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転生少女は色のない魔法で無双する  作者: 小谷草
第2章 色のない魔法使いは学園で学びを深める
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第108話 クルーゲに挑まれる ※ 後半 フリッツ視点

「ダクマー様! お待たせしました!」


 私は護衛たちの待機室でコルドゥラと合流した。彼女は手に包みを持っている。あの中にはおじい様から渡された魔力板が入っていたりする。


「ううん。私も今来たところなんだ。じゃあ、行こうか」


 そう言って、一緒にゲラルト先生の道場へと向かった。


 昨日、当然のごとくビューロウの剣を学びたいと言った二人に、今日授業が終わった後に道場に来てくれるようにお願いしたんだよね。一応そこで、コルドゥラの手を借りてビューロウの魔力制御を教えることにしたんだ。


 外はもう暗くなってきている。一応、午後の授業が終わった後だから、遅い時間になるのは仕方ないんだけど・・・。


 道場の前に行くと、中から怒声が聞こえてきた。誰かが言い争っている気配がするのだ。


 私はコルドゥラと顔を合わせると、すぐに道場の扉を開いた。


「ふざけるなよ! 下級貴族の分際でこの俺に説教しやがって! おまけに父上に告げ口とは、お前! 立場が分かってるのか!」

「何を言われても私の考えは変わらない! 君がさぼればその分だけ他の者と差ができる。強くなりたいのなら、私の授業をしっかり聞きなさい! 当主様は君に必要だと思ったからこの授業に出るように言ったのだ! その思いを無にすることは許されない!」


 言い争っているのは、フリッツとゲラルト先生だった。うわぁ。ゲラルト先生と誰かがもめているなら助けようと思ったけど、なんか面倒なタイミングで来ちゃったなぁ。


 どうしようかな。しばらく時間を潰そうかな。


 私が引きつった笑いを浮かべていると、同じような顔をしたジークと目が合った。ジークは近づいてきて、ため息をつきながら私に事情を説明してくれた。


「なんか、フリッツ様がこの道場に立ち寄ってな。それを見つけてゲラルト先生が問い詰めたんだ。『昨日はなぜ勝手に休んだんだ』ってな。それからフリッツ様と口論になってさ」


 おおう。そうなのか。


 まあ、ゲラルト先生の立場ならフリッツを叱るのは当然のことだよね。でもフリッツは爵位のこともあってゲラルト先生に従うのは我慢できないらしかった。


「いい加減にしろ! 父上の覚えがめでたいからと言って、告げ口なんぞしやがって! オレが爵位を継いだら覚えておけよ! お前の居場所なんか、簡単に奪ってやるからな!」


 脅すように言うフリッツに、しかしゲラルト先生は平然と腕を組んだ。


 ゲラルト先生は身長が低くずんぐりした体形だ。対してフリッツは背も高くマッチョって程じゃないけど筋肉も付いている。普通なら、ゲラルト先生が追い詰められているように見えるはずだけど、私にはゲラルト先生が平然と立ち塞がっているように見えた。


 なんか、今の光景は、酔っぱらったフリッツが壁に向かって文句を言っているように見えるんだよね。言っても無駄なことをしているというか、なんというか。


「いい加減、俺に従え! 下級貴族なら上位貴族のオレに従うのは当然のことだろう!」

「私はクルーゲ家の当主様の命を受けてこの場にいる。君の父上の命を受けてな。それともなにか? 君は君の父よりも立場が上だとでもいうのか?」


 おお! ゲラルト先生ってば、攻めるな。いつもと違ってかなり逆らっているように見えるんだけど! まあでも正論だよね。まだ爵位を継いでいないフリッツに従う義理なんてない。


 フリッツはものすごい顔でゲラルト先生を睨んだ。


「があああああ!」


 そして一吠えすると、床を剣で激しく叩きつけ、回れ右をした。どうやら道場の外に行こうとしたみたいだ。だが、そこで私と目が合った。


 フリッツの目がみるみる憎悪に染まった。


 え? 私、なんかした? コイツに絡むことなんてなかったと思うけど・・・。


「おまえが! おまえのせいで!」


 そして一瞬で水の魔力を展開すると、手に持った木刀を振り上げて突進してきた!


「ダクマー様!」


 コルドゥラが一瞬で私をかばうように前に出たんだけど・・・。

 

 キィィィン!


 武具同士がぶつかり合う音があたりに響いた。


 フリッツの凶行は、ゲラルト先生の盾であっさりと防がれたのだ。


 あの一瞬で私とコルドゥラの前に移動して、フリッツの攻撃を防いだというの!? すごくない?


 私は迎撃しようと持った木刀をそのままに、しばしゲラルト先生の美技に見とれた。


 これが、クルーゲの防御技術! こんなすごい人に技を教わってることができるなんて、やっぱり学園って豪華だよね!


「当主様のご子息とはいえ許されぬぞ! 私が預かった道場で、私の教え子に手を掛けようとでもいうのか!」


 ゲラルト先生の怒声が響く。フリッツは気圧されたように、一歩二歩と下がってしまう。


「このことは当主様に報告させてもらうぞ! 簡単に許されると思うなよ!」


 厳しい声を上げるゲラルト先生に、しかしフリッツは顔を赤らめて叫び返した。


「だまれ! 下級貴族の分際で! 父上がお前の言うことなぞ、信頼するはずがないだろう!」


 そして血走った目で私を見た。


「ビューロウ! このまま済まされると思うなよ! すぐにこの学園から追い出してやるからな!」


 そう宣言すると、肩をいからせて外に出ていった。


 いや、私関係ないよね? 授業をさぼったのも自分のせいでしょ? 自業自得じゃん!


 でもゲラルト先生は愁いを帯びた目で私に頭を下げた。


「ダクマー、すまん。フリッツはなぜかお前を目の敵にしているんだ。すぐに学園に報告するが、どうなるか分からん。フリッツは高位貴族だし、バックにはライムント様がついているからな」


 そう言って、すぐに駆け出していく。おそらく、学園長に報告に向かうのだろう。


 先生も大変だね。私としては、すごい技が見られたからラッキーって感じなんだけど。


「ダ、ダクマー。大丈夫なのか?」


 ジークが恐る恐る聞いてくるが、私はとびっきりの笑顔で答えた。


「ジーク。今、見たよね?」


 笑顔で話す私に驚いたのか、ジークは若干顔を引きつらせながら答えてくれた。


「あ、ああ。フリッツ様の身体強化だろ? すげえ魔力だったな。高位貴族の強さを見た気がするよ。あんなに濃い魔力を一瞬で展開するなんてな。お前もさすがに肝が冷えたんじゃないか」


 へ? いや、何言ってるの?


「そうじゃない! フリッツの技なんて全然大したことないよ! あんなの、うちのデニスだったらもっとスムーズにできるよ! それよりすごいのはゲラルト先生だよ! コルドゥラも見たでしょう!?」


 大興奮の私に若干引きながら、コルドゥラが答えた。


「は、はい。さすがですよね。一瞬で私たちの前に移動して、そして高位貴族の強力な魔力が籠った一撃を簡単に防いで見せた。正直、あの足運びはラーレ様を彷彿とさせられました」


 うんうん。そうだよね。


 あの防御技術はさすがクルーゲ流だ。伊達のこの学園で教員をしているわけじゃないんだね!


「いやお前こそ大丈夫なのか? フリッツのやつ、お前を目の敵にしているみたいだぞ」


 ジークの心配をよそに、私の興奮は止まらない。これって誇るべき見事な技術だよ!


 そんな私を見て、ジークはあきれたようだった。


「多分な、取り巻きになった生徒たちから聞かされてんだよ。ゲラルト先生が厳しいのはお前のせいだってな。前にフリッツ様が大声で愚痴ってたんだ。『魔力が使えないくせに口ばっかり達者で、教員に取り入ってる』とか言ってたな。周りの取り巻きもそれに同調してた。ホルガーの奴、こんなことやっていいはずがないのに・・・」


 心配するジークをよそに、私は言葉をゲラルト先生の行動を褒めたたえる言葉を続けた。


「ジークは、もっとゲラルト先生から学ぶべきだよ! 足回りや目の付け方なんかを学べば、アンタは一段上に行ける! もちろん、私だってビューロウの魔力の使い方を教えるからね! うん! 私は新しい流派が盛り上がる姿を目の当たりにできるんだ! すごくない? ねえ、ちょっと聞いてる?」


 熱く語る私に、ジークはあきれたような顔をするのだった。



※ フリッツ視点


 あの後学園長室に呼ばれてかなり長い時間拘束された。


 ゲラルトの奴が余計なことを言ったらしく、一時はオレにかなり厳しい処罰が課せられるところだった。だが、ライムント様がとりなしてくれたおかげで、なんとか解放される運びになったのだが・・・。


「フリッツよ。このようなこと何度も許されると思うなよ。私の側近が処罰されたら私の名にも傷がつく。だから、父上が手を貸してくれたのだ。今回は上手くいったが、あの叔父上を何度も説得させられるとは思うなよ」


 オレは黙って頭を下げた。


 ライムント様はあきれたように肩をすくめるとそのまま立ち去っていく。護衛のマルティンが冷たい目でオレを一瞥し、その後ろに続いた。


 怒りがこみ上げたオレは、思いっきり壁を叩いた。


 そんなオレに近づく人物がひとり――同じ学年の中位クラスに属するホルガーだ。


「フリッツ様。とんだ目に遭いましたね」


 オレは歯ぎしりしながらホルガーを睨んだ。


 おそらく、父上にも報告が行くはずだ。そうなれば、かなりぎびしく叱責されるのは目に見えている。その前に、向こうが悪いことを証明しなければならないのだが・・・。


 ゲラルトの授業に出るよう命令したのは父上だった。父上はなぜか、下級貴族であるアイツの授業に出るように言ってきたんだ。あいつが担当するのは初級で、平民も参加するというかなりレベルの低い受業なのに・・・。


「あの加護なしは調子に乗ってるみたいですよ。高位貴族であるフリッツ様の実力が大したことないってね。ロレーヌ家の側近に選ばれたからって、生意気だとは思いませんか」


 暗い目でそう言い放つホルガーに心の底から同意する。


 そうだ。俺が大きな恥をかいたのに、アイツだけ何もないのは許せない。あいつも恥をかくのは当然のことなのに・・・。


「ああ。落ち目のビューロウのくせに調子づきやがって。あいつの実力がハリボテだって、全員の前で分からせてやる。この学園にはオレ達を支持する人間が多いことを思い知らせてやるさ」


 そしてオレはホルガーの言葉を真に受けて、ビューロウへの復讐を誓うのだった。

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