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転生少女は色のない魔法で無双する  作者: 小谷草
第2章 色のない魔法使いは学園で学びを深める
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第102話 南の森で

 私たちは王都の南の森を進んでいく。討伐対象はキラーエイプ。飛び跳ねたり木に登ったりするので、森での脅威度は高い。短時間なら、身体強化も行えるらしい。魔力は火属性だから、長時間は強化できないみたいだけどね。


 それより気になるのはフリッツだ。なんかいつもより魔力の流れが変なんだ。調子悪いとかじゃないみたいだけど、気になるんだよね。


「ねえ。フリッツの魔力って、なんか変じゃない? 流れがいつもと違うというか」


 私が尋ねると、エレオノーラは意外そうな顔をした。


「魔力の流れって、そんなことわかるの? そういえば、示巌流には目で相手の動きを補足する技があったよね。もしかして、それ?」


 興味津々で聞いてくるエレオノーラに、私は声を顰めながら答えた。


「うん。それもあるけど、無属性魔法で目を強化すると、魔力の流れが見えるんだ。なんかあいつ、いつもよりスムーズに強化してる感じがするんだけど。身体強化用の魔法を使っているわけじゃないよね?」


 私が答えると、エレオノーラは納得した様子だった。


「フリッツは鎧の下に身体強化用の魔道具を装備しているらしいの。西のほうで開発された、アンダーウェアみたいなものよ。それを着ると、あんまり意識しなくてもスムーズに身体強化を行えるらしいわ」


 うわあ。身体強化も魔道具だよりなのか。そんなんで強くなれると思ってるの?


 私がドン引きしていると、デニスが私たちの歩みを止めた。そして声を潜めて、私たちを振り返る。


「ストップです。この先に、キラーエイプたちが待ち構えているようです。どうやら、相手もこっちに気づいているように感じますね。警戒しているようですよ」


 さすが魔法の名手。なんだってこなしちゃうんだからね。敵の存在をいち早く知らせてくれた。


 私たちは身を隠しながら進むと、キラーエイプたちがあたりを探っているのが見えた。何やら鳴き声を交わしながら、あたりを確認し合っている。時折こちらの方向を指さしていたりする。私たちのことを探しているのだろうか。


「くっくっく。やっと出番だな。オレの力を見せてやるぜ」


 フリッツが剣を抜く。クルーゲ流の剣士として、一番槍を担うらしい。


「お前たちはそこで見ていろよ。この程度の魔物、簡単に斬って見せるからよ」


 言うや否や、キラーエイプの群れに突撃していった。


「フリッツ! 勝手なことを! 戻りなさい!」


 フーゴと言ったか、上位クラスの折り目正しい少年が、フリッツを制止しようとした。しかしフリッツは私たちを一瞬振り返ると、ニヤリと笑ってキラーエイプに斬りかかていく!


「はっ! もらったぞ!」


 フリッツは迅速に動いてキラーエイプに剣を振り下ろす!


 しかしキラーエイプはその一撃を後に飛んで簡単に躱した。


「きゃっきゃっきゃ」


 おぞましいことに、キラーエイプがフリッツを嘲笑している。そして一匹が素早く木に登ってフリッツに飛び蹴りを浴びせた。


「くそっ!」


 フリッツは何とか盾で攻撃を防ぐが、体勢を大きく崩してしまう。悔しげにキラーエイプを睨むが、あんな大ぶりの一撃、当たるわけがない!


 でもね。


「はあ!」


 私はアンダースローで手のひらサイズの石を投擲した。石はキラーエイプの魔力障壁を打ち破り、その顔面に直撃した。


「ぎゃああ!?」


 思わず鼻面を抑えるキラーエイプに、デニスが追撃の魔法を放つ。


「ウォーターカッター!」


 水の刃は、キラーエイプを斜めに斬り裂いた! 魔法を受けたキラーエイプは、傷口を抑えてそのまま倒れ込んだ。これで一匹!


「すごい! 魔力障壁持ちの魔物を簡単に倒すなんて! これが上位クラスの実力!」


 クリストフが感嘆の声を上げた。


 デニスめ! 私の動きを読んでいたな! 魔力障壁が緩んだ隙を逃さず追撃するなんて、さすがとしか言いようがない!


 しかし、残りのキラーエイプは怒りに顔を赤くしているようだった。


「きょえええええええええええ!」


 叫び声をあげると、私たちに襲い掛かってきた。


「ジーク! 私たちは前衛に! エレオノーラやデニスの盾になるんだ!」


 そう言って私はエレオノーラたちをかばうように前に出る。ジークも右に半身になりながら私の隣に並んだ。


 キラーエイプは木々を渡り歩きながら私に接近してきた。


「はああああああ!」


 私は無属性魔法を展開する。こまめに移動しているみたいだけど、私の結界内で逃げられると思うなよ!


「ギャギャギャギャ」


 笑いながら襲ってきたキラーエイプの腕を、剣であっさりと切り払う。命こそ奪えなかったものの、その腕は使い物にならないだろう。


 ジークは一瞬戸惑ったものの、私の隣で右腕の盾を構える。そうそう、盾をちゃんと使ったら、魔物と言えども簡単には抜くことができないからね。


「ハイドロプレッシャー!」


 私が腕を斬ったキラーエイプに魔法を放ったのはフーゴだ。水の一線は、キラーエイプののどを簡単に貫いた。


 この人、大人しそうな恰好をしてやるね!


 順調は私たちとは裏腹に、苦戦を強いられていたのがフリッツだった。2匹のキラーエイプの連携攻撃により、少しずつ下がっていくのが見えた。


「くそがぁ! 邪魔なんだよ!」


 フリッツは剣を振るうが、キラーエイプはあっさりと躱す。そして、フリッツ目掛けて蹴りを放つ。あの魔物、攻撃する際に身体強化を使ったな! フリッツはなんとか盾で防いだものの、その威力に1歩、2歩と下がってしまう。


 キラーエイプは笑いながら、フリッツに攻撃している。フリッツは反撃を試みるが、後ろに飛んだり木に登ったりで、簡単に避けられてしまう。


 森でのキラーエイプって本当に厄介だ。


「このまま終えられるかよ!」


 フリッツは盾を構える。そして防御態勢になったまま、魔物が攻撃するのを待ち構えているかのようだった。


 そしてキラーエイプが攻撃してきた瞬間に、盾から魔法を解き放った!


「うかつなんだよ! オーフォレン!」


 盾から放たれた青い魔力の波動が、キラーエイプに直撃して吹き飛ばした!


 あれは、クルーゲ家の秘術の水魔法か! クルーゲ流って、盾や鎧に魔力を籠めるのを得意としているって聞いたことがある。敵が攻撃した瞬間にカウンターを与えられるなら強力かもしれないけど・・・。


 でも、その一撃は悪手だ。吹き飛ばされたキラーエイプは即座に立ち上がっていた。


「くっ! ウォーターボール!」


 クリストフが慌てて追撃の魔法を放つが、キラーエイプはそれすらもあっさりと躱して木の上へと姿を消していた。


「くそがぁ! おい! 後衛ならしっかり仕留めろよ!」


 いや無理だろ。クリストフはカウンターの魔法を放つなんて知らなかったし、デニスとフーゴは大技を打ったばかりだ。エレオノーラも、追撃を放てる場所にいない。勝手に突出した前衛を援護することなんてできないはずだ。


 多分、地元では護衛の人が上手くやって手柄を立てられたんじゃないかな。でも、同格の学生の中にいれば、実力が足りないのは明らかだ。個人戦はある程度できるみたいだけど、周りと連携する能力が全然足りていない。


「ぎゃぎゃぎゃ!」


 私たちの連携の不備を見て、キラーエイプが笑いだした。そして空中から私に突撃してくる。盾を持っていないことを見越しての攻撃だろうけど、甘い!


「秘剣! 鷹落とし!」


 突撃するキラーエイプに合わせて剣を下から上へと斬り上げた!


 私の一撃は、キラーエイプを魔力障壁ごと斬り裂いていた。


「! まじかよ!」


 決まったな! 左手一本で剣を握り残心の構えになる。


 隣でジークが目を見張った。今の一撃は、タイミングも威力も申し分なかったと思う。どやぁ!


「ウォーター!」


 エレオノーラがフリッツを狙っていたキラーエイプに魔法を放った。


 エレオノーラから放たれた水弾は3発。一度の詠唱で複数の魔法を発現できるあの技は、ロレーヌ家の秘術と言われている。ロレーヌ家には他にも秘術があるらしいし、東をまとめる貴族として申し分ない実力だよね!


「このまま敵を殲滅しましょう! フーゴ! デニス! 行けるわね!」


 エレオノーラの指示に、2人が頷くのが見えた。


 私たち前衛がきっちり守り、エレオノーラたち後衛が魔物を仕留める。ここにきて連携がうまく作用したようで、キラーエイプたちは徐々に数を減らし、やがて最後の一匹を、デニスの魔法が仕留めていた。



◆◆◆◆


「くそっ! これがビューロウの実力かよ。落ち目なんじゃなかったのかよ」

「やっぱり武の三大貴族はすごいね。簡単に魔物を倒すなんて」


 ジークとクリストフがつぶやく声が聞こえた。でも2人とも、初討伐の割には自分の仕事をちゃんとこなしていたように見える。特にクリストフは要所要所で魔法をうまく使っていたしね。


 私も目立ったけど、今回の戦いの敢闘賞はデニスだと思う。魔法の選択も的確だったし、傷ついたキラーエイプを確実に仕留めていた。魔法使いはかくあるべきだということを体現していたと思う。


「さすがですね。僕も魔物を倒したと思いますが、デニスには負けました」


 そう言ってデニスを称賛したのは、フーゴだった。でもこの人も、デニスに負けず見事だった。魔物を倒したり足止めしたりでかなり活躍していた。これが初陣らしいけど、きっちり魔物を仕留めていたのは称賛に価すると思う。


 反対に、あまり活躍できなかったのがフリッツだ。クルーゲ家の秘術も使っていたけど、全然効果的じゃなかったし、勝手に突出したせいで、仲間の援護をもらうこともできなかった。


「ふざけるなよ! お前ら東の貴族だからって、オレの時だけ手を抜きやがって! お前らがちゃんと動けていたら、オレの撃退数はもっとあげられただろうに! オレが戦果を挙げられなかったのはお前らのせいだからな!」


 フリッツがデニスに食ってかかった。


 デニスは爵位が上のフリッツに絡まれて戸惑っていた様子だった。


「フリッツ。あなたは、私たち東の貴族があなたを援護するのをためらったというのですか? それが、クルーゲ家の意見と言ってもいいのですね」


 エレオノーラが冷たい目でフリッツを見つめている。フリッツは爵位が上のエレオノーラにはさすがに文句が言えないみたいだった。言葉に詰まり、私たちをすごい形相で睨みながら、ずんずんと立ち去っていく。


 そんなフリッツを見て、フーゴがエレオノーラに謝罪した。


「エレオノーラ様。フリッツに代わってお詫び申し上げます。フリッツは今回の戦いに賭けていたようなのです。地元では、彼の当主様から魔物退治を禁止されているらしいですし、今回は私が同行するのが条件で魔物退治の許可が下りたようですから」


 フリッツはここで功績をあげて自分の力をアピールしたかったようだけど、連携も考えず突っ走るだけじゃなぁ。私が当主の立場でも、フリッツを連れていくことはないだろう。


 私が一人納得していると、フーゴが私に向き直った。


 え? なに?


「ダクマー様もお気を付けください。フリッツの中で、あなたが邪魔をしたと考えているかもしれない。彼につけ入れられる隙を作らないよう、十分注意してくださいね」

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