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転生少女は色のない魔法で無双する  作者: 小谷草
第2章 色のない魔法使いは学園で学びを深める
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第111話 決闘直前の話し合い

 闘技場は学園の外にある。


 試合会場があって、会場を取り囲むように観客席があり、前世の野球場みたいな感じになっている。まあ私はあんまり野球とかしたことないんだけどね。


「お前は何を考えてるんだ! フリッツ・クルーゲは侯爵だぞ! 爵位が上の相手に喧嘩を売るなんて、ロレーヌ家が後ろ盾になっているみたいだが、それでもこっちがどうなるかは分からないんだぞ!」


 闘技場の待合室にいる私を、兄のデニスは面会するなり説教してきた。いや、爵位が向うの方が上なのは分かるよ? でも、喧嘩を売られたんだからしょうがないじゃない!


「勝負を挑んできたのはフリッツなんですけど! 私は挑まれたから勝負するだけなんですけど! それにロレーヌ家の決断を中傷されたんだから、戦わざるを得ないじゃない!」


 私は不機嫌な声で答える。デニスは頭を掻き毟ると、「くそっ! こうならないように立ち回ってきたのに!」と零した。


「デニスはライムントの奴についてるようだけど、やっぱフリッツもそっちの派閥なの? なんかごめんね?」


 私は一応謝った。私のせいでデニスが微妙な立場になるのは、悪いとは思ってるよ?


 デニスは血走った目で私を見つめ、激しく肩を揺さぶった。


「いいか。中央や西の貴族は、根本的に私たちとは考え方が違うんだ。東の貴族や平民の命なんて、何とも思ってない人が多い。フリッツなんかはその典型だ。気に入らないからつぶす。あいつらはそんな感情で私たちの命を奪おうとする。もっと立ち回りに気を配ってくれ」


 う~ん、デニスは必要以上におびえてる気がするな。正直、フリッツがそこまで強いとは思えない。それとも、同じ上位クラスだから本当の実力を知っているとでもいうのだろうか。


「フリッツって、そんなに強いの? 正直剣術の授業とかこの前の魔物退治を見る限りだと、強いようには思えないんだけど」


 私の言葉に、デニスは頭を抱えた。


「そうじゃない! 爵位が上の相手に無暗に噛みつくのが問題だと言ってるんだ! 相手は侯爵家で私たちは子爵家だ! 学園ではある程度身分差はみなくなるからと言って、上下関係がなくなるわけじゃないんだぞ!」


 私は思わず噴き出した。即答を避けるということは、やっぱりデニスもフリッツの実力が大したことないと思ってるんだ! 私は嬉しくなって、デニスに気になっていたことを聞いてみた。


「ねえ。デニスから見て、上位クラスで強い人っているの? せっかくだから教えてよ」


 私はワクワクしながら聞くと、デニスは怒りに顔を赤くした。でもすぐに下を向くと、あきらめたようにため息を吐いた。


「お前が考えている通りだ。上位クラスだからと言って、強い奴ばかりが集まっているわけではない。学業や爵位が優れているから在籍しているものも多いからな。生徒でかなわないと感じるのは、ロレーヌ家のエレオノーラ様とフランメ家のハイデマリー様くらいだな。他は短杖の扱いはうまくても制御は散々さ。ギルベルト様ですら、私ほどの魔力制御がないと感じるな」


 やっぱりエレオノーラは別格なのか。でもライムントはともかく、ギルベルトの魔法制御がそれほどではないのは意外だった。


「ギルベルトってすごいイメージがあるんだけど、それほどじゃないの?」


 なんとなく気になって聞いてみた。デニスはあきれたように私を見るが、それでもちゃんと答えてくれた。


「すごいんだが、ラーレ姉さんを見た後だとな。彼は魔力過多で、高い魔力があるのは分かるが、それでもラーレ姉さんほどうまく魔法を使えないように思う。魔力過多にしてはきれいに魔法を使うと思うけどな」


 そう答えたとき、この部屋をノックする音が聞こえた。闘技場の職員が私に尋ねてきた。


「ダクマー様。ロレーヌ家のエレオノーラ様がお越しです。開けてもよろしいでしょうか?」


 私は思わずデニスの顔を見た。でも待たせるわけにはいかなくて、「ど、どうぞ!」と答えた。デニスは慌てて私に言い聞かせてきた。


「いいか! 絶対に殺すんじゃないぞ! あれでも爵位が上の相手なんだ。侯爵家と敵対するとかなり厄介なことになる。分かったな!」


 デニスが慌ててそう言った時、エレオノーラが入ってきた。珍しいことに、あの土と水の長杖を持っている。


「あら。デニスも来ていたのね」


 エレオノーラがそう言うと、デニスは慌てて直立不動になる。そして固まったようになると、エレオノーラに一礼した。


「いえ。もう用は終わりましたので、すぐに失礼します。ダクマー、わかってるな。では」


 そう言うと、デニスは迅速に出ていった。あまりに素早い動きに、呆然と背中を見送った。


「おじゃまだったかしら? それともデニスに何か言われたの?」


 心配そうに尋ねるエレオノーラに、私は肩をすくめて見せた。


「うん。ちょっと心配された。私がフリッツを殺さないか、不安だったらしいよ」


 エレオノーラは思わず吹き出した。


「なんか、あなたが負けるとはかけらも思ってないようね。あなたたち、仲が悪いんじゃなかったの? 学園に来るときも同行してなかったみたいだし」


 うーん、周りにはそうみられているのか。でも私はデニスに含むところはない。仲がいいとは言えないかもだけど、それほど嫌い合ってるわけじゃないのだ。お互いに、困っていたらさりげなく助けあったりしてるしね。


「うーん、普通じゃない? ほら、異性の兄妹って、そんな感じじゃん。まあ、ライムントやフリッツに絡まれるのは、ちょっとかわいそうかなと思うけどね」


 デニスの教室での様子を思い出したのか、エレオノーラは苦笑した。


「確かに、デニスはライムント様に顎で使われて大変だなと思うわね。子爵家の貴族だから王族には逆らえないみたいだし。でも、あの人もあなたの実力を認めてるとは思わなかったわ」


 デニスとはいつも修行してたからなぁ。新しい魔法を覚えたら絶対試し打ちに付き合わされたし。ひどいと思わない? まあ、ほとんど避けてみせたけどね!


 デニスはラーレから魔力操作のコツなんかを聞いたりしている様子も見かけた。私たち孫の中で、一番おじい様に似ているのはデニスだと思う。


「あいつ、家にいたときはよく一緒に修行したし、私の様子を見に来ていたんだ。だから私の実力もよく知ってる。おじい様に言われたこともちゃんと守ってるし。あれでも魔力操作はアメリーよりもかなりうまいからね」


 デニスのことを思い出したのか、エレオノーラは納得の表情を見せた。


「確かに、クラスの授業でも魔力操作が上手いなと感じることはあるわね。そうか。デニスはあなたの兄というよりも、バルトルド様の弟子と言う側面が強いのね。あなたの勝利を疑ってないみたいだし」


 エレオノーラは納得の表情だが、私には気になっていることがある。エレオノーラが持っている長杖だ。


「その杖、どうしたの? それって、学園に来るときに持ってたものだよね? 結構かさばるものだと思うけど、わざわざ持ってきたの? 私なんて、今日使う武器も向こうに用意してもらうのに」


 私が尋ねると、エレオノーラは一瞬ぎょっとした。


「え? 闘技場って、武器は職員が用意するものなの? 初めて聞いたんだけど?」


 へ? いや、当たり前のように向こうが用意すると言ってきたんだけど・・・。そういえば、その職員は妙にニヤニヤしていたなぁ。


「まあなんでもいいや。フリッツ程度なら武器は選ばないし」


 エレオノーラは怪訝な顔をすると、私の質問に答えてくれた。


「ここに来る前に、闘技場の地脈によってきたのよ。一応、お父様からこの杖を持って詣でるように言われたから。まあ、大したことはしてないんだけどね」


 その言葉を聞いて思い出す。確か、前に杖を持って寺院に行ったときは、心霊現象が起きたんじゃなかったっけ?


「エレオノーラ! 大丈夫だった? 幽霊とか出なかった? 危険なことがあるなら私が戦うから、すぐに言うんだよ!」


 エレオノーラは一瞬真顔になると、すぐに表情を緩めて噴き出した。


「今日は、あなたの方が危ない目に遭ってるじゃない! ホント、マイペースと言うかなんというか・・・。フリッツのこと、全然気にしていないのね」


 そう言うけと、フリッツごときは私の敵ではない。私はからかうようにエレオノーラに笑いかける。


「エレオノーラは、私のこと心配? 私が負けるかもしれないって思う?」


 エレオノーラは余裕の笑みを浮かべている。


「まさか。あなたが見て問題ないと思うなら必ず勝つでしょう。でもデニスの心配も分かるわ。一応あんなだけど、殺しちゃだめよ。腕の一本や二本は構わないけど、生かして帰しなさい」


 ちょっと怖いことを言ってきた。エレオノーラもデニスも、私のことを何だと思っているのか。憮然とする私を見て、エレオノーラは再び笑い出した。


「試合が終わったら祝勝会よ。今日からはもう、私たち東の貴族が侮られることはないはずですから」


 エレオノーラは笑い声をあげながらそう言ったのだった。

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