第114話 男は戦う。その誇りを掛けて ???視点
「第一陣! 出発しました! 目指すはズィッターデルの要塞です! あそこを拠点に、人間どもを根絶やしにしてやりましょう!」
部下の報告に、静かにうなずいた。
聖女の結界が破壊されると同時に攻勢に出た。
ゴブリンやオーガと言った魔物を召喚し、それを率いて町を襲う。
海上での戦いに対処するためにサハギンやリザードマンも用意した。剽悍な北の民とはいえ、うまくすれば大打撃を与えられるはずだ。
「フォッフォッフォ。私らも空から行かせてもらいましょうぞ。貴族どもを打ち取れば、敵は烏合の衆。奴らの魔法なしに、我らの魔力障壁は貫けませんのでな」
モーリッツが笑いながら一礼すると、そのまま去っていく。おそらく空を飛べる魔物を率いて出陣しようとするのだろう。
「レイン・・・・」
ファニが心配そうに私を見る。私は彼女に頷きかけると、周りの部下に指示を出した。
「40年ぶりの攻勢だ! ものども、掛かれ! 北の地を、我らの手で赤く染め上げるのだ!」
歓声が起こる。そして多くの戦士たちが武器を手に広間を出ていった。そのあとを数えきれないくらい多くの魔物がついていった。
私は人が少なくなった広間で思わずため息を吐いた。
こうするしかなかった。こうするほかに、私らにできることはないのだ。
そんな私に、2人の男が声をかけてきた。
「閣下。ついに、例の魔道具が完成しました。どうぞ、ご覧ください」
赤い髪を逆立てた男が一礼してきた。
「ほう。これは?」
私が上目使いに尋ねると、男――ナターナエルは腕くらいの大きさの錫杖を持ち、暗い笑みで答えてくれた。
「この錫杖は、我らの炎渡りを援護する効果があります。一度しか使えませぬが、これを使えば結界を無視して地脈を渡ることができるのです」
炎の術者には”炎渡り”という技を使える者がいる。自らの体を炎と化すことで、地脈から地脈を瞬時に渡ることができるのだ。もっとも、人間には行えず我らにしかできない技術ではあるけれども。
「あの男の魂を手にできればもっと早く実現できたでしょうが、私共にはこれが精一杯でした。これを使って一度渡れば、奴らの結界内です。我らの動きはかなり制限されるでしょう。ですが、これを使えば王国の要人を確実に葬ることができるやもしれませぬ」
私はナターナエルを見上げた。
「お前が命がけで飛ぶというのか? だがここから王都まではかなりの距離があるぞ」
私が聞くと、ナターナエルは首を振る。
「さすがに王都まで飛ぶことはできません。私なら可能でしょうが、かなりの時間が必要ですし、飛べるものも私の側近のごく一部でしょう。王国の貴族どもを、確実に仕留められるタイミングを見計らう必要があるのです」
ふむ・・・。私は思わず顎を手でこする。王族が地脈に近づくタイミングなど分かるのか? なんとか国王や王太子を仕留めるタイミングが分かればいいのだが・・・。
私が悩んでいると、もう一人の男――ナターナエルの側近のヨルダンが一礼して声をかけてきた。
「王都まで飛ぶのはかなり難しいと思いますが、北領や東領なら・・・、私でも行けるかもしれません。東領に次代の貴族が集まる、という情報もあるのです」
「ほう。次代の貴族が、か」
興味を引かれて訪ねると、ヨルダンはニヤリと笑って続ける。
「はい。うわさでは、ビューロウの狼が復活し、そのことを祝うために、ビューロウ領にかなりの高位貴族が集まるそうなのです。ナターナエル様が行くのは危険ですが、私程度でしたら・・・。さすがに館に直接乗り込むことはできませんが、近くの町にわたり、そこからビューロウの当主ごと葬ることも難しくありません」
ビューロウの狼、と聞いてわずかに胸がうずいた。遠い昔にあったあの男のことを思い出す。あの頃は、自分もあいつも若かった。決して忘れ得ぬ、すべてが輝いていたあの懐かしき日々が胸を過り、ほんの少し虚無感を覚えた。
もう決してあの頃には戻れないことを、私自身が理解している。
こうして、真剣に王国を滅ぼすことを考える程度には、考えが変わってしまっているのだ。
ヨルダンの言葉に苦い顔で頷いた。
「よかろう! やってみるがよい! うまくすれば王国の力を大きく削ぐことができる! 仮に失敗しても・・・。吉報を待っているぞ!」
私の言葉に、ヨルダンとナターナエルは深く首を垂れた。
拙作を読んでいただき、ありがとうございます。
この話で2章は終わりになります。