第12話 修行の進捗状況
修行を始めて数か月たったころだった。ある日のこと、私たち一家は、屋敷の外にある道場に集められた。隣には、両親だけでなく叔父一家もいる。叔母さんとは1ヵ月に1、2回は会ってるから、久しぶりって感じはしないんだけどね。
道場の前方に正座ったおじい様が声をかけてくる。
「今日は孫たちの魔法を見せてもらう。この的に自分の得意な魔法を当てるのだ。お前たちの日ごろの訓練の成果を見せてみなさい」
おじい様は両親と叔父叔母の顔をひと睨みした。うちは私が全然魔法が使えないからね。叔父たちの方でも、ラーレが足を引っ張っているのは間違いない。ラーレの顔をちらりと見る。彼女は顔を青くしていた。
道場に的が用意される。あの的の中心部に、魔力を放てというのだろう。
「おじい様! 私の魔法を見てください!」
自信満々にそう言ったのはホルストだ。
おじい様は頷くと、的から10歩ほど離れた位置に立つよう指示する。
ホルストは短杖を構えて魔力を集中させる。青の魔力が短杖に収束するのが分かった。ホルストは領内でいろんな人に評価されるだけあって、短杖の使い方はうまい。
そしてこの魔法は!
「ハイドロプレッシャー!!」
杖の前に魔法陣が浮かぶ。あたりから水が集まると、一箇所に集まり、そしてレーザーのように尾を引いて的の真ん中目掛けて撃ち出された!
水の線は、的のど真ん中を撃ち抜いた。
「すごい! ハイドロプレッシャーは短杖があっても簡単な魔法ではないのに!」
アメリーが思わず叫ぶ。悔しいが、ハイドロプレッシャーは魔法使いでも使える者の少ない高等魔法だ。詳しくは知らないけど、ホルストの水魔法はレベル3か、もしかしたらレベル4に達しているのかもしれない。普段威張っているだけあって、ホルストの資質は本物だ。
20年ほど前に登場した短杖は魔法の構築を補助する効果がある。中に魔法陣が刻まれているので、属性魔術を籠めただけで複雑な魔法も簡単に発動できるようになるらしいのだ。短杖を使った魔法は「新式魔法」と呼ばれ、私たちの父親世代からしきりに使われるようになったんだよね。
でも短杖を使うにはコツが必要みたいで、難易度が高い魔法だと短杖を使っても魔法を使えないことも少なくない。本人と杖との相性もあるらしいからね。
ハイドロプレッシャーは難易度が高い。それこそ、短杖を使っても全く展開できない魔術師も大勢いるくらいだ。
ホルストは得意げに鼻を鳴らしたが、おじい様は無言だ。表情は読めない。
その様子を見ていきり立ったのが、兄のデニスだ。
「おじい様! 私の魔法を見てください!」
そう言って的の前に立つと、ホルストと同じように短杖を使って土の魔法陣を展開する。さすがにハイドロプレッシャークラスの魔法は使えないようだが、複雑な魔法陣を展開しているのが見えた。あれは、杖の威力をさらに高めるための魔法陣だね!
デニスは土の魔力を杖に集中させる。
「クラッククロー!」
的の周りの地面が黄色に光る。そして土の爪が伸びて的の真ん中を射抜いた!
「あの魔法、覚えておかないとまずい。床から爪が伸びるなんて、ちゃんと理解しておかないと避けられないよ」
正直、直線的なハイドロプレッシャーよりも避けるのは難しいかもしれない。5人の孫の中で土魔法が上手いのは兄だけだから、この機会にちゃんと覚えておかないと。
でも悔しいけど、兄もいい魔法を使うなぁ。周りの評価が高いのも頷けるよ。この訓練で、兄もかなりの魔法が使えることを証明して見せたのだ。
その様子を見て立ち上がったのがアメリーだ。
「私も戦えます!」
そう言って、彼女は短杖を使って火の魔法を展開した。
この魔法、知ってる! ホルストと同系統の、あの魔法だね!
「レイ!」
杖から細い線が一直線に的に向かって伸びていく。的の中心は外したものの、その隣に穴をあけていた。火魔法のレイはレーザーのように炎を収束させて飛ばす魔法で、ハイドロプレッシャーと同じくらい難しいとされている。ホルストよりも2歳も年下なのに、簡単に実現させるなんて! さすが私の妹!
おじい様は彼らの魔法を見たものの、無表情で下を向いた。そして私たちを睨むと、冷たい声でつぶやいた。
「どいつもこいつも、カールハインツの真似事ばかりだな。しかも、長杖ではなく短杖を使うとは」
カールハインツは、おじい様の少し上の世代の有名な魔法使いだ。彼は短杖の開発者であり、ホルストが使った「ハイドロプレッシャー」やアメリーの「レイ」と言った魔法を作り出し、多くの闇魔を討ったとされている。どれもとてもきれいな魔法で、敵をスマートに倒せると思うんだけど・・・。
おじい様は苦虫を嚙み潰したような顔でデニスたちを見た。
そして溜息を吐くと。ラーレに向き直った。
「ラーレ。お前の魔法も見せてみろ」
ついに、私と同じ落ちこぼれのラーレの名前が呼ばれたのだった。