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転生少女は色のない魔法で無双する  作者: 小谷草
第3章 色のない魔法使いと闇魔の炎渡り
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第115話 王太子の息子・ライムント

拙作を読んでいただき、ありがとうございます。

ここから第3章になります。

よろしくお願いいたします。

 北東の海は、闇魔が乗る小舟でいっぱいになったそうだ。海一面にボートが浮かび、その一隻一隻に闇魔と魔物が乗っていた。北の貴族はすぐに迎撃したが、戦果は思わしくなかったらしい。


 奮戦しているのが、槍のメレンドルフ家だ。うちの担任のガスパー先生の実家で、その槍さばきで多くの闇魔を打ち取っていると聞いている。


「家からは最初、おじい様が出陣する予定だったみたいだったけど、うちの両親が説得してかわりに打って出ることになったみたいよ。なんか、おじい様を危険には晒せらせないって意気込んでるんだって。無事に帰ってこられればいいんだけど」


 ラーレが教えてくれた。なんでも領地の人たちはラーレも呼ぼうとしたらしいが、おじい様が「学生の本分は勉強じゃ」と言って拒否したらしい。叔父夫婦も強固に反対したらしいからね。おかげで彼女は、卒業まで学園に通うことになっている。


 戦いが始まって、西の貴族のなかは「東と北だけ戦果を持っていくのか」と憤っている人もいるみたいだけど、そんな甘いもんじゃないよね。事実、1ヵ月にも満たないうちに当主が戦死してしまった貴族家もあるみたいだし。


 基本的に闇魔は強い。1体当たり100人の戦士が必要と言われてるから、北と東だけでは支えきれないだろう。他の地域の貴族にも、出撃命令が出たと言われている。


 闇魔との戦いは、いわば壮大な陣取り合戦だ。町には地脈があって、それを制御するための結界を王族が作った。その中に入ると、闇魔やモンスターの行動は阻害されてしまう。でも、地脈が奪われて闇魔に染められてしまうと、今度は私たち人間の生存が脅かされてしまうのだ。


 闇魔がこっちの地脈を奪うにはかなりの時間が掛かる。闇魔が不利なんだけど、相手はこの手の戦いに慣れている。何しろ奴らは、北の大陸に有った帝国を滅ぼしているからね。


 争いが激化しているのとは対照的に、学園は静かなものだ。これは王家が、私たち学生を保護してくれているからだ。学園のコンセプトにもあるとり、王家は全力で次代を担うものを保護し、育成してくれている。第二王子なんかは、自ら軍を率いて闇魔を討伐しにいったほどだ。


 東と西の争いも少なくなっている。本来なら戦いに巻き込まれた東の貴族を西の貴族がこれ幸いと攻撃してきそうなものだけど、誰かさんが1年生とはいえ西のリーダー格の学生をぶちのめしたからね。フリッツ本人もその取り巻きも大人しくなって、私を見たらこそこそと逃げていくのを見かけた。


 授業でフリッツに話しかけることもあったが、私を見る目が完全におびえていた。話しかけた手が震えていて、完全にトラウマになったようだ。まあ、あいつが喧嘩を売った結果だからしょうがないよね。闘技場の職員も私にボロボロの武器しか渡さなかったことがばれて大量に処罰されたそうだし。


「でもやっぱり光魔法ってすごいよね。歯とかボロボロにしたのに回復しちゃうなんて。まあ腕とかちぎれたり失明したり魔では治せないみたいだけど」


 実はあの後、クルーゲ家の当主様から手紙が来たんだ。手紙には決闘に対する謝罪と、フリッツを殺さなかったことへの感謝の気持ちが記されていた。私はどう答えていいか分からなくて、ひたすらゲラルト先生の技をほめたんだ。


 そしたらなんかゲラルト先生をほめる言葉が返ってきたんだよね。なんか、ゲラルト先生をこの学園の教師に推薦したのはクルーゲの当主様だったらしい。ゲラルト先生に平民や下級貴族を鍛えさせて王国全体の戦力向上を図ったみたいなのだ。


「ご当主様は観察眼が優れてるみたいなのに、その息子があれじゃあなぁ」


 どうやら、クルーゲの当主様はフリッツにゲラルト先生のことを見習ってほしいと思っていたようだ。まあ、あんなにすんごい技術がある人だからね。でも、フリッツは爵位ばかり見てゲラルト先生の腕をロクに見なかった。当主はすごい人みたいなのに、ままならないもんだよね。



◆◆◆◆


 その日の1限目は座学で、私たちのクラスはガスパー先生から指揮の取り方について学んでいた。この授業には各々の護衛も来ていて、コルドゥラが真剣な顔で参加している。


 私たち貴族家は、実際に兵を率いて戦うことになりそうだから、この授業はしっかり聞いておかなければいけない。戦端が開かれたこともあって、みんな真剣に話を聞いていた。


「護衛の顔ぶりが結構変わりましたわね。ほら、あのテオ様の護衛がマルコ様に変わったわ。マルコ様はこの学校の卒業生で、土の魔法を学んだそうなんですが、戦いが始まってテオ様の護衛として戻ってきたみたいよ」


 マーヤさんが私に耳打ちしてきた。えっと、卒業生が護衛になることって戦いとなんか関係あるんだっけ?


「基本的に、貴族は護衛にはならないんだけど、戦いが始まると別なの。王家からの命令でほとんどの貴族は闇魔との戦いに参加する義務があるんだけど、家によっては人を出したくないこともあるでしょ? そういうときは、在校生の護衛にすることで、出征を逃れられるらしいのよ。実際に、学生が闇魔に襲われることが増えるからこその処置らしいんだけど、貴族の一部は義務を逃れるために護衛をしているのね。まあ、その場合は後継から外されることが多いし、護衛はつかないらしいんだけどね」


 そんな事情もあるのか。まあ、護衛の護衛ってへんだからね。


 もうすぐ夏休みなんだけど、浮かれている生徒はほとんどいない。学園の雰囲気も全体的に暗くなって、ちょっと嫌な感じがするんだよなぁ。ラーレも口数が少なくなっちゃったしね。



◆◆◆◆


「お前がダクマーだな。単刀直入に言う。オレに従え。そうすればお前の家の復興に力を貸してやる。ロレーヌ公爵家なんぞ頼りにならんだろう? オレに着けば将来は安泰だぞ」


 専門授業に移動するタイミングで、いきなり声を掛けられた。上級クラスに在籍する王太子の息子、ライムントだ。たくさん取り巻きを引き連れていて、その中にひときわ目立つ金髪のイケメンがいるのが印象的だった。


 この中にデニスの姿はない。あの決闘以降、なんかライムントから疎まれることが増えたらしい。ちょっと世知辛いよね。まあ本人は側近を外されて喜んでるみたいだけど。北の生徒と頻繁にやり取りする姿も見かけるしね。


「すみません、勧誘なら間に合っております」


 私はサクッと断って午後の授業に出ようと思ったが、取り巻きの一人が私の進路を塞いだ。


 めんどくさい。私は早く授業に出たいのに。


「貴様! ライムント様に声を掛けられるなんて名誉なことなのだぞ! 失礼な奴め!」


 立ちふさがる男たちを静かに睨みつけた。取り巻きたちは私の眼光にたじろいだようで、体をのけぞらして下がった。一応私の実力と戦意は伝わっているはずだから、怯えるのは仕方ないかもしれない。逃げ出さないのは見事なのかもしれないけどね。


 あの金髪のイケメンも、余裕の表情で見ている。


「私がわざわざ話してやっているんだ。もっと喜んだらどうだ? 私が後ろ盾になればビューロウ家の後継は決まったようなものだぞ! お前は黙って私についてくればいいんだ」


 ライムントはそう言うが、ついこないだまで兄のデニスを取り巻きにしていたよね? エレオノーラが言っていたけど、兄のデニスは一生懸命この人に仕えていたと聞いたよ。実際に、ライムントがデニスを顎で使う姿も見た。もう兄を支援しないってこと?


「ライムント様は、兄デニスを支援していると聞いています。今の時点で支援先を変更するのは無理があるのでは?」


 ライムントは私の言葉を鼻で笑った。


「ふん! ビューロウ家の男なのに剣をろくに使えないあの男を、私が活用するわけがないだろう。私に意見など、生意気なことも増えてきたしな。お前は見所がある。これからはエレオノーラの取り巻きなどやめて、私に従え!」


 うわっ、何だコイツ。散々いいようにデニスを使っておいて、都合が悪くなったらポイか!


 私は内心のドン引きを押し隠し、丁寧に断りを入れた。


「申し訳ありません。私はエレオノーラ様にお世話になっておりますので、私の力が必要でしたらエレオノーラ様にご相談ください」


 必殺、エレオノーラシールド!


 こういうときは事前にこういえばいいってエレオノーラから聞いてるんだよね。王家でも公爵家は無視できないはず!


「エレオノーラは私の婚約者候補だ。その私の言うことが聞けないのか!」


 でも知ってるよ。アンタ、エレオノーラのことないがしろにしてるよね。私は参加してないけど、学園内のパーティーでもエスコートしないみたいだし。


「ええ。仲がよろしいのでしたらエレオノーラ様から協力するようお伝えください。東の貴族は、主家であるロレーヌ公爵家に従いますから」


 暗に、命令されても従わないと伝えた。ライムントは苦々しいような表情で私を睨んできた。


「貴様! たかが子爵の分際で、私に逆らうのか!」


 むしろライムント自身は何もしていないのに、なんで従うと思うのか。入学した当初から目をかけてもらったなら一考の余地はあるのかもしれないが、ライムントはこれまで私に一瞥もくれていなかった。兄のデニスを平然と捨てるという態度を取ったのも気に入らない。


「それでは授業がありますので失礼します」


 私がそう言って踵を返すと、取り巻きの一人が進路を塞いだ。私は無表情でその男を睨む。


「どけ」


 私が吐き捨てるように言うと、その眼光におびえたのか、慌てて進路を開けた。ふん、口ほどにもない。


 だがその時、多分護衛のあのイケメンが私の前に立つ。年のころは20代半ばくらいだろうか。剣に手をかけて、私を睨んでいる。やるつもりか!


 私たちはにらみ合った。コイツ、少しはできるようだけど、グスタフほど強くないな。戦えば確実に勝てるだろう。


「ライムント様、教授がお呼びです。職員室迄お急ぎください」


 一触即発の空気をぶち破って話しかけてきたのは、もう一人の取り巻きだった。金髪で制服を折り目正しく来ている印象がある。確かこの人、デニスの友達のフーゴだよね。一度一緒に戦ったことがあるし、デニスと楽しそうに会話してるのを見たことがある。


 ライムントは舌打ちすると、その身をひるがえした。


「フーゴ、いいところなのに邪魔しおって。行くぞ!」


 取り巻きたちは慌ててライムントを追った。あの金髪の男は余裕の笑みで私を見た後、そのままライムントを追った。


「なんだあいつ。なんのようだったんだろ? まあいいか」


 私は何事もなかったように、次の教室へと急いだ。

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