第130話 高位の闇魔
「くっ! わたしだってぇぇぇ!」
アメリーが右手をヨルダンに構えると、赤い魔法陣が浮かぶ。なんかいつもより、複雑な文様が浮かんでいるように見えるけど・・・。
「ドリッテ・スピール!」
魔法陣から生まれた三又の槍がヨルダンを襲う!
アメリーは星持ちだけあって相当の熱量を展開したようだ。かなり離れた場所にいる私にもその熱が感じられるんだけど・・・。
ヨルダンは動かない。避ける必要のないことを知っているのだ。
激突の衝撃音は大きい。炎の槍は、ヨルダンに直撃したように見えたんだけど・・・。
「ふん。無駄なことを」
土煙が起こる中、呆れたような声が響いた。
少しずつ晴れていく土煙の中に、人影が見えた。
そして衝撃の中心にいたヨルダンは無傷だった。
星持ちのアメリーの攻撃は、ヨルダンに傷一つ付けることができなかった。嘲笑するヨルダンを、アメリーは信じられないものを見るかのように目を見開いていた。
「もう一発! レフェクション・シュピーゲル!」
ヨルダンの周りにエレオノーラが作った鏡が出現した。さっき見た範囲内の敵を殲滅する魔法か! しかもヨルダンの属性は火。あの水の魔法なら、ダメージを与えられるはず!
しかし――。
「ロレーヌの秘術か。だが、貴様ごときではその魔法の真価は発揮できぬ」
ヨルダンが左手を上げると、エレオノーラの鏡が一瞬で粉々になった。
「くっ! 一枚くらい壊したところで!」
残りの鏡から水弾が発射され、ヨルダンを襲った。
だけど・・・。
「無駄だ! 子供ごときが私を倒せると思うなよ!」
水弾はヨルダンの魔力障壁を貫けない。死角から発射された魔法も、魔力障壁に当たると簡単に打ち消されてしまっていた。
嘲笑を浮かべるヨルダンだが、エレオノーラの顔を見て急に真顔になった。
「そうか・・・。お前が、彼女が欲しがっていた人物なのだな」
そう言ってエレオノーラのところに一歩踏み出した。
そしてエレオノーラを捕えようと動いたときだった。マリウスが両手を突き出して光魔法を放った!
「させるか! サキューレ・フレーゲン!」
オーガを一撃で消し飛ばした光の球がヨルダンを襲う。
「いいね! 行ける!」
私は勝利を確信した。
だけど、その一撃もヨルダンの余裕を崩せない。
「無駄だ! この程度の光魔法、私に通じると思うなよ!」
ヨルダンが右手をかざすと、マリウスの魔法がかき消された。これでもダメなの!? 高位闇魔の魔力障壁は強いと聞いていたけど、ここまでとは思わなかったよ!
「ヨルダン!」
おじい様が右手をかざして魔法を展開した。
複雑な青い魔法陣は、水魔法の最高峰とされるあの魔法だね!
「エイス・ヌクテェ!」
狼を象った氷の塊が、ヨルダン目掛けて解き放たれた!
「うおおおおおお!」
さすがのヨルダンも、両手をかざしておじい様の魔法を受け止めたようだった。
白い煙があたりに充満する。おじい様のエイス・ヌクテェとヨルダンの魔力障壁がせめぎ合ったのだ。
「消えてしまえええええ!」
おじい様の叫び声があたりに轟いた。
どおおおおおおおおおおおおん!
すさまじい激突音が響いた。爆風と共に、白い煙が沸き起こっていた。
「くっ! これが最上位魔法と魔力障壁のぶつかり合いか! 前が全然見えない!」
ギルベルトが感嘆の声を漏らした。
おじい様の呼吸は荒い。でも会心の一撃だったのか、してやったりの笑みを浮かべていた。
しかし――。
「ば、バカな!?」
そこに現れたのは、平然として服の汚れを払うヨルダンの姿だった。おじい様の魔法も、ヨルダンの魔力障壁を崩すことはできなかったのだ。
高位闇魔の恐ろしさって、やっぱりこの防御力だよね。おじい様は火に強い水の、それも最高位の魔法を使ったのに、ヨルダンの服すら傷つけることができなかったのだ。
ヨルダンは姿勢を戻すと、呆れたような顔でおじい様を見つめていた。
「さて。もう気が済んだかな。狼の成りそこない風情が、私に傷をつけられるとは思わんことだ」
そう言っておじい様を見ると、右手を突き出した。まずい!
ヨルダンの右手から赤い魔法陣が浮かぶ。あれは火の魔法? 炎でおじい様を攻撃しようとでもいうの!?
おじい様は茫然として、動くことができないようだった。
「させるかぁ!」
私は素早くおじい様の前に踏み込むと、ヨルダンの炎を叩き切った。
「なっ! ばかな!?」
私が斬った炎が消えたのを見て、ヨルダンは面食らったようだった。
私はヨルダンに向かって剣を突きつけた。
「さて。魔法の出番は終わったようね。次は私の番だ。私の色のない魔法、アンタに止められると思うなよ」