第101話 念願の魔物退治
「ダクマー。ちょっといいか」
ある日の午前中、私はガスパー先生に呼び止められた。最近はおとなしくしているはずなのに、一体何の用なんだろう。なんか怒られるわけじゃないよね?
「何かありましたか?」
私が疑いのまなざしで聞くと、ガスパー先生は渋い顔をした。
「実は、王都の南の森でかなりの数の魔物が確認されたんだ。普段は兵士たちが戦うんだが、学園に討伐依頼が回ってきてな。生徒にとっては貴重な実戦経験を積むチャンスになる」
王都の南って、スポットが発生しやすいらしく、たびたび魔物が現れることがあるんだよね。でもどうしてその話を私にするんだろうか。
いやまてよ。もしかしてこの流れって・・・。
「魔物の規模を換算し、今回は1年生が討伐に当たることにいなったんだ。お前やデニスはバルトルド様から魔物討伐の許可が出ている。魔物の群れが発生したとき、当主の許可を得ている生徒から参加者を募ることになっているんだが、今回は参加してみないか」
おお! ついにこの日が来たんだね! ザシャ先輩から聞いていたけどついに私にもこの話が来るとは!
学生の保護者には、あらかじめ魔物討伐に参加させてもいいかを聞いているらしい。そして保護者の許可を得た生徒から、先生がこれぞと思った人に声をかけて確認を取るらしい。
私の答えは決まっている。
「行きます! 魔物の群れだって、きっと倒して見せますから。刀の錆にしてあげますよ」
私は元気よく返事をした。
魔物をほおっておくと住民に被害を出しちゃうから、私たち貴族がちゃんと戦わないといけないと思うんだ。
あ、でも私以外にも参加する人がいるのかな。
「ちなみに、同じクラスからはクリストフとジークが参加する予定だ。上位クラスからはエレオノーラとフーゴ、フリッツの参加が決まっている。今、デニスの確認をしているが、参加するのはこれくらいかな。あんまり数がいればいいというものではないからな」
なんと、エレオノーラも参加するみたいでちょっと安心する。でもフリッツもいるのは嫌だなぁ。きっとまたなんか言ってくるだろうし。
「魔物とは君たちの力だけで魔物と戦うことになるが、いい経験になると思う。心して掛かってくれ」
◆◆◆◆
私たちは竜車で南の森に向かうことになった。
「けっ! ビューロウの狼もどきと一緒とはな。俺だけで十分なのによぉ」
「やめるんだジーク! ダクマーさんごめんね。今日はお互いに頑張ろうね」
私に文句を言うジークをクリストフがなだめてくれた。、今回うちのクラスから参加するのは前衛のジークと後衛のクリストフか。2人とも保護者の許可は得ているようだけど、魔物の討伐経験はあるのかな。
「ジーク。今回はここにいるメンバーは仲間だ。お互いを貶めるような口は慎みなさい。君だって、実戦経験が豊富わけではないんだから」
ガスパー先生の言葉にジークは鼻白んだ。
なんだ。偉そうなことを言ってるくせに、ジークには実戦経験があんまりないんだね。ジークは右手に盾と盾と一体化した籠手を装備し、気合十分に見えるけど、魔物と戦った経験はないらしい。
「ちっ! なんだよ! お前だって魔物と戦うのは初めてだろう! 余裕見せてもビビってるのは分かってるんだからな!」
へ? こいつ、何言ってるの?
「いや、私は魔犬を倒したことはあるし、リザードマンを踏みつけたこともある。オークの群れとも接敵したし、魔力障壁の魔物だって倒したことがあるよ」
闇魔を斬ったこともあるけど、これは一応ないしょだ。どんな魔物が現れたか知らないけど、先生たちが学生でも倒せると判断したなら、問題ないと思う。
2人は私の答えに驚いた様子だった。それを見て、ガスパー先生が仲裁に入った。
「ほら。そこまでにしておけ。南の森はもうすぐそこだ。上位クラスの生徒は先についている。お前たちも、さっさと準備をするんだ」
◆◆◆◆
竜車から降りると、上位クラスの先生と生徒たちが一斉にこちらを見たのが分かった。
「遅かったな。私は上位クラスの担任をしているフーベルトだ。今回は私たちは最小限しか手助けしない。君たちは私のクラスの生徒と協力して魔物の群れを倒してほしい」
この先生、中央の名家であるゴルドー家から派遣されたらしいけど、偉そうで苦手なんだよね。今も私たちのことを見下すような目をしているし。
「ふん! ビューロウの出来損ないが。俺達の足を引っ張るなよ」
フリッツは相変わらず偉そうだった。
私は眉をひそめる。フリッツはなんか、いつもと違う気がするんだよね。いつもより魔力の流れが変というか・・・。
疑問を感じる私を置いて会話は進む。
「私たちは共に戦う仲間なんですから、いきなり敵視するのは感心しませんわ。フリッツ様は魔物と戦うのは初めてなんでしょう? それなら、戦う前に仲間割れするようなことは避けるべきですわ」
エレオノーラがびしりと言うと、フリッツは不満そうに顔をそらした。コイツ、偉そうに言ってるくせに、実戦経験はないんだな。そういえば、当主から魔物退治に同行させてもらっていないとゲラルト先生が言ってた気がする。
私があきれてフリッツを見ていると、デニスが魔法を唱えた。
「サッチャー・ナッチ!」
デニスが使ったのは、ロレーヌ領でギルベルトが使った魔物を探す探索魔法だ。
「ここから南西に、2000歩といったところです。10体ほどの魔物が確認できました。慎重に進みましょう」
おお! さすがデニス! こんなにあっさりと敵を見つけたよ! 私以外の中位クラスのメンバーも、一様に驚いたようだった。
「さすが上位クラス。こんなに簡単に魔物の動きを補足するだなんて」
クリストフが驚いたようにつぶやいた。やっぱりデニスの魔法の腕は、他の生徒から見ても優れているらしい。
「よし。さっさと言って倒そうぜ。オレの力を見せてやるぜ」
フリッツは戦闘経験がないくせに偉そうだった。先頭に立ってずんずんと進んでいく。それを見て、フーベルト先生が慌てて後を追った。
「やっぱりあなたも来たのね。魔物と戦う機会を逃すわけないと思ったわ」
私に話しかけてきたのはエレオノーラだった。いきなりの大物登場に、クリストフとジークが驚いたのが分かった。
私は気にせずエレオノーラに聞いてみた。
「ねえ。今回の魔物って、どんな相手なのか知ってる?」
エレオノーラは頬に手を当てると、あっさりと答えてくれた。
「そっちのほうには正確な情報が行ってないみたいね。キラーエイプよ。火属性を持つ、猿の魔物。森で戦うには厄介な魔物なのよ」