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転生少女は色のない魔法で無双する  作者: 小谷草
第3章 色のない魔法使いと闇魔の炎渡り
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第125話 マリウスの欠点

「バルトルド様、ビューロウ家の秘術、たしかに拝見させていただきました。すばらしい、いえ、すさまじい魔法です。魔犬は鋭い嗅覚があだになるでしょうし、闇魔の動きを止めるにも十分でしょう。動きさえ止めてしまえば、あとは思いのまま、ですね」


 エレオノーラがおじい様に悪い笑みを浮かべながら言った。


「あれは現代の魔法とは一線を画すものですが、効果的な術になったと自負しております。もちろん、欠点もあります。巨大な魔力と杖なしでも発現可能なくらい詳細な術制御、そして炎と闇への高い適性がなければ扱うことは難しい。私の知る限りでも、この術を使えそうな人物は他に思い当たりません」

「くそっ、僕も魔法を見てほしかったんだけど、あんなすごい魔法を見てもらった後だと恥ずかしくて見せられない!」


 ギルベルトは悔しそうに言う。え? あれってそんなにすごいの? 私にはおじい様がラーレに合う魔法を授けただけって思ってたけど。あっさり倒せると言っても対象は私だし。すこし時間をもらえたら、無属性魔法を使って効果をかき消すこともできる。まあ戦闘中は、そんなことしている暇はないんだけどね。


「王国の魔法使いはまだまだ侮れない者が多いです。例えば戦地では今、土魔法の名手・バルナバス様が戦果を挙げておるとか。彼は他の魔法使いと協力することで、外でも地脈と同じように魔法を使えると聞いております。各家の秘術には侮れぬものが多いのです」


 叔父夫婦からの情報だろうか。おじい様は戦地の魔法使いについていろんな情報を知っているようだ。エレオノーラたちも感心した様子で話を聞いている。


「しかしラーレ先輩の魔法はやはり素晴らしいです。現代の魔法は威力ばかり評価されるけど、実際戦場で役に立つのはああいった魔法なのだと思う。私は攻撃魔法が苦手だから、ちょっとうらやましくはあるな」


 マリウスがちょっと寂しそうに言った。それを見ておじい様は驚いた様子だった。


「失礼ながら、マリウス様は攻撃魔法が得意ではないのですか?」


 おじい様の問いに、マリウスが少しバツが悪そうな顔をした。


「はい。私は光魔法こそ使えますが、魔法をうまく飛ばすことができないのです。回復はできるのですが、戦闘になると不足していて。バルトルド様の著書にあった外魔法が使えない者なのです」


 おじい様は驚いたような顔をする。マリウスが続ける。


「実は、今回ビューロウをお訪ねしたのは、そのことを相談したかったこともあるのです。『魔術構成の仕組み』を書かれたバルトルド様なら、私の症状を治す手があるのではないかと」

 

 真剣な顔で言い募るマリウスに、しかしおじい様は「少々お待ちください」と慌てて食堂を出ていった。あっという間の出来事で、思わず私は隣のエレオノーラと顔を見合わせた。


「どうしたんだろうね」


 マリウスは少し心配そうな表情だ。


「私が攻撃魔法が使えないと知って失望されたのかもしれない」


 でもあのおじい様が、そんなことで人を嫌ったりしないと思うけどなあ。



◆◆◆◆


 5分ほど経過すると、おじい様がどすどすと足音を立てながら戻ってきた。その手には、古びた巻物が握られている。


「す、すみません。お待たせしました。これは、先代聖女と懇意にしていた私の兄の手記から編纂した光魔法についてまとめたものです。先代聖女はご存じの通り、40年前の戦いで強力な光魔法で闇魔を多数葬っていました。本来なら、光魔法について記された兄の手記はヘリング家の当主様に返すのが筋なのですが、当主様から直々にお許しをいただけて、当家に手記をそのままお返しいただくことになったのです。可能ならば、私に先代聖女様の秘術を再現させてほしいと。その研究成果をまとめたものがこちらになります」


 おじい様はマリウスに巻物を渡した。マリウスは震える手で巻物を受け取ると、「少し拝見させていただきます」と言って中身を確認する。


 真剣な表情で、マリウスは巻物をめくる。その顔は最初驚愕を浮かべていたが、次第に真剣に読み進めていく。時折指が魔法陣を描くように動いていた。ぶつぶつと何かつぶやき出して、正直ちょっと怖い。


「光魔法はすべてを凌駕する・・・。しかし、あえて穴を作ることで、他の属性の特性を混ぜることができるのですね! これを使えば、私でも攻撃魔法が使えるということですか!」


 マリウスは興奮した様子だった。いつも冷静な顔をしているから、その変わりように目を見開いてしまう。


「これを実現するには、ある程度の風の資質が必要になります。マリウス様には風魔法の資質はありますか? レベル1でもいい。なければ火でもいいのですが・・・」


 その問いに答えたのはギルベルトだった。


「僕とマリウスが会ったのは風の魔法の授業なんです。マリウスが風魔法を使えるのは間違いないですよ!」


 その言葉を聞いておじい様は微笑んだ。


「では、おそらくこの方法で何とかなるはずです。まず、風を受容できる魔法を光で作る。その上で、風の魔法でこれをはじき飛ばすのです。この方法なら、外魔法を使わなくても遠距離攻撃を実現できるはずです」


 光魔法を風魔法で吹き飛ばすのかぁ。たしか、風魔法には至近距離から相手を吹き飛ばすだけの魔法もあるよね。基本的に光魔法は魔法を全部かき消したりするんだけど、あえて風魔法が通じるものを作ることで遠距離魔法を実現しようというのか。


 マリウスは、あたりを見渡しながらそわそわし始めた。おじい様はちょっと困ったように微笑みながら、マリウスに伝えた。


「よろしければ、当家の書斎や道場をお使いください。ヘリング家には及ばないかもしれませんが、魔法の練習はできるかと思います。少しでもご当主様の恩に報いることができるといいのですが」



◆◆◆◆


 夕食が終わると、マリウスはすぐに書斎に引きこもった。何やら興奮した様子で、彼の護衛も戸惑っていた様子だ。


 その間、私やエレオノーラは、居間でギルベルトがおじい様に色々質問しているのを眺めていた。専門的な話ばかりで私には何が何だかわからなかったけど、ギルベルトがとても満足そうにしていたのが印象的だった。


「なるほど。私が風魔法を使えるけど、魔力に見合う威力がでないのは、そういう理由なのですね」

「はい。ギルベルト様はレベル5の素質をお持ちだと聞いております。そのあなたが現代魔法で高威力を出すのが難しいのは当然なのです。なにしろ、現代魔法はほとんどがレベル4の魔法使いが高威力を出せるように調整されているのですから。レベル1から3の魔法使いにとってもそれで十分力を発揮できるでしょう。しかしレベル5以上になると、魔力に見合った魔法を開発しないと、その素質を生かすことはできないでしょう」


 ギルベルトはしきりに頷いている。そんな彼を、おじい様は微笑ましいものを見るかのように眺めていた。


 ギルベルトは「ああ、そうか」「いやこれは違うか」などとぶつぶつ言いながら、ノートにメモをしていた。


「私でよろしければ、ギルベルト様が独自の魔法を開発するお手伝いをさせていただきたい。私は老いぼれですが、魔法の知識はそれなりにあるはずです。ぜひ、独自の魔法を作るのに協力させてください」


 おじい様が頭を下げると、ギルベルトは感動した様子だった。


「とんでもありません。バルトルド様は現代を代表する魔術師です! そんなあなたに魔法開発を手伝ってもらえるなんて、感動しかありません! 私からお願いしたいことです。ぜひお願いします!」


 ギルベルトは涙を浮かべながら叫んでいた。私とエレオノーラはドン引きだ。見てはいけないものを見るかのように、遠巻きに眺めていた。


「エ、エレオノーラ。ちょっと、私の部屋にいってみない?」

「ええ、そうね。お二人の邪魔をしちゃ悪いし、ちょっとお邪魔させてもらおうかな」


 私とエレオノーラはこの場から逃げ出すことを選択したのだった。

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