体も必要ないだろうがな」
追加で3体の闇魔か。しかも、さっきの闇魔よりも高い魔力を持っているのを感じる。私を侮っているようだが、でもこれは相手の戦力を削るチャンスだ。
闇魔が突撃してくる。斧を持っているのが1体、槍を持っているのが1体。残りは杖を構えている。ヨルダンは後ろで余裕の表情だ。
近接が2体に後衛が2体か。
「いけ!」
ヨルダンが命令すると、2体の闇魔がそれぞれの獲物を構えて突撃してきた。そのタイミングで、杖を持った闇魔が炎の魔法を放った。
私は剣で炎をはじくと、斧を持った闇魔の一撃を最小限の動きで躱す。その流れのままに斧の闇魔を槍の闇魔の盾になるように回り込んだ。
そして――。
「てやああああああ!」
剣を一閃。斧の闇魔を横に斬り裂いた!
「ああ、あああああ!」
胴を斬り裂かれた闇魔はそのまま倒れた。
槍の闇魔は驚いた様子だが、倒れた闇魔を回り込むと槍をするどく一突きしてきた。
でも遅い! ガスパー先生の槍さばきを見た私にとっては、その一撃がぬるく感じた。
「秘剣! 鷹落とし!」
体をそらして躱すと同時に、右下から左上に剣を斬り上げた!
『鷹落とし』はこういったカウンターにも最適なんだ。槍の闇魔の左脇から右肩にかけて斬り裂く。途中にあった右腕も斬り落としながら振りぬいた!
パキィィンン。
戦場に金属音が響き渡った。
「あ、やば」
私は左手一本で折れた剣を振り抜いて茫然となる。私の剣は、ついに無属性の魔力に耐えられずに半ばで折れてしまったのだ。
「戦場で武器を失うとは不運だな! これで終わりだ!」
大剣を抜いたヨルダンと杖の闇魔が私を襲ってきた。だけどこんな直線的な動き、避けられないわけはない! 私は後ろに下がって何とか回避した。
でもどうしよう。折れた剣で戦えるほど甘い相手じゃないのに。
「ダクマァァァ!」
叫び声を聞いて振り向くと、おじい様が自分の大剣を投擲するところだった。大剣は私の前を通り過ぎ、そのまま地面に刺さった。
あ、あぶない! もう少しで私に当たるところだったじゃん!
でもこれなら!
私は剣に飛びついた。杖の闇魔が魔法で私を攻撃するが、その一撃を躱しながら地面からおじい様の大剣を一気に引き抜いた!
重い。魔鉄でできているであろう剣は、その肉厚から想像できる通り、かなり重量があった。
でもこの武器ならば!
「はあああああああ!」
私は大剣を振りかぶる。杖の闇魔は厚い障壁を作ってガードしようとするが、大剣は障壁を容易く破壊し、そのまま杖の闇魔の胴に深い傷を与えていた。
消えていく杖の闇魔を見て、ヨルダンが驚愕の声を上げた。
「ばかな! 私の精鋭がこうもあっさりと!」
慌てるヨルダンを振り返り、私は余裕の表情で告げた。
「知らないの? 戦場では、一瞬の油断が命取りなんだよ」
不敵に笑う私を、ヨルダンは信じられないものを見るかのような目で見つめてきた。
私は大剣を構える。正直、この大剣はちょっと、いやかなり使いづらいけど、贅沢は言っていられない。
「はあああああ!」
私は大剣を振り回した。ヨルダンの胴を狙った一撃は、しかしアイツの魔力障壁に阻まれてはじき返されてしまう。
ヨルダンは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに立ち直って冷めた目で私を見てきた。
「ふっ、所詮は狼の成りそこない! 私を傷つけられると思うなよ!」
そして頭上に手のひらをかざした。
「ここでくたばるがいい! サクウィール!」
ヨルダンは、手から魔力の塊を生み出した。
ヨルダンが作った魔力の塊は上空で破裂すると、円を描いて全方向に伸びていく!
「いかん! あの魔法は!」
直線なら避けられる。でも、広範囲に伸びるこの攻撃からは逃げることができない!
私はヨルダンの魔法を食らってしまった。
「くっ! これは、闇魔法・・・?」
思わず頭に手を当てて蹲った。
頭が痛くて吐きそうだ。これは、魔法で毒のような異常を与えたとでもいうの!?
「ふはははは! 状態異常の魔法を使えるのが、貴様たちだけだと思うなよ! 毒を食らって死ぬがいい!」
ヨルダンは嬉しそうに笑った。
くっ、毒で体の動きが遅くなる。この毒を何とかしないと!
「お姉さま!」
迫りくる魔物たちのスキをついて、アメリーがヨルダンに魔法を放った。これは、火の高威力魔法・レイだ!
熱線がヨルダンを襲った。
だがヨルダンは障壁を目の前に作って身を守った。
「この程度の魔法、私に通じるわけがないだろう」
ヨルダンが醜く笑った。
でもね。その魔法は、アンタを倒すためにはなったわけじゃない!
「ふぅ」
私はその隙に全身に魔力を展開した。無属性の魔法は、たしかに敵を攻撃する術は持たない。だけど、身体を強化したり、魔法をはじいたりするのには本当に適しているんだ。例えば、今のように体に循環すると、魔法での毒や煙の影響を消し去ることができるのだ。
「アンタの毒、ラーレの煙ほどじゃないね」
私は不敵に笑ってヨルダンを見た。ヨルダンは私が毒を打ち消したことが分かったのだろう。その顔は驚愕に染まっていた。
「ば、ばかな・・・、あの方と同じだと!? なんなんだ! お前はなんなのだ!」
私は剣を構えた。
あいつには生半可な攻撃は通用しない。あいつを倒すには、示巌流のすべてを込めた一撃が必要なんだ!
私は深呼吸すると、ヨルダンを睨みながら上段に構えた。
殺すか、殺されるか。
私の剣がヨルダンに通じるかどうかは分からない。でも、こんなシチュエーションで挑まないなんて、示巌流の剣士じゃない!
「きええええええええええええ!」
私は腹の底から声を出した。叫びをあげてもヨルダンが驚くとは思わない。でも、限界まで声を引き絞ることで自分を鼓舞することができるのだ!
「食らいなさい! 私のすべてを込めた一撃を!」
一瞬でヨルダンの前に踏み込む。そのスピードに、ヨルダンは反応することができない!
大剣を振りかぶった私は、ヨルダンを射程内に捕らえた!
「秘剣!『羆崩し』!」
私は大剣を振り下ろした!
魔鉄でできた大剣はヨルダンの魔力障壁を容易く破壊し、その体を縦に斬り裂いた!
ヨルダンが一歩、二歩と下がる。
そして自分の傷口に手を当てる。そこから血がとめどなく出ていることを察すると、私の顔をもう一度見た。
「ばかな・・・・、狼は滅んだはずだ。こんなことがないように、40年前に入念に殺しつくしたはず。お前は、一体何なのだ」
ヨルダンの体が少しずつ溶けていく。私の一撃は、確実に致命傷を与えていたのだ。
「さてね。でもこれだけは言っておく。狼は滅んでいない。滅ぼせるもんじゃない。確実に進んで、いつかきっと魔王の首を取る」
私の言葉に、ヨルダンは悔しそうな顔をして、そのまま消えていった。