第127話 エレオノーラ VS アメリー
「はああああああ!」
エレオノーラの護衛にぶつかるのは、アメリーの護衛であるグレーテだ。30代の女性ながら、なかなか鋭い動きをしている。今までこの国全土を旅してまわったらしく、この領では珍しいクルーゲ流を習得しているんだよね。
「護衛に選ばれる人って、クルーゲ流が多いよね。やっぱり盾を使うからかな」
「そうだね。私の護衛もクルーゲ流を学んでいるし、盾がある分、安定感があるよ。守りが堅ければ、魔法を撃つスキも作りやすいし。まあ私は今まで攻撃が全然できなかったんだけどね」
私のつぶやきに答えてくれたのはマリウスだった。彼もこれまでは攻撃魔法の話題になると沈黙することが多かったんだけど、今は積極的に発言するようになっている。自分も攻撃魔法が使えるようになって、どうやら自信ができたらしい。
今日は、エレオノーラとアメリーたちが模擬戦を行うことになった。2人ともどちらかと言うと魔法使いタイプで、護衛の構成も似ている。今回は貴族と護衛3人の編成だ。ちなみにグレーテ以外は、エラとミリが付いている。4対4の模擬戦は、アメリーにとってはいい経験になるに違いない。
「くらいなさい! ファイア!」
エレオノーラが炎の魔法を放った。
1回の魔法で3発の炎を生み出した。これがロレーヌ家の技の一つ、ザウバー・フォーセッゼンだ。一度の詠唱で複数の魔法を発動させることができるという強力な奥義だ。
「くっ」
アメリーも護衛たちも何とか避けた。
だめだよ! その魔法は護衛とアメリーを引き離すためのものだ!
エレオノーラの護衛が一瞬でアメリーに近づく。慌ててグレーテがアメリーをかばおうとするが、間に合わない。
「これで!」
アメリーは腰の木刀に手をかけけ、一瞬で抜き放った! 居合切りだ!
だが護衛は一歩下がってその一撃を回避し、アメリーののど元に剣を突きつけた。
「・・・、降参です」
アメリーは悔しそうだ。エレオノーラが連続で放った魔法は規模は小さいけど威力は高い。あれを撃たれたときに護衛と分断されてしまったら、勝ち目はないのだろう。
「また負けてしまいました」
アメリーは落ち込んでいる。エレオノーラはそれを見て慌てて慰めた。
「ほ、ほら。私たちは学園で戦闘技術を学んでいるからね。その分、いろんなことを学んでいるのよ」
慌てて慰めるエレオノーラに、私は全力で追従した。
「まあ最後の居合はちょっとうかつだったと思うよ。居合って、すごく迅速に斬れるけど、その分隙も大きいからね。使うなら確実に当てられるタイミングにしないと」
私がアドバイスを伝えると、アメリーはますます落ち込んだようだった。その様子を見て、エレオノーラはキッと私を睨んだ。なぜだ。
「アメリーちゃんは来年から学園に通うんでしょう? その時に学べば大丈夫よ。私たちがやったことくらいなら、きっとすぐに習得できますわ」
しかしアメリーの落ち込みは止まらない。
「でも、お姉さまと模擬戦をしたら、4人がかりでもあっさりと負けてしまうんです。おじい様から護衛を借りてもダメでした。せっかく覚えた居合も一度も当たったことがありません。他の人には当たったっりしているんですけど」
しゅんとするアメリーを見て、またエレオノーラが睨んでくる。だからなんで!
「ダクマーは本当に特殊な例ですわ。あれに対応できる学生なんていないんじゃない? クルーゲ流の跡取りもあっさり倒してしまいましたし。あれを基準に考えてはいけませんわ」
あれって・・・。
エレオノーラ、さっきからひどくない? 私が憮然とした表情をすると、ギルベルトが笑いだした。
「ははは。まあダクマーさんは近接戦闘になったら学園一だろう。警戒するに越したことはないけど、彼女を基準に考えるのは間違っている気がするね」
私を基準に考えるなって、ギルベルトもひどくない? でもそんな私を私を意外な人が援護してくれた。ちょっと離れた場所で模擬戦を見ていたおじい様だ。
「いえ、学園にはまだ見ぬ達人がいるのです。特に力があると聞いているのは一つ上の学年ですね。私も見たことがあるのですが、メレンドルフ家の嫡男は素晴らしい槍を使います。そしてクルーゲの嫡男に勝ったようですが、聞く限り、彼はクルーゲの強みを理解していたとは思えません。クルーゲはむしろ分家のほうに力を持つ者がいます。ダクマーなんぞ、まだまだですよ」
ん? 援護されたの? むしろけなされてない? まあフリッツは正直期待はずれだったけどね。
「当主様から見て、クルーゲは強いのですか?」
ギルベルトの問いに、おじい様は頷いた。
「ええ。魔法使いと組むのに、クルーゲ以上に適した戦士はいないでしょう。敵を引き付け、足止めすることをあの流派ほど極めた流派は他にありません。我が家は、どちらかと言うと剣で仕留めることを第一としていますから。まあ、私はそれを使える剣士を育てることができなかったのですけどね」
おじい様は自嘲気味に話した。まあ、正直うちで父親世代に戦ってみたい剣士はいないからね。
ちょっと気まずい沈黙が流れるが、私は努めて明るく振舞った。
「でも今日は、強かった狼が眠る場所にいくんでしょ?」
私の言葉に反応したのはマリウスだ。
「たしか、屋敷の裏にある山肌に、かつて活躍した戦士たちをたたえる石碑があるのですよね。私の祖父も一度参りたいと言っていました。私が献花することで、少しでも彼らの魂を慰められればいいのですが」
おじい様は涙目になりながら、黙ってマリウスに一礼した。
なんか、おじい様って最近涙もろくなってない? 3人が尋ねてきて以降、泣き顔を何度も見ている気がするよ。