第13話 ラーレの魔法
おじい様に呼ばれ、ラーレは戸惑ったようだった。
「えっと・・・。私、ですか?」
おじい様は気持ち口調を崩してラーレに応える。
「お前はダクマーと一緒に何かやろうとしていただろう? その成果を見せてみろ」
その言葉に慌てたのがイーダ叔母さんだった。
「お、お待ちください。ラーレは魔力過多で、まだ魔法を暴走させる可能性があります! 彼女が魔法を使うのは無理です!」
でもラーレだって毎日一生懸命訓練している。魔力制御では、誰にも負けないんじゃないかな。火魔法はその、たまに暴走しちゃうことがあるし、そのたびに私とグスタフが慌てて消火してるけど。それでも、最初のころよりはずいぶん暴走しなくなってきた。あれって周りが燃えちゃうだけで、不思議と本人に火傷とかないんだよね。
たとえば風魔法で有名なウィント家の子息は風の素質がレベル5と公言しているそうだが、家のラーレだって負けていない。うちのラーレは火と闇のダブルで魔力過多だぞ! どうだ、すごいだろう!
「私も、魔法が使えない。使っちゃいけないんだって」
悲しそうに言っていたラーレの姿も今は昔だ。私が太鼓判を押す。がんばれ!
おじい様は無言で顎をしゃくると、ラーレに的の前に立つように指示をする。
ラーレは青い顔をして的の前に立った。彼女が扱うのは、短杖を使った新式魔法とは真逆の、祖父母世代が多用する「古式魔法」だ。これは補助具を使わず、自分の力だけで魔力を展開する方法だが、詳細な魔力制御を必要とするから、現在だと使える人が少ないんだよね。
ラーレが魔力を展開すると、黒い靄が彼女を覆った。そして両手を前に突き出す。
「ファ、ファイア!」
彼女の両手から、黒い靄に囲まれた小さな火の玉が現れた。火の玉は的の左下の隅にかろうじて当たる。そして当たった後、黒い靄に包まれてすぐに消えていった。
ラーレの火魔法は、的を少し焦がしただけだった。
でもすごい! ちょっと前までは暴走していたのに、今はちゃんと魔法として成り立っている! それにこれって、闇と火の2属性の連続魔法だよ! 2つの属性を切り替えて使うのは相当難しいはずなのに!
ちなみに私たちは短杖を使えない。おじい様に駄々をこねたらファイアが籠った短杖を持ってきてくれんだけど・・・・。私はどれだけ魔力を込めても発動しなかったし、ラーレなんか、少し魔力を込めただけで杖が燃え尽きてしまった。いきなり燃え出すなんて、びっくりだよ! おじい様のそれ見たことかと言わんばかりの顔にすんごいむかついたのを覚えてる。今思い出しても悔しい!
でもすごいと思ったのは私だけだったようだ。
「も、申し訳ありません! 闇の魔法を使うなんて、王国貴族として恥ずべきことです! もう11歳にもなったのに、闇魔法に頼るなんて。ビューロウ家の娘としてあまりにも不出来で・・・」
叔母のイーダが必死で言い訳をしていた。
「いい加減にしなさい!」
おじい様の一括する声が響いた。その場にいた全員が首をすくめた。
「イーダ! お前はいつまで闇魔法にこだわっておるのだ! 属性に上下関係などない! 素質があることは素晴らしいことなのだぞ! 特定の属性を貶めるなんぞ、それに資質がある者すべてを貶めておるのが分からんのか!」
おじい様が怒るのも分かる。イーダ伯母さんは過剰に闇属性の魔法を嫌っているんだよね。なんか、闇属性の資質を持っていることで学園で責められたとかで、ラーレやホルストが闇魔法を使うことにいい顔をしないんだ。
おじい様の説教は孫たちにも及んだ。
「ホルスト、デニス、アメリー。お前たちの魔法は一見作動しているように見えるが、実戦的ではない。もっと魔力制御を覚えるのだ! それに貴族なら、短杖ではなく、長杖を使いなさい! あれは扱いは難しいが、使いこなせばかなりの力になる。今はいいが、学園に行ったら実戦的な魔法をしっかり学びなさい」
長杖といわれてもね。長杖は短杖と違って簡単に魔法を使えるような効果はなく、かえって魔術構築が難しくなるらしい。けど、魔法の威力は大きくなるし、属性を強化する効果もある。射程や範囲を広げることもできる、優れた武器らしいのだ。まあ、扱いが難しいから、今ではほとんどの人が使ってないんだけどね。
両親や叔父夫婦だけでなく、ラーレもデニスもアメリーも、ホルストまでもが下を向いている。おじい様は荒い息を吐くと、肩をいからせて道場を出ていった。
あれ? 私は? 私、まだ魔法見せてないけど!?
「どうやらおじい様に褒めていただくことはできなかったみたいですわね。やはりおじい様世代には、新式魔法は好まれないのかしら」
アメリーが残念そうにそう話しかけてきた。あの爺、なんか怒って出ていったからね。まあ、叔母の言い分はともかく、みんな魔法が使えてすごいと思うんだけどなぁ。
「私なんか魔法すら見られなかったしね」
私がそうつぶやくと、アメリーは口に手を当てて驚き、慰めるかのように声をかけてきた。
「あ、おじい様はラーレお姉さまのことで頭がいっぱいになったのですよ。決してお姉さまを無視したわけじゃないですから」
「それって、私のことはどうでもよかったってことだよね」
私がそう言うと、アメリーは必死で慰めてくれた。まあ、私を指名されてもできることなんてないんだけどね。くっ、悔しくなんか、ないんだからね!