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転生少女は色のない魔法で無双する  作者: 小谷草
第2章 色のない魔法使いは学園で学びを深める
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第113話 東の喜び

「皆様、今日はよくお越しいただきました。今日は、晴れがましい日になりました。私たちのビューロウ家がダクマー様の手によって復活を遂げたのです。ビューロウ家は、東側の有力な貴族家でありましたが、先の戦いで多くの有望な強者を失い、武家としての力を大きく落としていました。しかし、今日からは違います。皆様もご覧の通り、ダクマー様があの高名なフリッツ・クルーゲを見事に打ち破ったのです」


 エレオノーラが高らかに宣言した。


 闘技場での決闘を終えた私はエレオノーラに連れられてパーティーに参加している。ここ学園の広間の一室には東側の貴族の学生が集まり、立食パーティーを行っているのだ。エレオノーラは落ち目とされていたビューロウ家の復活を大々的にアピールして東側の貴族の結束を強めるのだと言っていた。


 私は目立ちたくなかったんだけど、「あれだけ闘技場で大暴れして、何を言っていますの」というエレオノーラの言葉に逆らえず、なぜか主役の席に座ることになった。


 デニスやコルドゥラは緊張した面持ちで私を守っている。ラーレは逃げようとしたが、私が捕まえた。一人でこんなところに入れるわけがないでしょ!


 彼女は隅っこで護衛とともに小さくなっている。それでも結構いろんな人に話しかけられて、しどろもどろになりながら答えているようだった。うん! 私に声をかける人が減って、いい感じだね!


ちなみにホルストは非参加である。


「しかし驚きましたわ。ビューロウ家はもう剣を捨てたのかと思っておりましたが、まさかこれほどの身体強化術を使えるなんて。後継は次男のイザーク様が継ぐと噂されておりましたが、これではわかりませんわね。次世代はあきらかに、ブルーノ様のほうが・・・、ねえ」


 同じ東側の先輩令嬢がラーレを横目で見ながら笑った。ちょっとムッとして、私は思わず言い返した。


「いえ、でもラーレは私に模擬戦で勝ち越すほど、凶悪な魔法を使えるんです。おじい様が与えた秘伝なんです。詳しくは言えないけど、私よりよっぽど強いです」


 そう断言する私の言葉に、周辺の貴族に動揺が走った。ラーレは、「何言ってんだコイツ」と言う目で私を見た。しかし、ラーレが私に勝ち越しているのは事実だ。まあ向うは護衛付きなんだけどね。


「い、いえ・・・、なに言ってるのよ! こっちは3人がかりで戦ってるじゃない。3対1なんだから、私のほうが勝率が高いのは当たり前でしょう? むしろ、3人がかりで負けちゃう私なんて、大したことないのよ」


 ラーレは慌てて否定するが、驚いて口をはさむのはギルベルトだった。


「何言ってるんだ! 今日のダクマーさんの動きを見ただろ! 3人がかりどころか、10人居たって勝てない貴族も多いはずだ。少なくとも、僕は3人の仲間がいても勝つ自信はない。どんな魔法を使ったんだ?」


 ギルベルトは興奮した様子でラーレに詰め寄った。ラーレは肩を揺さぶられながら、青い顔をして小さな声で否定した。


「い、いえ。私がおじい様から頂いた秘術がダクマーに相性がいいだけです。私なんて、本当に大したことがないんです」


 涙目になりながら必死で否定するが、彼女を囲む人垣は熱くなる一方だ。


「バルトルド様の秘術だって!? くそっ、知りたいけど秘術だから聞けない!! さすがバルトルド様! 魔法も剣も強いだなんて、ビューロウ家は最高じゃないか!」


 ギルベルト、まさかの大興奮だ。彼の言う通り、貴族家に独自の魔法である秘術について聞くことはマナー違反とされている。家中でも秘密にされていて、おじい様が許可した模擬戦でしか使っていない。全然勝てない時もあるけど、よけたり防いだり、ダメージを回復したりで私の修行になっているのも確かだ。


 でもギルベルト、テンション高すぎて怖いよ!


 私がエレオノーラに目で助けを求めると、エレオノーラは笑いながら宣言した。


「皆様、闇魔との戦いが始まる日も近いかもしれません。ですが、私たち東の貴族には、ビューロウ家とウィント家が付いていますわ。不肖ながら、私のロレーヌ公爵家もできる限りご支援させていただきます。東の貴族の結束と力を見せるときは遠くないかもしれません。乾杯!」


 エレオノーラが盃を高く掲げると、他の貴族も「乾杯!」と盃を傾けた。いや、決戦の前に宴会をするって言ってたけど、こんな大騒ぎするとは思わなかったよ! 


 参加した東の貴族たちは笑いながらお酒を飲んでいる。だがその時、ロレーヌ家の家人が、会場に駆け込んできた。


「大変です! 北東の海に、闇魔の大群が押し寄せてきました! ついに闇魔たちが王国に攻めてきたのです!」


 その言葉は、勝利に沸く私たちの目を覚まさせるのに十分な衝撃を持っていた――。



◆◆◆◆


「去年の卒業生はついていないわね。卒業してすぐに戦争に駆り出されることになるわ。まあ、私たちも似たようなものだけど。あと半年ほどで卒業だけど、それまで持つかどうか――」


 ラーレがつぶやくように言った。私たちは寮の部屋に戻ってラーレと少し話をしている。


 私たちが学園に通うのは、こういう時のためだとは聞いていた。80年前、長期化する戦争で優位に戦えるよう、若手貴族を育成するために開校したのが、学園の最初だ。貴族が各々の戦力を強めるとともに、兵士を率いても戦える指揮能力を養っているのだ。


 この国では、貴族とは戦う力を持つ者を指す。去年卒業した学生も、当然のように戦争に駆り出されるだろう。


 あの後会場は重い空気に包まれて、すぐに解散になった。浮かれている人たちの酔いもすぐに醒めた。私たち東の貴族は北ほどではないにしろ敵の本拠地のアルプトラオム島から近く、戦いに巻き込まれるのが確定している。家族がすぐに戦争に駆り出される者も少なくないだろう。


「北部はちょっと心配ね。私たち以上に戦火に巻き込まれるはずだから。あんた、フェリクス様やドロテーさんと仲が良かったんじゃなかったっけ?」


 ラーレの言葉に、ドロテーの顔を思い浮かべる。うん、ちょっと心配だね。


 私たちが住む王国は、ひし形のような形をしていて、領地は東西南北に分けられる。南西と南東には大きな山脈があって通行不能だ。隣国とは南の端でつながっている。


 闇魔が住むとされるアルプトラオム島は王国の北北東に位置しており、北部の貴族は私たち以上に戦火にさらされることになる。


 闘技場で東の貴族が決戦に勝ったという熱はすぐに醒め、戦いが始まったことの不安が私たちを襲っていた。


「私たち、どうなるのかな」


 戦いへの不安を伝えると、ラーレは肩をすくめた。


「卒業までは大丈夫だと思う。学生を動員することはないはずだからね。私は・・・、来年行かなきゃならなくなるかもね。まあ、おじい様次第だとは思うけど」


 そう言うと、ラーレは深刻な表情をして口を閉ざした。


 ゲームでは、私が3年生になった春に、出征が決まるんだよね。闇魔との戦いに参加するかもしれないという恐怖が、部屋の雰囲気を暗くしていた。

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